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Magick.17


 王都アルカイドでは、盛大な花火が朝から打ち上げられ続けています。

 そう、今日は国民が待ちに待った魔法大会の開催される日です。

 この祭りに参加しようと、マナフロンティアの各地から馬車や徒歩で来る人で、道はどこもごった返しています。長蛇の列は・・・ん~、終わりが見えませんねぇ。

「憲兵!憲兵!」

「まだ進まないのかね?」


「はぁ・・・ご覧の有様でございまして」


「わしはミザール地方の貴族、イシュー喉なるぞ」


「そういわれましても・・・この状況ですし」

 横から口をはさむ者がいますよ。

「貴族かなんか知らないけどさ、私もフェグダから店休んで来てんだわ」


「俺だって、アリオトからはるばる来てんだ」

 皆さん、もうどれくらい待っているのかわかりませんがずいぶんイライラしているようですね。おや、あっちでも同じように騒いでいますよ。あれは・・・ミトじゃないですか?

「だからぁ、うちは出場するんだって」


「今本部に確認を取ってくると言っているだろ」


「開会式に間に合わんやろー」


「さっきからお前の様な奴が何人もいるんだ!」

「確認をするまで何と言われても通せん」

 この位置では・・・確実に開会式には間に合いませんね。


 王都内部の方へ足を進めてみましょうか。

色々な店が所狭しと立ち並び、祭りを盛り上げています。メイジ=フランソワも出店してるみたいですよ。

「大会グッズはうちでしか手に入らないよ!」

「テレジア嬢のマスコット人形に、リーベル様のうちわ」

「聖騎士ローザスのお面もあるよー」

 本人に許可、取ってるんでしょうか?逞しいですね、フランソワは。

それにしても、人、人、人、もう何が何だか・・・。

 城の前に設置された演武場の入口付近では、チケットを売っている怪しげな男がいますね。どこにでも、ああいう人いる気がします。


 ―ジャーン、ジャーン


 演武場の入口でドラが大きく鳴らされます。

「ただ今より開場致します」

「出場者の方は順にエントリーを済ませてください」

「尚、自分の出番までに会場にいらっしゃらない場合は不戦敗とさせて頂きますので、ご了承ください」


「観客の皆さんは、東西に設置してある門からの入場をお願い致します」


「一日目に行われるのは、エリオル魔法学校の生徒による実践魔法教室と、大会に参加されるキリエ騎士団長ローゼス様の、剣を用いた演舞になっております」


「繰り返します・・・」


 次は演武場の中の出場者控え室を覗いてみますか。

「ミト=フロイト様」

「ルートヴィヒ=ブルクハルト様」

「ノエル=イルマーク様」

「マオ=フィックス様」

「アシル=ロンゾ様」

「いらっしゃいますか?」

「いらっしゃらないようですので、今いらっしゃる十九名の方に先に審査の説明をさせて頂きます。尚、この内容は入口にある掲示板にも掲示しておりますので、ご確認ください」


「皆様ご存知かとは思いますが、今回の大会の審査は通常魔法、魔方陣、試合での評価の三段階となっております」

「まず、これからお渡ししますカオスカードをご覧ください」

「皆さんにお渡ししましたカードには0と表示されているかと思います」

「そこに審査により点数が加点されていき、最終的に表示された得点が多い方の勝ちとなります」

「具体的な審査内容ですが、通常魔法、魔方陣に関しては、こちらが設定しました課題の魔法を、マジックカウンターに対して唱えて頂き、その威力を測定いたしまして、その得点がそのまま加点されます」

「この得点については、共に百点ずつとなっております」

「そして魔法試合での勝敗で1試合毎に加算されていきます、試合の勝敗、内容で最高で300点が加算されます」

「マジックカウンターでの測定は随時行っていますので、自分の試合が開始されるまでに必ず行ってください」

「この測定を行わない場合、加点零点となります」

「試合の対戦表は、こちらにある通り四人で一つのブロックとなっておりまして、三回勝利されました方が優秀者となります」

「明日、第二日目はAブロックの第一試合を行いますので、出場選手の方はご準備の程よろしくお願いします」


 説明を聞き終わって、皆さんそれぞれ控え室から出ていきましたが、まだ残っている人達がいるみたいです。

「フェンさん、先日はありがとうございました」


「いえいえ、偶然通りがかっただけですよ」

「でも、出場選手ほんとに色んな人がいますね」


「はい、楽しみなような怖いような」


「そういえば、テレジアさんは試合、明後日みたいですね」


「はい、今から緊張してきます」


「でもよかったなぁ、テレジアさんと違うブロックで」


「どうしてですの?」


「もし勝ち進んでも、闘わなくて済むじゃないですか」


「あ!そうですね、気が付かなかった」


「それはそうと、今からマジックカウンターでの測定しに行きません?」


「そ、そうですわね、どうせ今日は試合もないことですし」


 会場の地下にある測定所では、さっきの説明を聞いていた人も二、三人いるみたいですね。

「えーなになに、通常魔法は以下の二種類から選択して詠唱してください」


 ―ウィーウェ・メモル・モルティス(浄化の魔法)

