15.見つけに行こう
「ということで、来ました」
「いや、どういうことだ!?」
次の日、朝食をとった後、ヴィオラはすぐに王子の部屋にやってきた。
呪いをかけた妖精に直談判することと、それに向けて愛とは何かを見つけに行こう、と外に連れ出しにきたという。
ヴィオラは昨日、あれだけ怯えた様子で部屋に恐る恐る入ってきていたというのに、今はなんてことはない近所の友達に遊びに行こうというくらいの気軽さでやってきている。
「いやだ、僕は行かないぞ!」
王子は姿を隠しているつもりなのだろうか、自分よりずっと小さな毛布を頭にかけてベッドでくるまった。
「でも、ここでふて寝していても解決しませんよ。殿下の『愛』を探しに行かないと」
「探すって、どこに行くんだよ?」
「うーん、とりあえず、庭園を散歩しましょう……ちょっと曇っていますけど、悪い天気ではないですし」
天気の話をすると、王子は微妙な、口をひん曲げて、なんとも言えない表情をした。
(もしかして、ロージー様がおっしゃっていたけど、今の天気も殿下の心が反映されているのかも……? 曇りなのを気にしている? 悪い天気じゃないって、気に障っちゃったかな……?)
「曇りは……悪い天気じゃないのか?」
「……? はい、なんだか曇りの日って時間がゆっくりになる気がして、好きですよ」
「ふん……まぁ、散歩くらいは付き合ってやる」
「ありがとうございます!」
王子は不服そうな顔をしながらも、ベッドから降りて、部屋の外に一緒に出てくれた。
「よかったです、出てきてくれなかったら、どうしようと思っていました」
「どうするつもりだったんだよ」
「ペーロちゃんと一緒に再説得するか、クッキーを焼いて、それで説得しようかと……」
「おい、本当にお前は僕をなんだと思っているんだ……お前と話していると、怒りを越えて呆れるくらいだぞ」
「いい案だと思っていたのですが……昔、学び舎でお友達と喧嘩したっていって、部屋に閉じこもった近所の男の子はクッキーで出てきてくれましたよ」
(実際にやったことがあるのか……)
「まったく、子ども扱いするな! 僕はあとふた月で成人の歳になる、おい、なんだその目は……僕がもっと子供だと思ったのか!?」
「はい……てっきり、もっとずっと下かと……」
「その素直すぎる口をぬってやろうか……」
「はっ! も、申し訳ございません……」
「お前と出会ってから、呆れることばかりだぞ……」
大きな怪物の姿の王子は今の外見から年齢がわからなかったが、ヴィオラは言動からてっきりもっと幼い少年だと思っていた。
思ったより年が近くて驚いたが、一度ついてしまったイメージはそうそうにはがれそうにない。
王子が呆れたと言いつつもまだ足を止めずにいてくれることに感謝した。
そして、城の庭園まで来ると、なだらかな風が頬を撫で、暗い部屋よりもずっと息がしやすい。
「殿下は、草花は好きですか?」
「別になんとも思わない」
「じゃあ、今日は草花を愛でて、愛を見つける日にしましょうよ」
ヴィオラが王子の腕をひっぱって連れて行こうとするのだが、ヴィオラの力では動くはずもなく、王子はあきれたため息をついて足を動かした。
「これ見てください、ツバキみたいですね。一度だけ輸入されたのを見たことがあります。本当にこの庭園は不思議ですね、花の時期関係なく花が咲いているだなんて」
「なんだツバキって」
「この木ですよ。でも、黒いツバキは初めてです。わたしが見たのは赤色や白色の花が咲いていました」
「花が好きなのか?」
「はい、草花は好きで……いえ、もしかしたら思い出が好きなのかもしれません。よく母と森を散歩しては草花を眺めて、スケッチをしたり……あ、殿下ここの葉っぱを一枚だけいただいてもよいでしょうか? もちろん、木には負担をかけないようにします」
「……別に一枚くらいなら、許してやる」
「ありがとうございます!」
よほど嬉しかったのか、ヴィオラの顔がぱっと明るくなった。
ツバキの木から、無駄に傷つけてしまわないように、慎重に葉を一枚だけとった。
ツバキの葉をくるくると巻いて筒状にし、片方だけを軽く指で潰し、片方から息を吹くとぶーっと低い音がなった。
「なんだそれ? 音がなったぞ?」
「草笛です。草によってはこうやって楽器になるのですよ。殿下もやってみます?」
「べ、べつに僕はそんな子供っぽいこと……」
「そうですか……じゃあ、また少し歩きましょう」
ヴィオラは少し寂しそうにしながら、また草笛をぶーと鳴らしながら歩き始めた。
歩き始めるヴィオラについて行かず、王子はじっと立ち止まっている。
「おい!」
「なんでしょう?」
「その、なんだ……」
王子はむっとしながら、何か言いたげにしている。
その様子がやはり近所のよく世話を焼いている子供のラックに似ていて、少しくすりと笑った。
「やっぱりやりますか?」
「やり方を教えさせてやってもいいぞ」
「ふふっ、光栄です」
ヴィオラは王子の反応がやはり幼い子供の様に思えて、不思議と懐かしさと可愛らしさに笑みがもれた。
もう一枚採る許可をもらい、さすがに王子の大きな手では丸めることができないので、ヴィオラが近づいて手元を見せる。
「こうやって丸めて、ちょっと先を潰すんです。潰した方から吹くんですよ」
「本当にこんなことで音が出るのか……?」
「やってみましょうよ」
「ち、小さすぎる……」
「わたしが手で支えますから」
ヴィオラが巻いた葉を王子の口元に寄せる。
ヴィオラとの距離がずっと近くなって、王子は固まった。
「ぼ、僕が自分で持つ!」
「……? はい、では丸みを潰さないようにしてくださいね」
王子が力を入れないようにするためか、手が震えている。
そっとヴィオラから草笛を受け取って、口にくわえる。
ふっと息を吹くと、ぺー……と情けない音がでた。
「わぁすごい! これ、音をだすのは難しいんですよ。コツがいるのにすぐに音がでるなんて、すごいじゃないですか!」
「ふ、ふん……そうか?」
ヴィオラが無邪気にはしゃいで、ぱっと明るく微笑んだ。
ヴィオラの無邪気な笑顔を見ると、王子は何故だかふっと顔をそらした。
(な、なんで今、僕は顔をそらした……?)
「殿下は草笛の才能があるのですね。うらやましいです。わたし、初めてやったときは全く音がでなかったんですよ」
「ふん、僕を子供の様だと思っていたくせに、こんなことではしゃぐとは、お前の方がよほど子供じゃないか」
「そ、そんなことないですもの……わたし、こう見えても殿下より年が上ですよ。この前成人になったばかりで、数か月だけですけど……」
「数か月などないに等しい! あまり年上ぶるなよな」
「ぶってないですよ……」
王子は気に入ったのか何度も草笛を吹いて、次第に音がハッキリとしていく。
そんな姿を見ていると嬉しくなって、自然と笑みがこぼれた。
「草笛は他の種類でもできますから、また見つけたらやってみましょうか」
「まぁ、付き合ってやらんでもない」
「はい、付き合ってください。ふふっ、殿下よければなにか植物を育ててみませんか? きっと楽しいですよ」
「か、考えてやらんでもない……」
「はい、考えておいてください。では、もう少し散歩しましょう」
二人の音楽隊は、美しい音色とは程遠い低く鈍い音を奏でながら、二人で庭園散策を再開した。




