21.成長
部屋から出ると、心配そうな面持ちのロージーが待っていた。
「殿下、ヴィオラ様はどうでした?」
「今はぐっすり眠っている……」
王子の声色が先ほどよりも軽くなっているのに気が付いて、ロージーはほっとして息をついた。
「もしかして、仲直りできたのですか?」
「仲直り……というのは、少し違う気がするが、謝った……けれど、初め彼女の方が必死に謝るものだから、驚いた。僕が悪かったのに、どうしてあんな……」
「あぁ、やっぱり……ヴィオラ様……あの、殿下はヴィオラ様から何か聞いておりませんか?」
「何をだ?」
「ヴィオラ様が今までどう過ごされていたかです」
「…………母が亡くなって、父が再婚して、あとはその父親の事業がうまくいっていなかったというのは聞いた。それであまり裕福ではなかったようだ……あとは、酷い男との縁談を進められていたとか」
「そ、そうですか……」
ロージーのききたいことがなんとなく王子にはわかった。
今まで、ヴィオラと過ごすうちで時々現れる影の存在を二人とも感じていた。
無理に聞き出すことをせずにいたが、その影があまりにも彼女の心を蝕みすぎていて、それに本人が気づけていないことに大きな不安が今回のことで露になった。
ロージーが辺りに人の気配がないことを確認してから、言いにくそうに口を開いた。
「こんなこと、言ってよいことではないのですが……ヴィオラ様はたぶんお身体に人に見られたくない、傷を負っているのだと思います。治癒魔法でも消せれないような……なので、ここに来てから、一度もお着替えやお風呂のお手伝いをさせていただけていないのです」
「傷……なにか、事故に巻き込まれたのか?」
「わかりません……ただ、あたしが思うにご家庭になにかあったのでは、と……あまりにもおかしいですもの、細すぎる身体も、父親の身代わりになることも、その縁談も酷い男って、あの優しいヴィオラ様が言うのなら相当なのではないですか?」
「詳しくは聞いていないが……その縁談から逃れるためにここにきたと……あぁ、くそっ、なんでこんな大切なこと忘れてたんだ!」
王子があることを思い出して頭を抱える。
ロージーは何事かと狼狽える王子の顔を覗く。
「なにかあったのですか?」
「彼女は……あの……僕が……婚姻を結ぼうとしたとき、だ」
「あ、あぁ、あの時ですね」
今さらになって恥ずかしさがこみあげてきたが、今は恥ずかしさにもだえる時ではない。
ロージーも思い出して、苦い顔をしている。
「彼女は……僕に殺されると思って、ここに来たと言っていた。父親の無礼を償うために、自分は殺されるために来たように、言っていて……」
「え!? じゃあ、あの子は……あの子は…………うぅ」
ロージーが言葉に詰まって口を押える。
ヴィオラが今までに受けてきた苦痛は死にたくなるほどのものだったのかと考えると、涙が嗚咽とともに出てきそうだった。
王子は今までのヴィオラの言動をゆっくりと思い出す。
そして、自分がいかに彼女のことを知らないという現実に、頭の奥が痛みでしびれた。
「……ロージー、彼女の看病を僕にもさせてくれないか」
「で、殿下がですか!?」
「彼女は僕に向き合ってくれた。今度は僕が向き合う番だ。僕の心を軽くしてくれたように、彼女の心を軽くする手伝いをしたい」
ほんの少し前まで、人と関わろうとせず、駄々をこねる子供の様な人だったのに、一人の人と向き合おうと行動しようとしている。
そのまぶしいほどの成長にロージーはめまいさえした。
しっかりと王子に向き合って、姿勢を正す。
「わかりました。これからの予定をお伝えしますね」
「うむ、よろしく頼む」




