12.あの人の笑顔
ヴィオラは夢を見た。
あたりは真っ暗で、誰かがすすり泣く声が聞こえる。
(誰……泣いているのは、誰……?)
必死に声の主を探すが、一向に見つからない。
探しても、探しても、闇しか見えてこない。
(誰が泣いているの?)
「どうして探すの?」
はっきりと聞こえた。
自分の声だ。
(どうして? だって誰かが泣いているから……)
「関係ないじゃない。それよりも自分のことを考えたら?」
(自分のこと?)
「そっか、惨めだから、考えたくないんだよね? あの人やお義姉さまからは人に見せられないほど身体をぼろぼろにされて、お父さまからは見て見ぬふりをされて、町の人たちもあの酷い人と結婚することを望まれて、結局誰もわたしのことを見てくれない、考えてくれない」
(そんなこと……そんなこと……)
「だから、泣いているあの子を見ることで、考えることで、自分の代わりに慰めて、満足したいんだ」
(そんなこと……!)
「認めてあげなよ。惨めな自分、他人を利用する汚らわしい自分……」
「そんなのっ……はぁ、はぁ…………」
ヴィオラは目が覚めた。
呼吸は荒く、着ているワンピースが汗で張り付く。
「おんや? 随分うなされていたけれど、ダイジョブ?」
声をかけてきたのはペイアーだった。
ヴィオラはいつのまにか見知らぬベッドで眠っていて、傍らの椅子でペイアーは座って本を読んでいたようだ。
「ペイアー様……あれ、わたしいつのまに眠っていたのでしょう?」
「あはは、さっき殿下の背にもたれて寝ちゃってたから、ここに連れてきたんだよ。さすがに疲れがたまっていたのだろうね。ヴィオラちゃん、この城に来てからずっと動きっぱなしだったでしょ?」
「あ、そうだったのですね……ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
ヴィオラがベッドの上で姿勢を正して頭を下げると、ペイアーはいいよといった様子で手を振った。
「それにしても、君ってすごいね。いくら今は呪いで力が使えないとはいえ、この国の王子だよ? それなのに、あんな態度をとれちゃうだなんて、怖くないの?」
「力……? あ、えと……も、申し訳ございません、失礼な態度ばかりをとってしまって……あの、罰はどのように受ければよいのでしょうか」
ここに来てからずっと気を張っていたが、いくらなんでも今までのことは許されないほどやりすぎたのだと、少し眠って冷静になってやっと気が付いた。
王族に対してあのような態度をとって、まだ命があるのが奇跡のようなものだ。
そう思っていたのだが、ペイアーは肩をゆすりながら笑いをこらえていた。
「くっ……ふふ、恐縮しすぎだって、しかも、罰を自分から受けるって言い出すものかな……ふふふ」
「えっ、あれ?」
「ジョーダンだって、別に罰なんてないさ、オレたちの殿下はお優しーからさ」
「そ、そうですか……」
緊張がゆるんで、ほっと肩の力を抜いた。
ほっと息をつけたと思ったのだが、何故かペイアーがヴィオラの座っているベッドに腰かけてきた。
距離の近さに驚いて、後ずさろうとしたが突然両手首をペイアーに掴まれ、拘束される。
ヴィオラは困惑の満ちた震える瞳でペイアーの黒目がちな瞳を見る。
「あ、の、ペイアー様……」
「君ってホントに可愛いね。人を疑うってことを知らない感じ?」
「え?」
「君が、結婚が嫌で逃げるためにここに来たこと、殿下にチクったのオレなんだよね……てっきり、殿下にキレられて怪我のひとつでもするかと思ったのに、一緒に仲良くでてくるからびっくりしたよ……そのまま、逃げ出すと思ったのにさ」
なんてことはなく、とても軽くヴィオラに悪意が向けられて、唐突な言動に身体が固まる。
頭では激しく警鐘が鳴っていて、今すぐに逃げ出したいのに、身体は言うことをきかない。
「ヴィオラちゃん、君は何度かポカをやらかしてる……それがわかる?」