 ―アウラ・ウェニアース(風の魔法)


「選択肢は、白魔法と、黒魔法みたいですわね」

「となると魔方陣も・・・」

 

―デウム・コリト・クイー・ノーウィト(聖十字の陣)

 ―フォルテース・フォルトゥーナ・ユウァト(炎竜の陣)


「はは、やっぱり光と闇でしたね」

「テレジアさんはやっぱり、光ですか?」


「そうですわね、黒魔法や闇魔法は不慣れなもので・・・」


「僕は、どちらかというと黒魔法の方が得意なので、そっちでいきますよ」

「肝心のマジックカウンタって、あー、あの壁に書かれたやつですかね?」

 測定所には、壁に六芒星が四か所書かれてあります。

 審査員が答えます。

「その六芒星の真ん中を狙って詠唱してください」


「ふむ」

「まぁ、考えていても仕方がない・・・僕、早速やってみます」

「アウラ・ウェニアース」

 静かな、でも、はっきりとした詠唱でした。すぐに点数が出たみたいですよ。

「フェン=サマリー様、九十四点です」


「あ、結構出たな」


「フェンさん凄いじゃないですか!」


「ささ、テレジアさんも」


「そ、そうですわね」

「ウィーウェ・メモル・モルティス」

 少し遠慮がちに行った詠唱は、六亡星にすーっと吸い込まれていきました。


「テレジア=マルケス様、百点です」


「あら・・・」


「ははは。テレジアさん、僕の立場がないですよ」


「いつも使ってる魔法だから、慣れてたんですよきっと!」


「では、魔方陣は私が先に」

「デウム・コリト・クイー・ノーウィト」


「テレジア=マルケス様、百点です」


「僕だって・・・」

「フォルテース・フォルトゥーナ・ユウァト」


「フェン=サマリー様、九十七点です」


「・・・」

「・・・・・」

「はっはー、負けたー」

「さすが、マルケス家のご令嬢!」


「運が良かっただけですわ」

 魔法に、運なんてあるんでしょうか?それとも測定装置が高得点しか出ないのか・・・他の出場者の様子を見てみますか。

「アウラ・ウェニアース!」


「リーベル=アンドレイ様、二点です」


「!?」

「アウラ・ウェニアース!」

「アウ・・・」


「リーベル様、測定は一回だけとなっております」


「何かの間違いだー!」

「アウラ・ウェニアース!!」


「おやめください!」

 取り押さえられました、あの時の彼・・・参考にならないですね・・・他の人、他の人と。

「デウム・コリト・クイー・ノーウィト」


「ハンク=ロイト様、七十二点です」


「ハンク先生も参加されるんですね」

 どうやら、魔法学校の先生みたいですよ。そして測定装置は、正常に動作しているみたいですね。


「やっぱり、テレジア嬢にはかなわないわね」

「でも、試合で熟練の腕をみせますわよ。それでは、ごきげんよう」


「では、私もこれで」


「フェンさん、お互い、頑張りましょう」


「テレジアさんなら、きっと優秀者になれますよ」

 フェンは笑いながら、去っていきました。テレジア嬢、出だしはまずまず順調といったところでしょうか?


