Magick.11
さて、家に入っていった二人は・・・
「よく来たわね、テレジア」
「おばあ様、お久しぶりです」
「リグレットもようこそ」
「アンナ様、お元気でしたか?」
「リグレットは優しい子ね、私は元気ですよ」
普段言われ慣れない事を言われて、リグレットは恥ずかしそうに舌を出しました。
「テレジア、シンラのことだけど・・・」
「叔父様はどこにいるか分からないんでしたわね」
「そのことだけどテレジアには、少し話しておかないといけない事があるんじゃ」
テレジア嬢は静かにうなずきました。
「テレジアは生まれつき魔法力が強かったのう」
「はい」
「あなたの母親のパトリシアにはそういう力がなかったんじゃが、シンラにも強い魔法力があったんじゃ。実はそれには理由があっての」
「なんですの?」
「・・・テレジア、お前はマルスの血をついでいるんじゃよ」
「マルス?賢者マルスですか?じゃあ、おばあ様は」
「今まで誰にも言ったことはなかったんじゃが、私は賢者マルスの娘なんじゃ」
「なんで、隠していたんですの?」
「それを話す以上、五十年前のことも話さねばならないみたいじゃな」
「五十年前、この世界に光と闇の勢力による魔法戦争があったんじゃ」
「世界を暗黒の世界に変えようとする魔王ジーク=ザイアスが率いる闇の勢力に対し、父上を中心とした光の勢力は当初有利に戦いを進めていたんじゃが、光の勢力の中に裏切り者がいてな、団結力で戦っていた光の勢力は一気に崩れていってしまったんじゃ」
「それでどうなりましたの?」
「闇の勢力の勝利に終わったんじゃが、父上とゼクト様によって世界の暗黒化は止められたんじゃ。その代償として、世界はその機能を停止してしまったがのう」
「その時に父上は・・・」
「・・・・・」
「そして、戦いに敗れた光の勢力の生き残りは、それぞれ素性を隠して日常にまぎれて行ったんじゃ」
「いつかこの世界を、取り戻すと誓っての」
「そうでしたの・・・」
「このことは叔父様も?」
「シンラには話したことはなかったんじゃが、うすうす気が付いていたようじゃな」
「真実を知り、世界を救うために旅に出たんですかね・・・」
「そうかも知れんのぅ・・・」
「責任感の強い子じゃったから」
「いつか、会えますよね」
「そうじゃな、またいつか」
「シチューが出来ているから、お食べ」
「今日はゆっくり休んでいくとよい」
「はい、おばあ様」
五十年前にそんなことがあったんですか。テレジア嬢が賢者マルスの血を継いでいたとは、魔法力の強さも頷けますね。それにしても、戦争があってちょうど五十年・・・この時期の魔法大会・・・何かにおいます。
そういえば、ミトはどうなったんでしょうか。そろそろ予選が始まるころかな?
そこらじゅうで、花火が上がっています。ここは、フェグダ地方の首都イステルダムです。
フェグダと言えば、観光と遊びが大きな収入源になっている地方で、古くから立ち並ぶ修道院、均等に並んだ建造物などや、アトラクションパークと言われる大きな娯楽施設を中心にした遊楽地を目的に貴族や市民などが訪れ、普段からお祭りのようなにぎわいなのですが、魔法大会の予選が開催されるとあって、異常なにぎわいになっていますね。
普通に歩くのも困難です。お、ミトが人ごみの中で歩いていますね。
「たく、なんや?この人だかりは」
ミトの肩にちょこんと乗ったシュバイツァーが答えます。
「おそらく、大会を見に来たのかと」
「ジンの奴どこにおるんやろ」
「図体だけはでかい奴やから目立つはずなんやけどな」
「入口に姿が確認できます」
「ほんまや、馬鹿みたいに手振っとるわ」
背が高くてがっしりした体、この男がジンですかね。
「ミト、俺はもうエントリー済ませたぞ」
「ほんまかい、うちは前に一番乗りでエントリーしとるから中入ろか」
「ミト、調子はどうだ?」
「調子?そんなもん関係あらへん、そもそもうちが誰に負けるって言うねん」
二人は、入口の受付にやってきましたよ。
「ミト=フロイト様と、ジン=アッセン様ですね、どうぞ。中に進んで頂くと案内の者がいますので」
控室に通された二人は、周りにいる他の参加者の様子を見ていますね。
体格がいい武道家タイプが三割、魔導師タイプが三割、残りは一般市民やら、何か端っこでもごもご言っている人やら、色々ですね。
「楽勝そうやな」
ミトの言葉に、周囲の冷たい目線が一気に二人に集まりました。
「ミト、そういうことは口に出して言うもんじゃない」
「ほんまのことやん」
「ミト、ほんとのことだったとしてもだ」
火を消しているのか、火に油を注いでいるのか・・・。
そうこうしているうちに、競技の説明が始まったみたいですよ。
「えー、本日はお集まり頂いてありがとうございます」
「本大会は、皆さんにご同意いただいた誓約書の通り、死亡があった時のみ見舞金が国から支給されます」
「とはいっても、こちらご用意した救護班が全力で参加者の方を救護致しますのでご安心ください」
「フェグダ地方の予選には、全員で百二十九名の参加を頂いております」