口調は優しいのに、ペイアーが何を考えているかわからないためか、恐怖がヴィオラの奥底からわきあがり、思考を妨害する。
声もだせずに、ペイアーの問いに首を横に振ることしかできなかった。
「そっか、じゃあひとつずつ、普通に生きてたらまず魔法を見たことがないなんて、あり得ないんだよ。いくら田舎でもね。だから、あの反応はおかしいんだよ。ロージーに聞いたよ、ただ物を浮かべる魔法にだって驚いた様子だったって……ロージーはオレとは別に解釈したようだけれど」
ヴィオラはこの城に来てから何度か魔法を見たが、魔法を見る度に驚いてしまっていた。
それもそうだ、ヴィオラの生きていた世界には魔法などなかったのだから。
「それに、今さっきオレが言った殿下の力の事、この国では常識だよ。君、言える? 殿下の力がいったい何なのか……」
自分の顔にすべて出てしまうことを呪った。
確かに、ペイアーに先ほど王子の力について話されたときに首をかしげてしまった。
言い訳もできず、また首を振った。
「あはは! 君ってば、ホント素直で可愛いね。ちょっと憎たらしいくらいだよ……」
声色が明らかに低くなった、今まで聞いていたペイアーの軽い声とは違う。
「君って誰かの差し金? 他国の奴? それともあの妖精? 教えてよ、君の正体」
正体と言われても、何をどう話せばいいのか、この世界からかつて追放された人間だと言えばいいのか、王子を傷つける意図でここにいるわけではないことを説明して納得してくれるのか、ペイアーの求めている答えをうまく説明するにはどうすればいいのかと考えれば考えるほど答えに詰まる。
「答えられない? じゃあ、勝手に調べるから」
ペイアーの4本腕の内、空いている手が動き、ヴィオラの顔に触れられたと思ったら、口の中に指をねじ込まれそうになった。
「いい子だから開けて」
冷たい声で言われると、ヴィオラは反射的に口に隙間を作った。
長い間、継母と義理の姉に暴力を振るわれていたヴィオラは、こういう時に相手に反抗するとさらに酷いことが待っているのだとその身をもって知っているからか、心とは反対に身体が勝手に相手の命令をきいてしまう。
ペイアーにされるままに口をまさぐられる。
恐怖と気分の悪さで涙が静かに流れてくる。
「亜人や人魚に見られる鋭い犬歯はナシ……はい、いい子だったね、いいよ」
いいよ、とは言われたがヴィオラの両手は拘束されたままで、ペイアーにハンカチで口元を拭われた。
「はい、次は身体、バンザイして」
して、と言いながら両手は拘束されているので、そのまま持ち上げられる。
ペイアーが手に取ったのはヴィオラの着ているワンピースの裾で、何をされるのかわからない恐怖が限界を迎えてヴィオラがいやいやと首を必死に横に振るが「脱いで」と一蹴され、ヴィオラは震えて力が抜けた。
ペイアーがワンピースをヴィオラの胸の下あたりまでまくり上げると、ヴィオラの目も当てられないような、赤紫の火傷だらけのお腹と太ももがあらわになる。
ペイアーは一瞬固まったが「はい、背中もみせてね……鱗が生えていた跡もなし……そもそも、魔力が感じられない。そうか……」と言ってヴィオラをくるりと回した。
そして、やっとペイアーの目的が終わったのか、ヴィオラの拘束はとかれた。
しかし、それでもヴィオラは動けないでいて、涙も相変わらず止まらない。
「君……人間ってやつ?」
背中越しに尋ねる声は探る様子だった。
ヴィオラは言葉を発せず、こくりと頷いた。
ペイアーは細く息を吐いて、もとに座っていた椅子に深く座る。
そして、鞄から手帳を取り出し、ペンで何かをさらさらと書き留めた。
書き終えると、手を組んで「うーん」と言いながらヴィオラを見る。
ヴィオラは自分を守るようにぎゅっと自身を抱き締めている。