テレジア嬢は、観客席で演武を見ている家族の所に向かうようですよ。でも、みんなの分のチケットよく取れましたね。

「テレジア様ー」


「あらリグレット、みんなはどこにいるの?」


「出場者の家族ということで、一等席に場所が用意されてました」

 一番前の席で、アイネ嬢が手を振っています。

「おねぇさま、こっちこっち」


「アイネも来てくれてたのね。ありがとう」


「ろーざすさま、かっこよかったわよ」


「ローザス様の演武、終わっちゃったのね」


「おねぇさまのしあいはいつ?」


「私の試合は明後日だから、応援に来てね」

「アイネが応援してくれれば、誰にも負けないから」


「テレジア、わしもおるのだが・・・」


「あらお父様、いらしてたんですね」

「お母様はどうされましたの?」


「パトリシアか?さっきまでそこにいたんじゃが・・・」

「奥さん連中とまた話でもしに行ったんだろ」

「テレジアの試合は明後日か、絶対応援にくるからな」


「お仕事はよろしいんですの?」


「こんな祭りの時に仕事などやってるやつはおらんわ」


「お暇なんですね」


「・・・・・」

 テレジア嬢、いつもはすごく優しいんですけど、父親にだけはかなり厳しい。まぁ、年頃の女の子ってこんなものかも知れないですね。

「そういえばテレジア様、マジックボードに点数が出てましたよ」

「二百点!」


「リグレット、恥ずかしいからやめて。まぐれよまぐれ」


「テレジア様は~二百点♪」

「テレジア様は~二百点♪」


「リグレット!!」


「だって、測定が終わっている人で百五十点を越えているのって二人だけですよ」

「前にフランソワさんの店で会ったフェンさんと、テレジア様」

「自慢したくなるじゃないですか~」


「前は私についていけないって言ってたのに」


「そんなこと、言ったことありませんよ」


「もういいわ、今日はもう帰るわよ」

 テレジア嬢は、家族と一緒に家路についたようです。そういえば、ミトはどうなったんでしょう?


「いつになったら、帰ってくるん!?」

「聞きに行くって言って、もう五時間やん!!」


「会場の方も混雑して、情報が届かないんだ」

「明日の昼頃になれば少し落ち着くから」


「だからー、うちは出場するんだって」

 長々と続いた行列は、夕方になっても散る様子はなく、馬車で寝る者や、布団を持って来ている者までいますね。


「そいつは出場選手だぜ」

 その声がしたほうには、女性かと見間違えるような綺麗で長いブロンドの髪をしている美青年が立っています。


「誰だ、お前は?」


「俺はロワールってんだ」


「ロワール、ロワールやん」


「おう、久しぶりだな」

「いつかの盗賊退治以来だな。ジンは元気か?」


「ジンはなんとか・・・元気にやってるよ」


「誰だお前はと聞いている」


「俺も出場選手だ。これが証明になるかな?カオスカード」


「確かにそれは出場者に渡されるカードだ」

「だ、だがこいつが出場者という証明には」


「じゃあ、憲兵さんは自分のせいで出場者が遅れたってことになってもいいわけだ」

「自分がその時の全責任を取るっていうことなんだ」


「そ・・・それは」


「もしそうなったら俺、証言しちゃおうかな」


「・・・負けたよ」

「通っていいぞ」


「ほんまか?」

「やった、これで間に合うわ。ロワール、ほんまおおきに」


「お前の試合、楽しみにしてるぜ」


「まかせとき」

 ミトは何とか間に合いそうです。ルートヴィヒは果たして間に合うのか?試合の結果はどうなっていくのか?


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


 ルートヴィヒ達は、そんなミトの数十メートル後方に並んでいました。

「今、一人、列から抜け出して進んでいったよ」

 馬車の屋根の上に登って行列の前方を眺めていたシトリーが、顔だけひょいと下ろしてきます。

「女の子みたいだ。出場するのかなぁ」


「シトリーさん、危ないですよ」

 ウィンザーの言葉に、にやりと笑ってみせるシトリー。

「急いで着かなきゃいけないってことはないんだよね。どうせ、開会式には興味ないでしょ。のんびり行こうよ」

 身軽な動作で座席に戻ると、ルートヴィヒが睨んできました。

「抜け出したのが出場者だとしたら、そいつが先に行けたということは、俺達も憲兵に言えば優先的に会場まで行けるはずだ」


「そうかもねぇ」


「・・・・・」

 シトリーから視線をはずさないルートヴィヒ。

「ちょっと~、まさか僕に憲兵に声を掛けてこいって言いたいの?」

「やだよぉ。あいつら、怖そうだもん」


「ご主人様、それでしたら私が・・・」


「ウィンザーが行っちゃうと、僕は馬車を操れないから、ルートヴィヒがやることになるよ」


「・・・ふざけるな」


 ―ゴンゴン!


