14.わたしにできること
ヴィオラは着替えて夕食をとった後、机に向かっていた。
談話室に置きっぱなしになっていた今までの情報を書いていた紙はロージーが部屋までもってきてくれていた。
もう一度、紙に書かれた情報を読み直して、頭の中を整理する。
ロージーが温かい飲み物を用意してくれて、傍で優しく見守ってくれている。
(妖精が殿下に呪いをかけたのは、だいたい1年前。殿下が老婆に変装した妖精が夜に訪れて、泊めてくれとお願いをして、殿下はそれを断った)
(そして『愚かな王子、そして、それを許してしまった使用人たち、全てに呪いをかけた。王子がその醜さのまま本当の愛を見つけその愛を返されたとき、その呪いは解けるだろう』そう言って、殿下と使用人の皆さんは呪いをかけられた。使用人の方たちはこの土地から出られなくなって、殿下は美しいという見た目と……あと、ペイアー様が言っていた力を使えなくなったって)
そういえば、力についてこの国では常識だというが、人間の国で育った自分は知らない。
「ロージー様、殿下の力について教えていただけますでしょうか」
「殿下のお力についてですか? えぇ、もちろん! 殿下、というよりもこの国の王族……竜族の方々のお力なのですが、天候を操り、土地を豊かにすることができるのです」
「本当にそんなことが!?」
「えぇ、王族おかげでこの国は豊かで、他国から攻められることもなく平和に過ごせているといっても過言ではありませんの」
本で読んだことが実際のことだったことに驚いた。
確かに、天地を自由にできるようなら、他国にとっては脅威で、自国にとっては大いなる存在だろう。
「王族の中でも、殿下はとてつもなく魔力がお強い方で、殿下が力を使えば、国全土に嵐が巻き起こすこともでき、この国全体がその年の豊穣を約束されるのです。ただ、今はその魔力の大半を妖精に奪われてしまって、加えて、その力を制御することもできず、お怒りになる度に空が荒れてしまうのです」
ヴィオラはなるほどと思った。
ヴィオラが来たときにルコウが荒れる空を見て慌てていたが、あれは王子の感情が荒れていることをさしていたのだ。
しかしその強い魔力を持つ王子を呪い、力を奪った妖精とは何者なのかと疑問が浮かぶ。
そういえば、妖精についても調べた方がよいと、トトララも言っていた。
「あの、妖精って何者なのですか? どうして殿下から力を奪い、呪いまでかけるようなことを……?」
ロージーは妖精についてきかれると、うーんと首を傾げ始めた。
「妖精は……もともと異質な存在でして、普段はあまり人前には現れず、現れても悪戯をしたり、人を助けたりと、不思議な存在なんですよ。殿下のおつきであるルコウ様も妖精なのですが、あのように人と一緒に暮らす妖精はとても少ないんです。ルコウ様が変わり者なくらい」
「では、今回の呪いも……その、妖精の悪戯の範疇なのでしょうか?」
「う、うーん…そう、もしかしたらなのかもしれません……こちらの常識が通用しないと言われますし……妖精には妖精だけが住まう世界で普段は生活しているのですが、時にはそこへ人をさらうこともあるくらいですから」
悪戯にしては悪質で、多くの人を巻き込みすぎではないかとヴィオラは思った。
「そんな妖精の悪戯に巻き込まれるだなんて……しかも、1年間も……災難でしたね」
「そんなお顔をしないでください、意外とみんな慣れてしまって、まぁ、退屈なのが堪えますが」
「でも、この土地から出られないんですよね? ご家族や友人にお会いできないのはお辛くないですか?」
「まぁ、魔法のハトに手紙を持たせればやり取りができますし、外部からの出入りは自由ですから時々家族が会いに来ますの。だから、王都にいるときとさして変わらないですね、アハハ」
ロージーは少しの不満はあるだろうが、ほとんどが大したことはないかのように笑顔で話している。
ヴィオラが他の使用人に話を聞いた時も、みなさしてここから出られないことは気にしていないようだったが、実際に自分がその状態に陥っていないので、ヴィオラは本当にはその苦労を理解することができないことが歯がゆく感じる。
「それに時々、人が迷い込むことがあって……そう、ヴィオラ様のお父上のように……そういった人が来るときはおもてなしをするのですよ。それだけで気がまぎれますわ」
「父以外にも迷い込んでいた人がいたのですか?」
「えぇ……そういえば、決まって霧が出ている時だったような……時々、数日間霧が出てきて、その時に人が迷い込むのですよ。今思えば、迷い込んでいた方たち、皆さま魔法に驚いていた気がします。もしかすると、皆さま人間だったのかしら?」
そういえば、父が迷い込んだ時も、自分がここに来るときもとても濃い霧が発生していた。
もしかしたら、あの霧がこの城に入るためのカギになっているのかもしれない、とふと思った。
「あの……ロージー様」
「はい、なんでしょう? なんでも聞いてくださいまし」
「呪いをかけた妖精に会うことはできますか?」
「はえっ!? あの妖精に会うのですか!?」
「わたし、ずっとこの呪いが理不尽だって思っていたんです。だってその妖精は突然来て殿下を試すようなことをして、それで自分の納得のいく結果ではなかったからと、殿下に呪いをかけて……殿下にだって、他人からは理解されにくいとは思いますが、理由があったのに……それも聞かずに……」
「ヴィオラ様……」
「それに、本当の愛を見つけて、その愛を返されるっていうのだって、すでに殿下は使用人の方たちのことを信頼して、使用人の方たちだって殿下のことを大切に思っているのに……それは愛を見つけて、愛を返すには当たらないのでしょうか? それなのに、呪いは解けていなくて……やっぱり、納得できません」
「…………」
思いのたけがあふれてしまって、話過ぎたかと思ってロージーを見ると、ロージーは唇を震わせて何故か涙を流していた。
「ロージー様!? あ、あの……すみません、わたし、勝手なことばかり……」
「いえ、違うのです。あぁ、本当に貴女様がこの城に来てくださってよかった。今日初めてであったばかりなのに、ここまでたどり着くだなんて、やはりあたしの勘は間違っていなかった」
「?」
「そうですわね……きっと、この呪いは友愛や敬愛、家族愛、ましてや形だけの愛では解くことができないようなのです……それではない、全く別の愛の形を殿下自身で見つけていただかなくてはいけないのです」
「全く別の愛を殿下自身で……」
「ただ、殿下は呪いにかけられてからお部屋からあまり出ることもなく、お過ごしになっているのです……部屋の中にいては、見つけられるものも、見つけられないと思いませんか!?」
「え?」
ロージーは真剣な顔でヴィオラに迫る。
「殿下を部屋から連れ出して、愛を見つけるお手伝いをしていただけないでしょうか?」
「わたしが『愛』を、ですか!?」
「聞くところによると、あのきかん坊の殿下を談話室まで連れ出してくださったとか……それだけでも、素晴らしい功績ですわ! 妖精に直接会える方法をあたしがルコウ様に相談して見つけておきます。その間に、殿下が愛を見つけるお手伝いをしていただきたいのです! そして妖精に見せてやるのです! 殿下は愛を知らない人ではないと!」
ロージーの気迫にヴィオラはどんどんと気圧されていくが、彼女の期待に満ちた瞳を見ているとそのやる気を分けてもらえるような気がした。
「わ、かりました…わたしにできることは、できるだけやってみます! 殿下に愛を見つけていただきます!」
「……! ありがとうございます、ヴィオラ様!」
ロージーはひしとヴィオラの両手を包み、また涙を浮かべて晴れやかな笑みを見せた。