「君の秘密、正直拍子抜けだなぁ。人間はかつて残虐の限りをつくしたから、女神様に世界から追放されたというけど、別に君はどう見たって普通の女の子……いや、魔力もない分むしろ非力なくらいだ」
話が続くがヴィオラはぴくりとも動かない。
「けどまぁ、イマドキ人間って言ってもほとんどの人がピンとこないね。べつに嫌悪感もないし……」
ヴィオラの反応があまりにもないので、ペイアーが再度ベッドに腰をおろすと、ヴィオラの肩がびくりとはねた。
「正直に言おう、嫌悪感はなくとも君はここにとって異質な存在だ。生半可な気持ちでここに留まろうと思うなら、君のお家に帰った方がいい。たとえ、嫌な結婚が待っていたとしてもね」
「……」
「殿下はね、可哀そうな子さ。自分の高貴な血のせいで、幼いころから人から利用されそうになったり、恐れられたり。でも皮肉にもこんな馬鹿げた呪いのせいで、殿下の見た目に引き寄せられた女どもも、殿下の竜族の力目当ての阿保な貴族どもも寄り付かなくなった。その意味ではストレスフリーなんだよね、今の状況は。つまり、ヨケイなんだよ、君のお節介は」
まるで子供を諭すように、優しくささやいているのに、冷たさばかりを感じる。
「この部屋から出て左の扉を抜ければ、誰にも見つからず、すぐに外に出る。後のことは気にしないで『やっぱり、あの子は呪いを解くのを諦めたんだ。またいつもと変わらない日々になる』って、みんなそう思うさ。殿下だって、今なら傷は浅い。決断するなら今だよ」
ヴィオラは浅い呼吸を繰り返し、ペイアーを恐る恐る見る。
真っ黒な瞳と表情のなくなった顔はずっと何を考えているかわからない恐怖を植え付ける。
(ペイアー様の言う通りだ……わたしはなんて卑しかったんだろう。嫌なことから逃げ出す理由に殿下のことを利用して、人間ということを皆さんが気づかないことをいいことに隠して、惨めな自分を隠して……呪いを調べるだなんて勝手に言い出して……)
(……呪いを調べるという目的を作ることで、ここが自分の居場所なんだって思い込みたかったんだ……そんなわけがないのに)
(こんな自己中心的な考えを見透かされて、ペイアー様も怒るに決まっている……)
目を諦めでゆっくりと閉じる。
しかし、頭に浮かぶのは、涙を浮かべ、苦しみ、暴れて自分を傷つける王子の姿。
暗い部屋に閉じこもり、独りぼっちの王子。
寂しそうに、話をしてくれた王子。
とても心穏やかに幸せそうに見えない彼の姿ばかりが浮かぶ。
(それでも、わたしは……やっぱり……殿下に笑っていてほしいって思ってしまう)
自分の浅はかさにめまいと吐き気がする、まだ依然としてどうやって今まで息をしていたのかを思い出せなくて、ひゅーひゅーと浅い息を繰り返す。
「ぺ、イアーさま……かひゅー……ごめ、ごめんな、さい……ゆるし……ここに……いさせ……ひゅーおね、が……いし……ます」
(まだ、この子はこんなに脅されても、ここにいたいっていうのか……)
「過呼吸が起こっているね、ヴィオラちゃんゆっくり息を吸って吐いて、無理に話さなくていいから」
「かひゅ……でんかが……ひゅ、えが、おに……なれ、る……よに……」
「……殿下の笑顔」
ペイアーは、最後に王子の笑顔を見た日を思い出そうとすると、はるか遠い昔の幼い時だった。
王子がペイアーの大切にしていたガラスのペンを誤って壊してしまったことがあった。王子は心から謝ってくれたし、ペイアーは王子のことをすぐにゆるした。
その時に、ガラスのペンで王子が手に傷をつくってしまったのをペイアーが魔法で治療をして、喧嘩もなく終わったのだが、そのことがペイアーの父の耳に入ったとき、「殿下のお傍に怪我をするようなものを置いていただけではなく、謝らせるとは何事だ!?」と、烈火のごとく怒り、ペイアーはひどい折檻をうけた。
また、その折檻による怪我を王子が見た時には、王子は悪くないのに本当に泣きそうな顔をしていて、申し訳なくなるほどだった。
「ごめん、ごめんね、ペイアーにいちゃん、僕のせいで……」