 すっかり馴れ合いに興じていた三人は、その音にびくりとしました。特にウィンザーは、口から心臓が飛び出る思いをしたみたいです。

見ると、憲兵が馬車の座席の扉を叩いたようでした。

「びっくりしたぁ・・・」


「ルートヴィヒ=ブルクハルト様ですか」


「・・・・・」


「こちらをお通りください。会場へご案内致します」

 憲兵が示したのは、宙に浮いたレッドカーペットでした。ずっと前方へ続いています。これが会場まで伸びているのでしょうか。

「・・・何のために」

 ルートヴィヒが、いつもの愛想のない口調で言います。

「出場者の方は、優先的にご案内することになっているんです」


「さっき、もっと前にいた出場者らしいやつが列をはずれて進んでいったが、普通に歩いていたぞ。あいつには声を掛けなくて良かったのか」


「―――――」

 憲兵が口をつぐんでいます。うーん、確かに怪しい。

「まぁまぁ、ルートヴィヒ。もう目的なんていいじゃん」

 シトリーが、横から挑戦的な笑顔を覗かせました。

「どこへでも、どうやってでも行ってあげたら?ちょっと悪趣味な色だけど」


「・・・・・」

 ルートヴィヒは、黙って馬車を降りました。シトリーが続きます。

「出場者以外の方は・・・」

 憲兵がシトリーを制止しようと腕を伸ばすと、ルートヴィヒがそれを掴みました。

「こいつはファミリアだ」


「ええ!?」

 いくら何でもそんな嘘は・・・。

「ならば仕方ありません。ただし競技中は、フィールドには入れませんよ」

 ・・・いけるんだ。

「行くぞ、シトリー」


「はい、ごしゅじんさま~」

 楽しそうなシトリーを複雑な表情で見つめるウィンザーに、ルートヴィヒが振り返って声を掛けました。

「こいつらを頼む。気をつけて来い」

 二匹の馬を顎で示します。

「はいっ!」

 ウィンザーは笑顔で返事をしました。

 おや。ルートヴィヒ、以前はこんなこと言いませんでしたよねぇ。さっきのシトリーとの戯れと言い、彼も少しずつ変わってきている感じがしますね。


カーペットを歩いていると、行列に並んだ人々の視線が刺さってきます。これまた、ルートヴィヒの苦手分野のはず・・・。

「選手の人?」

「いい試合をしてくれよ!」


「頑張ってー!」


「応援に行くよ」

 群集から発せられたのは、意外にも温かい言葉でした。少し驚いたくせに表には出さないルートヴィヒの代わりに、シトリーが、声の方に向かって手を振りました。


 しばらく歩くと、ようやく会場の入り口に到着しました。

「ご健闘を」

 憲兵が一礼します。

「・・・・・」

 出場者の受付で予選の時と同じ誓約書にサインして、カオスカードを受け取り、ようやく中に入ります。ルートヴィヒは、案内板に従って、すたすたと控え室の方へ向かいました。

「わくわくするね!」

 シトリーは、きょろきょろしながらついていきます。客なのか出場者なのか、特別演武のゲストなのか、はたまたスタッフなのか、色々な人がいます。

「うわ、今の子、すっごい綺麗だった」

 シトリーが振り返ったのは、長い金髪と、すらりとした手足の若い女性でした。小さな女の子の手を引き、仕立ての良さそうな服を来た男女と一緒に歩いていきます。あれはもしかして・・・。

