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第14話 魔法省、脅威認定会議

「……どういうことだ、査察官が魔法を撃てなくなっただと?」


 王都、魔法省ビルディングの最上階。

 厳粛な執務室の中で、魔法省の長官——王国随一の権力者でもあるアルベルト公爵は、報告にきた部下を睨みつけた。


「は、はい。査察室のエースであるゼノン査察官が、学園でアッシュ・アルマンドを拘束しようとした際……彼の一瞥を受けた瞬間、体内の魔素との繋がりを完全に絶たれたそうです」

「一瞥で、だと?」

「はい。詠唱はおろか、魔力の波乱すら一切なく、ゼノン査察官はまさに『魔力ゼロ』の一般人に成り下がりました。現在、回復の兆しは見られず精神科に入院しております」


 長官は深くため息をつき、革張りの椅子に深く腰掛けた。

 「アッシュ・アルマンド……魔力ゼロの落ちこぼれが、突如として国家に比肩する力を持ったというのか。噂は真実だったようだな」


「長官。いかが対応いたしましょうか? 彼が未知の遺物を所持しているのであれば、騎士団の総動員を以てしても拘束すべきかと」

「愚か者」

 長官は冷たく吐き捨てた。

「エース査察官が一瞬で無力化される相手だぞ。下手に武力を用いれば、王都の中心にある学園が、そしてこの国の中枢が焦土と化す危険がある」


 長官はテーブルの上の資料を弾き飛ばした。

 アルマンド侯爵家三男、アッシュ。

 その書類には、彼の出生から学園での「奇跡」の数々が克明に記録されていた。

「対象は、いかなる魔法をも相殺し、遺跡の守護者すらも消滅させる『事象の削除』の力を持っている。そんな化け物に強硬手段に出るなど自殺行為だ」

「で、では……?」


「懐柔するしかない。あの絶対的な力は、敵に回すのではなく『神の使徒』として国家の管理下に置くのだ。彼をご丁寧に追放してくれたアルマンド家にも恩を売る機会となるだろう」

 長官は薄く笑った。

「すぐに彼に対し、王宮への招待状を書け。魔法省からの正式な『謝罪』と『特別顧問就任の打診』としてな」


―――


 一方、そんなことになっているとは露知らず。

 俺は学園の中庭の隅で、エレナの差し入れた高級クッキーをかじっていた。


「アッシュ様、お紅茶のおかわりはいかがでしょうか」

「いや十分だ、エレナ。自分で淹れるし」

「なりませぬ! アッシュ様の尊い御手を物理的なお湯で火傷などさせては、私が切腹しなければならなくなります!」

「そんな物騒なルールないだろ!」


【System:対象エレナからの奉仕行動によるストレス軽減を確認。好感度パラメータのセーブを推奨】


 俺の視界のUIシステムは、なぜか俺とエレナとの関係にめちゃくちゃ好意的だった。

 まあ、これだけ付きまとわれれば悪い気はしないというか、エレナの手作りのお菓子が信じられないほど美味いのは事実なのだが。


「……なぁ、エレナ。お前、たまに怖いくらい真剣に俺の世話焼いてくれるけど、俺は本当に魔法が使えないんだぞ。魔力ゼロだ。ただのバグのおこぼれにあずかってるだけの——」


「アッシュ様」

 エレナは俺の言葉を遮り、ふわりと微笑んだ。

「私がアッシュ様に命を救われたあの日。暴走した私を止めてくださった時……アッシュ様の手は、魔力による防御結界など張っておられなかった。ただ生身の手で、あの化け物に触れてくださった」


「あ、ああ、そうだな」

 というか、俺には結界の魔法が使えないから素手で触る(システムコマンドを実行する)しかなかっただけだ。


「魔力ゼロの素手で、あの濃密な魔素の塊に触れれば……常人であれば細胞が侵食され、一瞬で灰になっていたはずです。ですがアッシュ様は、ご自身の危険を一切顧みず、私を助けるためだけにその手を伸ばしてくださった」

 エレナは俺の手を取り、祈るように両手で包み込んだ。

「その御心こそが、私にとっての『神』の証明なのです。魔法が使える使えないなど、もはや関係ありません。私は、あなた様のそのお優しい魂にお仕えしているのです」


「……」

 俺は言葉に詰まった。

 ただの『[YES]』ボタンだと言い出せない空気が、俺の周囲を完全に包み込んでいる。


「アッシュ様! 一大事でございますぞアッシュ様ぁぁっ!!」

 いい雰囲気をぶち壊すように、レディスが猛烈な勢いで全速力で走ってきた。

 彼の手には、仰々しい金色の封筒が握られている。


「レディス、うるさい。また魔法の暴発か?」


「違います! 先ほど、学園に王室の早馬が参りまして……!」

 レディスは息を切らしながら、俺に向かって深々と平伏して封筒を差し出した。

「魔法省の長官より、アッシュ様の御前での非礼を詫びる謝罪状! 並びに、明晩の『王宮主催の晩餐会』への主賓としてのご招待でございます!!」


「……は?」

 俺はクッキーを落としそうになった。


「王宮!? なんで俺が!?」

「我が神の御力に、ついに国家中枢が恐れをなしてひれ伏したのです! おお……アッシュ様の威光が王都を覆い尽くす日が来ようとは!」

 レディスは泣いて喜んでいるが、俺は絶望で頭を抱えたかった。


【System:新規タスクを受信。王宮エリアでのメインクエスト『権力者との会食イベント』が追加されました】


「イベントじゃねえんだよ! 俺はモブの事務官になりたいって言ってるだろがあああ!!」

 俺の悲痛な叫びは、またしても誰にも届かなかったのだった。


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