「お前のせいじゃねぇよ、あのクソ親父が頭イカれてんだよ。チッ、こんなイケてる顔を殴りやがって……魔法で治せないように、魔封じまでしやがった」
「ごめん、ごめんなさい……」
「いいって、それよりさ、オレの顔どう?」
「どう、って?」
「まだイケメンかってこと、オレ、明日女の子とデートなんだよね」
「う、うそぉ、にいちゃんまたそんなこと考えてるの!?」
「これは、オレの生きがいなわけ! 女の子を愛するためにオレは生まれてきたんだよ……」
「なんて言うんだっけ、こういう気持ち……そう、ゲンメツ」
「何を!? 言ったなこいつ!」
ペイアーに頭をわしゃわしゃされ、ほっぺをむにむにされて、王子は「もう、やめてよぉ」なんて言いながら、笑っていた。
こしょぐると涙を流して笑い転げていた。
そんな無邪気さもあったのに、今はそれを見る影もない。
とても、とても遠い出来事になってしまった。
「あいつの……笑顔……」
ペイアーは、はるか遠い思い出に頭が引っ張られてしまったが、ヴィオラの過呼吸がひどくなる音にハッと我に返った。
「かひゅ……せめ、て、ひゅ……で、んか……ひゅーに……えが、お……もど、かひゅ……で」
「大丈夫、ゆっくり聞くから、まずは息を整えよう? ゆっくり、すって……はいて……」
ヴィオラにやっと言葉が届いてきたのか、息を吸ったり吐いたりをしようと試みようとするが、涙がひっきりなしに流れて息を整える邪魔をする。
(まずいな……ちょっとやりすぎた……)
ペイアーがヴィオラの背中をゆっくりとなでていると、部屋の扉が力強くたたかれた。
「ヴィオラ様!? ヴィオラ様いらっしゃいますか!?」
焦っているロージーの声が聞こえてきた。
扉の取っ手が、がちゃがちゃと何度も動くが、ペイアーが鍵を内側からかけておいたので、開かない。
(やっ、ヤバい! こんな状態をロージーに見られたら……殺される!!)
ペイアーが息をひそめると、突然静かになった。
諦めて他を探しに行ったのかとほっと息をついたが、今度は扉の取っ手がぎりぎりと音をたてて、きしみ始めた。
(おいおい、嘘だろ……!?)
そして間もなく、取っ手は周りの部分ごとバキリとすごい音をたてて引き抜かれた。
ぽっかりとできた穴から、ロージーのバラ色の目が見えた。
「ひっひいいいいぃ!?」
ペイアーが恐怖で悲鳴をあげる。
ゆっくりと扉が開かれると、鬼の形相のロージーが立っていた。
「ペイアー……ヴィオラ様を普段使われていないこんな部屋に連れ込んで、ベッドで、一体何をしていたのかしら?」
「え、あーっと、いやぁ……これは……」
「どうしてヴィオラ様がそんなに泣いて、怯えていらっしゃるの?」
「お、落ち着け、平和的にいこう、な?」
ペイアーが冷や汗を垂れ流して、ロージーを落ち着かせるように手でどうどうとするが、怒りであふれているロージーが止まるはずもなく、ペイアーの首根っこを掴み、軽々とぶん投げてベッドから下ろした。
ペイアーは「おわっ!!」と叫びながら床に転がる。
ロージーの手首から茨のツタが伸びてきて、ペイアーの手足をぐるぐる巻きにして拘束した。
「ヴィオラ様に……ヴィオラ様に手を出すなんて……さすがにそこまでなりふり構わない奴だったなんて……」
「ちょ、ロージー、これとげが刺さってめっちゃ痛いんだけど!」
「あぁ、ヴィオラ様……お可哀そうに、こんなにおびえて……おひとりにしてしまって、申し訳ございません!」
ロージーはペイアーを無視してヴィオラの傍に寄る。
ヴィオラはまだ涙と過呼吸が止まらなくて、ぐったりしていた。
「ロ、ジ、さま……ひゅ……ごめ……なさい……かひゅ、ごめん、なさい……」
「ヴィオラ様! ヴィオラ様!?」
「ヴィオラちゃん過呼吸なんだって! ちょっと落ち着つかせて深呼吸させて」
「ヴィオラ様、もうあたしがいますからね。大丈夫ですよ。ゆっくりと呼吸してください」