 控え室の入り口には審査の説明が書かれた案内が掲示してありました。数人がそれを眺めています。

「なんや、簡単やん!本戦も楽勝やな」

 その中で、飛び切り元気の良さそうな女の子が声を上げました。

「よっしゃ。早速行くで~」

 そして、シトリー以上の身軽さで、さっさと走り去っていきました。二人は、案内を眺めていた数人と一緒に、呆然とその後姿を見送りました。

「ルートヴィヒと一緒だね」


「・・・何がだ」


「独り言」


「・・・・・」

 ルートヴィヒ、決まり悪い顔を隠すように、案内を読みます。

「パントマイムと大差ないな」


「やってみようよ」


 二人はマジックカウンターの前にやってきましたよ。

「真面目にやってね、ルートヴィヒ」


「・・・・・」

 ちらりとシトリーを睨んでから、彼は六芒星に向き直りました。

「アウラ・ウェニアース」

 ルートヴィヒの鋭い詠唱は、針ような形の、かなり細い空気の刃を作り出し、カウンターの真ん中に当たりました。

「ルートヴィヒ=ブルクハルト様、九十九点」

 振り返って、どうだという顔をして見せるルートヴィヒ。

「やるじゃん。力が加わる点が小さい方が衝撃は大きくなるから、威力を測る装置に対しては有効な作戦だねぇ」

 続いて、もう一つの六芒星。

「魔方陣が得意なんだから、百点取ってきてよ~」


「フォルテース・フォルトゥーナ・ユウァト」

 今度は火炎の竜が壁を焦がしました。

「ルートヴィヒ=ブルクハルト様、九十九点」


「・・・・・」


「あはは。ルートヴィヒ、測定は一度までだよ」


「・・・・・」

 ルートヴィヒは未練ありげな顔をしていますね。

「いいじゃん、かなりの高得点だよ」

「ね、それよりフィールドの方も見に行こうよ」

 シトリーに手を引かれて、行ってしまいましたね。


日も暮れかかった黄昏時。会場に来ていた人々が、次々と引き上げていきます。

会場の外へ向かう人の流れから少し離れたベンチに、ルートヴィヒとシトリーが並んで座っていました。

「ウィンザー、着かなかったみたいだねぇ」


「・・・行くか」


「うん。きっと寂しがってる」

 ルートヴィヒが立ち上がり、シトリーもそれに続きました。あれ、でも出口と反対の方向に歩き始めましたね。

「どこ行くの?出口はこっちだよ」


「急がなくても、行列に沿って行けば会えるだろ。それより一つ、確かめておきたいことがある」

 すたすたと行ってしまいましたね。歩くのが早いので、ルートヴィヒよりふた回りも背の低いシトリーは小走りで追いかけます。

やってきたのは、さっきのマジックカウンターの前でした。

「根に持つタイプだねぇ」


「・・・・・」

 シトリーがにやにやしましたが、彼は何も言わず、二つのカウンターの前に魔方陣を描き始めました。

「ラティオー・クゥァシ・クゥァエダム・ルークス・ルーメンクゥェ・ウィータエ」

 これは地区予選のラビリンスで使った、暗闇のフィールドを作り出す魔方陣ですね。このフィールドでは、力のあるもののみ発光体として見ることが出来ます。音も同じように、力のあるものだけが人の耳に届きます。

二人の周囲に暗闇が降りてきました。ルートヴィヒが腰に提げたビンの中身が光っています。魔法薬ですね。練りこまれた魔法力が発光しているようです。

「―――――」

 シトリーが何か言った気配がしましたが、ただの言葉だったので、闇に吸い込まれていきました。

 ルートヴィヒは周りをぐるりと見渡しました。魔法薬以外に光っているものはなさそうです。

「ウィータエ・ルーメンクゥェ・ルークス・クゥァエダム・クゥァシ・ラティオー」

 呪文を逆から唱えて、魔法を解除します。既に夜が近づいていましたが、わずかに残った太陽の光と、街の電灯の灯かりが戻ってきました。

「どうしたの?」

 シトリーが、改めて尋ねます。

「・・・・・」

「もう一度、今のフィールドを作る。そっちの星に、風の魔法を」


「分かった」


「ラティオー・クゥァシ・クゥァエダム・ルークス・ルーメンクゥェ・ウィータエ」

 二人はもう一度、闇に包まれました。

「アウラ・ウェニアース!」

 シトリーの呪文が聞こえ、生じた風の刃が見えました。六芒星があった辺りにぶつかってはじけます。

しかし、光ったのは風だけでした。

「ウィータエ・ルーメンクゥェ・ルークス・クゥァエダム・クゥァシ・ラティオー」

 フィールドが解除されます。

「ルートヴィヒ・・・これって」

 シトリーが呟くと、ルートヴィヒはマジックカウンターを睨んだまま言いました。

「・・・この六芒星には、何の魔法もかけられていないようだな」


「魔法じゃない?じゃあ、どういうしくみで測定してたの?」


「分からない。測定自体していなかったのかも知れない」


「得点が操作されているってこと?」


「断言は出来ないが」

 二人は黙って、お互いに何事か考えているようでした。

「どうされました?」

 急に掛けられた声に、同時にはっと振り返ります。係員が立っていました。

「いつの間に・・・」


「お忘れ物か何かですか?もうすぐ閉門しますよ」


「うん。見つかったから、もう帰るよ」


「お気をつけて。明日もお待ちしております」

 微笑んで頭を下げる係員から逃げるように、シトリーはルートヴィヒの手を引いて、早足で門の方へ向かいました。


マジックカウンターがイカサマかも知れない?本当なのでしょうか?本当だとしたら、テレジア嬢を始め、皆さんの得点の意味は・・・。本戦も、何か起こりそうな予感です。


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