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第6話 学園長室の尋問と推薦状

 数日後、俺は学園で最も権威ある場所——学園長室に呼び出された。

 無試験パスのはずが、どう見ても取り調べの空気である。


「単刀直入に聞こう、アルマンド君」


 重厚なマホガニーのデスク越しに、眉間に深い皺を刻んだ白髪の老人が手を組んでいる。

 王都至高魔法学園の頂点にして、王国屈指の大魔導師とも称される学園長、マクシミリアン卿だ。


「君がこの数日で起こしたという『奇跡』……他者の魔法を、詠唱も魔力の放射も一切伴わずに消滅させたという噂。あれは事実かね?」


「えーと……」

 俺はチラリと、学園長の後ろに立つエレナとレディスを見た。なぜかこの二人は「我らがアッシュ様の証人」として勝手についてきている。


「事実でございます、学園長閣下!」

「アッシュ様の御力は、我々が用いる『魔素の操作』などという低次元なものではありません。現象そのものを司る、まさに神の領域です!」


 二人が勝手に答えてしまった。

 学園長は重々しく頷き、鋭い眼光を俺に向けた。


「君の魔力測定値は『ゼロ』だった。何度計り直しても、極小の魔素すら検出されなかったことは記録に残っている」

「はい。ですから俺は魔法なんて——」

「つまり、君が使っているのは我々の知る体系とは全く異なるアプローチ……そう、『遺跡の未知の術理』か、あるいは『失われた旧文明の絶魔機構』を直接行使しているということか……!」


 学園長の言葉に、俺はあっけに取られた。

 ……あれ?

 この爺さん、ただの勘違いじゃなくて、もっと深読み(しかも妙に的を射た深読み)をしていないか?


「実はな、アルマンド君」

 学園長は立ち上がり、窓の外——学園の敷地のさらに奥、深い森の方角を指差した。

「数日前から、学園に隣接する『第4遺跡区域』の防衛システムが異常活性化を起こしているのだ。我々教師陣の解析魔法でも原因が掴めず、内部に強靭な魔獣(恐らくは古代の自律兵器)が這い出してきている」


【System:アラート。対象区域(ローカルグリッド4)において、致命的なセキュリティ違反ウイルスプロセスが検出された状態のまま放置されています】


 視界の右上に、赤い文字が流れた。

 なるほど、学園長の言う通り、あそこにバグ(魔獣)が発生しているのか。


「国の騎士団に討伐を要請することもできるが……下手に力で破壊すれば、あの遺跡そのものが崩落する危険がある。魔素の流出による環境汚染も計り知れん」

 学園長は振り返り、真っ直ぐに俺を見た。

「そこで、君の『絶魔』の力だ。君のその力なら、魔素を暴走させることなく、あの自律兵器だけを安全に消滅させられるのではないか?」


「え、俺っすか?」


「危険な役目を任せることにはなるが……もしこれを解決してくれたなら、君の落ちこぼれという不名誉を即座に返上しよう。いや、それどころか『名誉特待生』として卒業証書を今この場で授与し、魔法省への無試験パスすらも用意しよう!」


「無試験パス!?」

 俺はガタッと立ち上がった。

 魔法省の末端事務官になりたい俺にとって、こんなに魅力的なワードはない。

 面倒な試験勉強も面接もすっ飛ばして、確実に平穏な未来が手に入るのだ!


「や、やります! 俺に任せてください!」

「おお……なんという決断の早さ。自らの危険を顧みず、学園のため、ひいては国のために引き受けてくれるというのだな」


 学園長が感極まったように目に涙を浮かべる。

 違う、俺はただ公務員になりたいだけだ。


「さすがは我らがアッシュ様! このエレナ、どこまでもお供いたします!」

「私など足手まといかもしれませんが、弾除けの肉壁としてお使いください!」

「お前らはついてこなくていい!」


 かくして俺は、就職活動の一環(としか思っていないデバッグ作業)のために、学園の教師すら恐れる古代遺跡へと足を踏み入れることになったのだった。


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