ロージーに優しく抱きしめられ何度も深呼吸を繰り返すとやっと落ち着いてきたようで、ヴィオラの呼吸が安定してきた。
小さな声で「もう、大丈夫です……ごめんなさい、ロージー様」と言ってロージーから離れたが、まだ顔色が悪くてとても大丈夫だとは到底思えなかった。
「ヴィオラ様、何も悪くないのに謝らないでください。あの悪漢に何かされたのでしょう? 教えてください、次第によってはあれを処分しますから」
「え? 今処分って聞こえたんだけど!? ジョーダンだよね? ジョーダンだよね!?」
ロージーの温かい手がヴィオラの頬を包んで、まっすぐに見つめる。
しかし、どうにも罪深さを感じてしまって、ロージーの目をヴィオラは見られない。
「わたしが悪いんです。隠し事ばかりして、ロージー様にも……わたしが人間だってこと……隠してて……本当にごめんなさい」
「ヴィオラ様が……人間?」
ロージーの表情がこわばるが、それは一瞬だけであった。
うーん、と目をつむって考えて、また目を開いた時には優しい笑顔が戻ってきていた。
「ヴィオラ様、人はいくつも秘密を抱えるものですわ。それは普通です。それに、驚きはしましたが、人間だということは大きな問題ではありませんよ」
「え……? でも……こんなわたしはここにいる、資格がなくて……」
「あたしは、ヴィオラ様があのときまっすぐ殿下に向き合ったこと。そして、これからも向き合うためにここに留まる選択をしてくれたこと。その事実だけで充分です」
「ロージー様……」
「……それよりも、今は」
ロージーの視線がヴィオラからペイアーに移ると、視線は優しいものから吹雪が吹くように冷たいものになる。
「こいつをさっさと処分しましょう」
「え、ちょ、ロージー?」
「あの……本当に、ペイアー様は悪くなくて……わたしが隠し事をしていたばかりに、ペイアー様を不安にさせてしまったのがいけないんです。それに、全部殿下のためだと思うんです」
「ヴィオラ様、いくらなんでも何もなかったなんてとても思えませんが、ヴィオラ様がそんなにおっしゃるなら……」
「ヴィオラちゃん…………いやぁ、あはは、助かったよぉ、ヴィオラちゃんの口に指突っ込んだり、お腹とか、背中とか見せてもらって触診したんだけど、赦してくれるなんて、ヴィオラちゃんはホントに優しいなぁ!」
「は? く、くちにゆび?? おなかをさわ……いいいいやああああああ!!??」
ロージーは発狂して、ペイアーの股間を踏みつけて、背中の翅を引きちぎろうとぎちぎちと引っ張る。
あまりの痛みにペイアーは「ちょ、くぅ……」と声にならない音を漏らしている。
「女の敵! ヴィオラ様の敵ですわ!!」
「ロージー様、止まって! 止まってください!」
「止めないでください! 今、殺っておかないと!! ヴィオラ様の貞操がああああ!!!」
「このままだとペイアー様が本当に死んでしまいます!」
ロージーを落ち着かせるのにだいぶ苦労した。
結局、ペイアーの翅は無事だったがその後何度かロージーに蹴りを入れられていた。
「気持ちが悪いでしょう? 一秒でも速く口をゆすぎましょう!」
そういうと、ロージーは軽々とヴィオラを横抱きにし、部屋から出ようとした。
「あの、ペイアー様はあのままじゃ動けないんじゃ……」
「あんなのほっときましょう! 翅と……(いや、ヴィオラ様の前では言えないわ)……が、まだ無事な分ヴィオラ様の慈悲に感謝してほしいくらいですわ」
ロージーはまだ足りないくらいだとペイアーの背中に蹴りをもう一度入れて、部屋をヴィオラとともに出た。
(ペイアー様……大丈夫じゃないよね……どうしてロージー様の前で自分のしたこと言ったのかな……もしかして、わざと……?)
ペイアーの感情も考えていることも全てがわかるわけではないが、本当は怖い人ではないのかもしれないとほんのりと思った。




