第7話 第四遺跡デバッグ任務
翌日、俺は学園に隣接する『第4遺跡区域』の入り口に立っていた。
学園長との約束——遺跡内の異常防衛システム(魔獣)を『絶魔』で消去すれば、魔法省の無試験パスが手に入る。
公務員への最短ルートを前に、俺の足取りは軽かった。
「アッシュ様、お供いたします!」
「我らがお守りいたしますぞ!」
ただ一つ誤算があったとすれば、エレナとレディスをはじめとする『狂信者(アッシュ親衛隊)』が数十人も後ろをついてきていることだ。
「お前ら、危険だから来なくていいって言っただろ」
「滅相もない! アッシュ様お一人が遺跡の奥深くへ向かわれるなど、我々が許しません!」
「そうです! 我々はアッシュ様が力を振るわれる際、飛び散る魔獣の返り血からお召し物を守る『肉の盾』として参りました!」
レディスが胸を張って恐ろしいことを言う。
俺はため息をつきながら、そびえ立つ遺跡の門を見上げた。
金属と石が複雑に絡み合った旧文明の建造物。その表面には、青白い魔素のラインが脈を打つように走っている。
【System:ローカルグリッド4へ接続。汚染された防衛プロトコルによるアクセス拒否を検知】
「ああ、やっぱりエラー出てるな……」
俺が独り言を呟くと、後ろの数十人が「おお……アッシュ様が天の啓示を受信しておられる……!」とざわめき出した。
「開くぞ」
俺が遺跡の巨大な門に手を触れた、その時だ。
『ギジュジュゥゥゥゥッ!!』
門の奥から、金属がひしゃげるような耳障りな咆哮が響き渡った。
と同時に、遺跡の入り口を塞いでいた分厚い隔壁をぶち破り、巨大な影が飛び出してきた。
「ひぃっ!?」
「ま、魔獣だ!!」
全長5メートルはあろうかという、無数の刃と装甲殻で覆われた多脚の化け物。
『守護者』——遺跡の自動防衛システムが、狂った魔力によって現実に受肉した存在だ。
「ひ、退け! アッシュ様の御前だぞ!」
レディスが叫びながら炎の槍を放つが、守護者の装甲に当たっても火花が散るだけで、傷一つ付けられない。
エレナも即座に氷の散弾を撃ち込むが、全く意に介する様子がない。
「無駄です! この魔獣、表皮が極めて高純度の魔石層で覆われています! 通常の魔法では相殺されてしまう!」
エレナが顔を青ざめさせた。
『ピガーーーッ! 排除対象検知。殲滅シーケンス移行』
魔獣が、その凶悪な多脚を振り上げ、俺たちに向かって殺到してくる。
背後の親衛隊たちから悲鳴が上がる。
一方、俺の視界には。
『警告:未認可の防衛プロセス(PID:9994)が暴走中』
『当該プロセスはメモリリークを引き起こしており、システム全体のクラッシュを招く恐れがあります』
『対象プロセスを強制終了し、リソースを解放しますか? [YES/NO]』
「はいはい、YES、YES」
俺が一歩前に出て、面倒くさそうに右手で空を払った、その瞬間。
——ピキィンッ!
突進してきていた巨大な多脚の魔獣が、まるで透明な壁に激突したかのようにピタリと停止した。
『[YES]を承認。対象プロセスの強制終了を実行』
『メモリを解放しました』
直後、魔獣の全身を覆っていた強固な装甲が、砂の城が崩れるようにサラサラと光の粒子(魔素)に変わって崩壊していく。
断末魔の叫びすらなく、5メートルを超える巨体が、たったの三秒で完全に空間から『消去』された。
「……え?」
静寂。
風の音だけが聞こえる中、背後の数十人が息を呑む音が響いた。
「バカな……教師陣の総攻撃すら弾き返した守護者を、手を一振りしただけで……?」
「無詠唱どころじゃない。今、魔力の発動の気配すら一切なかったぞ!?」
「これが……現象の削除。神の御業……っ!」
ドサバサッ!と、背後で何十人もの人間が一斉に地面に膝をつく音がした。
「アッシュ様ぁぁっ! 一生ついていきます!!」
「我らが神! 我らが希望!!」
【System:タスク完了。信仰心パラメータがカンストしました。宗教法人の設立を推奨しますか? [YES/NO]】
「絶対NOだバカヤロウ!」
俺の悲痛な叫びは狂信者たちの歓声にかき消され、今日も平和な学園の空に吸い込まれていった。




