13.安心
ヴィオラはロージーに連れられ、自分の部屋へと戻ってきた。
今日、初めてこの部屋にきたばかりだというのに、はるか昔に感じたことのある、家に帰ってきたような安心感を感じた。
ロージーはすぐに温かいお湯を用意して、ヴィオラに口をゆすがせた。
「このようなことになってしまい、申し訳ございません。もう二度とあの阿呆をヴィオラ様に近づけさせませんからね!」
「いえ、本当にそこまでされなくとも……」
「いいえ! まさか、本当にヴィオラ様にまで手をだすなんて……やっぱり、翅を引きちぎりましょう!」
「ほ、ほんとうにもういいですから!」
「ヴィオラ様はお優しすぎますわ……」
ロージーが大きな衣装棚を開くと綺麗なドレスが何着も入っていて、ヴィオラは自分の家の棚には数枚しか着る服など入っていなかったのにすごいなー、なんてまるで目の前のドレスが他人事のように感じた。
「さぁヴィオラ様、そのままでは嫌でしょう。お着替えしましょうね。御召し物はいかがいたしましょう? もう、みんな張り切っていろいろ作っちゃって、悩みますね……と言っても、あとはお夕食に就寝ですから、ゆとりのあるドレスにしましょうか?」
「え? ドレス? まさかわたし用に、ですか? でも、もうこちらの服を貸していただいているのに……」
「いやいやいや、それは仮の服ですから! さぁ、お湯を持ってきますから、身体を拭いて、お着替えをしましょうか……やはり、お着替えはおひとりでされますか? こちらの服でしたら、一人でも着られますからね」
ロージーはお世話係になるといった時から、ずっとヴィオラのことを心配してくれている。久しく向けられていなかったこの気持ちに、ヴィオラは懐かしさを覚え、くすぐったい感覚がした。
だが、醜い自分の身体の傷を思い出すと、すっとその感覚も冷えてくる。
「ごめんなさい、あの……はい、一人で着替えさせてください」
「わかりました。隣の部屋にいますから、何かあればすぐに声をかけてください……そうだ、あの、ヴィオラ様が人間であることは他の者に伝えてもよろしいでしょうか?」
「え? あの、大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫だと思いますよ。人間に対する嫌悪感を持つものなんて、今時いないですし、それよりも魔法が使えないということが重要でして、魔法で作動する場所やものがありますから、その点工夫が必要かと思いまして」
「す、すみません、そんな……ご迷惑を……」
「もうヴィオラ様、こういう時はありがとう、と言って笑顔を見せるんです! そうすれば、ヴィオラ様なら誰だってイチコロですわよ!」
「イチコロ??」
「さぁ、練習しましょう!」
「え? あ、えと……ありがとうございます……?」
ロージーの言う通りにお礼を言って、笑顔を見せようと思ったのだが、顔がひくついて上手く笑えない。
ロージーはうーんと首をかしげて、困ったように微笑んだ。
(そりゃ、こわばるわよね、あんなことがあったばかりだもの)
「よし、こうですわ!」
「ふにゅ!?」
ロージーにほっぺたをむにむにされて、ぐいーんと伸ばされる。
「ほーひーひゃま!?」
「まだ無理かもしれませんが、もっと肩の力を抜いて、ヴィオラ様が安心してもっと笑えるような環境をあたしたちで作っていきますからね」
「……? あひはほう、ほはいます?」
ロージーがヴィオラの頬をむにゅとするのはやめて、優しく包む。
「ヴィオラ様……あなた様がここに来てくださったおかげで、確かに、この城の淀んだ空気が動き始めて、時間が進んだのです。それは、今までここに訪れた誰もできなかった、とてもすごいことなのですよ」
ロージーはヴィオラの頬を優しくなでてから、手を離した。
そして、にこりと微笑んで「さぁ、準備しますね」と、てきぱきとお湯桶と柔らかなタオルを準備して、隣の部屋に行った。
(ロージー様……どうして、こんなに優しくしてくださるの? こんなわたしにはもったいないくらい……皆さまのために、殿下のために、わたしにできることをしよう)
まだ、不安の残る胸を決心が崩れてしまわないように手をあててぎゅっと握った。




