9.導かれて
ヴィオラはまた使用人に話を聞きながら、城を回っていた。
ランタン犬のペーロは案内をしているのか、ただ散歩なのかわからないが嬉しそうに先を歩いている。
ロージーのいる裁縫部屋から遠ざかっているような気がして、ペーロに「ごめんね、ペーロちゃん、わたし裁縫部屋に行かないと」というと、ペーロが悲しそうな声をだして足元をくるくる回りだし、ワンピースの裾をくわえて引っ張られるので、ヴィオラは根負けしてしまった。
ヴィオラがペーロの後をついていくと、明かりのともされた廊下からだんだんと暗い廊下に来てしまった。
「ペーロちゃん、こことても暗いよ……」
ペーロはヴィオラの言葉にも廊下の暗さにもかまわず進んでいく、そして、振り返ってヴィオラを待っているようだ。
「……わかった、行くね」
ヴィオラは意を決して、明かりの少ない、薄暗い廊下を進んでいった。
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城のとある部屋は、常に重たいカーテンが閉まっているせいで暗く、掃除も許されていないのでほこりが自由にしている。家具は高級なものなのに、爪痕でズタボロにされて今は無価値だ。
部屋の一番奥のベッドには大きな黒い塊がうずくまっている。
「う、ううううぅ……何故だ。結婚でこの呪いが解けないというのなら、どうすればいい? 僕のせいで……みんなをこの地に縛り付けてしまっているというのに、くそっ」
苛立ちがまた胸の奥からの吐き気のように上ってきて、心が乱れていく。
「ぐぐ、イラついちゃだめだ……また、空が荒れる。みんなに迷惑がかかる……うううぅ!」
苛立ちをまた爪で家具を引く割くことでぶつける。
こうしないと、いつも心が落ち着かず、空が雷雲で覆われる。
「こんな自分大嫌いだ!! あぁ、どうしてこんな力……僕はこんな力なんて欲しくなかった!!」
思い出すのは自分を恐れ怯える目、傀儡にしようとする欲望に満ちた目、近づいて甘い蜜をすすろうという浅ましい目、目、目、目……。
「見るなああああ!!」
壁を思い切り引き裂いた。壁はチーズのように簡単に引き裂かれてしまう。
これが意味するのは、自分は人に決して触れてはいけないということ。
割れた鏡が床に散らばっている。
映っているのは自分の力に振り回される醜い怪物の姿だ。
「うううぅ…醜い、醜い、醜い!! 何もかも……大嫌いだ……」
何もかもが絶望的で少しの光も見えない。
ぽたぽたと怪物の赤い瞳からしずくが流れていく。
「目には見えない大切のものとはなんだ? 本当の愛とはなんだ? 愛を見つけ、愛を返すとはなんだ? わけがわからない……」
怪物はまたベッドに戻り、身体を縮こませた。