「この中で決勝に進めるのは、三名のみとなっておりますので、狭き門ではありますが、みなさんぜひ頑張ってください」
「それでは、競技の説明に移らせて頂きます」
「まず第一種目目、皆さんには会場に設けられたパントマイムと呼ばれる人形に向かって、計三回の魔法攻撃を行って頂きます。詠唱魔法の正確さ、威力、詠唱から発動まで速度を判定項目とさせて頂きます」
「その結果により、二十四名の方が第二種目への通過とさせて頂きます」
「続きまして、第二種目の説明に移ります」
「第二種目目は、魔方陣の知識、決断力等の判定をさせて頂きます」
「会場には、ラビリンスと呼ばれる迷路が用意されておりまして、その内部には計九個の障害が設置されています。参加される皆さんは、自分が得意と予想される障害をクリアして先に進んでください、三つの障害をクリアされゴールされた方の中で先着十二名が第三種目へと足を進めることができます」
「最後の種目の説明に、移らせて頂きます」
「最終種目は、会場に用意された闘技場での試合となっております。この試合では禁術魔法と血の契約を除き、全ての魔法、武術、武器の使用が認められています。もちろん第三種目まで進んだ方なら、魔法を使わずに勝利されても結構です。尚、試合に二度勝利された方が本戦への出場権獲得となっております」
「以上で、試合の説明を終了させて頂きます」
「胸につけて頂いた、番号順にお呼びいたしますのでしばらくお待ちください」
先ほどまでがやがやしていた会場の雰囲気が急に張り詰めてきましたね。どうやって勝ち残ろうか、魔法のおさらいをしているような人もいますね。ミト達の様子は、と。
「早く始まらんかなぁ」
胸につけているバッジには11と書かれています。ジンの方は122ですね。
「1番から10番の方、会場の方へどうぞ」
試合、始まったみたいですね。わくわくしてきました。
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ミザール地方の地区予選会場でも、出場者控え室で同じ説明が行われていました。こちらの参加者はフェグダ地方よりちょっと少ない九十四名ですが、競技内容や、先へ進める人数は同じようです。
「ご質問はございませんか」
「はい、はーい」
ざわついた中から、少年の声が聞こえました。
「どうぞ」
「えーっと、さっき死んだ場合はお見舞い金が出るって言ってましたけどぉ、殺しちゃった方には何か補償あるんですかぁ?」
「ほら、仇討ちとかされちゃったら嫌だし」
あわわ・・・間延びした声で物騒なこと言いますね。
「そういったことが無いよう、力加減や引き際など、みなさん十分にご配慮くださいませ」
「また、危険を認めた場合には、主催者側から制止をかけさせて頂くこともございます」
ふぅ。さすが国営大会のスタッフ。対応の声は冷静です。
「ふぅん、そうなんだ」
「じゃあ、あんまり心配要らないね。結構暴れられそうだ」
「どうぞ、お力を尽くしてください」
微笑んで、もう一度問いかけます。
「他にございませんか」
部屋が静まり、一気に緊張感が走りました。
「無いようですね」
「それでは皆様、受付の際にお渡ししたバッジを今一度ご確認ください。番号順にお呼びしますので、該当の方は競技場へ。それ以外の方はこの控え室か、出場者専用の観覧席で待機をお願いします」
「間もなく、始まります」
出て行きましたね。また控え室がざわつき始めています。ルートヴィヒはどこにいるんでしょう。
あ、いました。相変わらずぶつぶつ言いながら、控え室を出て行くところです。第一種目を見に行くのでしょうか。そう言えば、ウィンザーの姿が見えませんが、合流できなかったんでしょうか。
「・・・白、緑・・・」
「ねぇ」
そんな彼の背後から、声を掛けてきた人がいますよ。物好きですねぇ。おや、さっき質問していた少年ですね。ルートヴィヒの斜め後ろから駆け寄って尋ねます。
「会場にさ、ファミリアは連れてっちゃだめなのかな?」
明るい声のした後方へ、重たげに首を回すルートヴィヒ。帽子を被った十代半ばくらいの少年をちらりと見て、また視線を前に戻します。
「・・・俺に聞くな」
「その辺の説明、無かったよね。試合とかで使ってもいいのかなぁ」
冷たい態度を気に留める様子も無く、おしゃべりを続けます。
「ねぇ、どう思う?てか、お兄さんのファミリアはどこ?」
「・・・ファミリアは魔法じゃない」
「あっ、そうかぁ。てことは、使っても得点にならないね。そりゃ損だ」
「うん、ありがとう!」
一人で納得して、笑顔の少年。
「・・・・・」
「お兄さん、一種目目を見に行くの?一緒にいていいかな」
「僕の名前はシトリー。よろしく!」
「・・・・・」
いやはや、若さとは怖いもの知らずです。ルートヴィヒもその勢いに押されたのか、ついてくる少年を追い返そうとはしませんでした。
それでも、相当にうんざりした表情の彼の頭上に、大会の開始を告げるファンファーレが鳴り響きました。