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怪物に愛されて、少女は幸せな日々をおくる【4章やる!】  作者: Nadi
怪物の章

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10.わからない人

 ヴィオラがペーロを追って薄暗い廊下を進んだ先で扉に突き当たった。

ペーロがかりかりと扉を前足でひっかくと、扉はひとりでに開き、ペーロは慣れた様子で部屋に入ってしまった。


 「ペーロちゃん!……あぁ、入っちゃった。誰の部屋だろう……?」


 ヴィオラはどうしようかと迷ったが、心の底にまだ生き残っていた好奇心がヴィオラの足を部屋の内に向かわせた。


 部屋はほこりっぽく、廊下よりもずっと暗い。

しかし、部屋の主は誰なのかは獣の濃い臭いですぐにわかった。

王子に聞きたいこともあったし、何よりも当事者の彼に聞かなければ、この呪いの正体に近づけない。


 「し、失礼します……」


 返事はないが、ヴィオラはそのまま部屋の奥に進んでいく。

淀んだ空気に、壊れて存在意義を失った家具ばかりが部屋を埋めている。


 (自分の部屋でいつも暴れているのかな……今まで城を回ってきたけれど、特にこんな風に荒れているところはなかった。使用人の方たちが片付けたかもしれないけれど……)


 足元でぱきりと音がして、見ると鏡の破片があたりの床に散らばっていた。

破片には乾いた赤黒い液体が張り付いていて、割った本人は酷い怪我をしたのだろう。


 (……殿下は今までどれほど自分を傷つけてきたんだろう)


 さらに奥の部屋に行くと、寝室にたどりついた。

ベッドで横になる大きな身体が息をする度に上下している。


 先に部屋に入ったペーロが王子に近づいていき、尻尾を振っている。

王子はゆっくりと狂暴な爪が生えた手を伸ばすと、ペーロが無邪気に王子の手にすり寄った。王子はその様子をただじっと見つめている。


 (殿下、わんちゃんが好きなのかな? 今、声をかけたら驚かせちゃうかも……)


 そっと後ろに下がったとき、足元の鏡の破片を踏んづけてしまい、ぱきりと音がでる。

王子がヴィオラに気付いて、ぎろりとヴィオラを睨みつけた。

そして、ものすごい速さで目の前まで跳んできて、ヴィオラに牙を見せ、赤い眼光がヴィオラを捕らえる。

この狂暴な瞳にすでに慣れたかと思いこんでいたが、こんな近くで敵意をむき出しで睨みつけられると、足がすくむ。


 「何故、ここに来た?」

 「ペーロちゃんを追ってきたらこの部屋にたどり着いて…あの、わたし、殿下とも呪いについて話がしたくて……」

 「ふん、下手な演技などやめろ。報告があったぞ、お前の目的は家に帰らずここに留まることなのだろう? 婚約者との結婚が嫌で家から逃げ出し、帰りたくないのだろう? 呪いについて考えるなどと言っていたが、結局はここに留まる理由が欲しかっただけだろう?」


 王子の口調がどんどん早口となり、苛立ち始めているのがわかる。ヴィオラは口を挟む隙などなかった。


 「少しでも信じた僕が馬鹿だった!! 呪いのことなど、本当はどうだっていいのだろう! 僕のことなどどうでもいいだろう!? 行くところがないのならば城に滞在するのは許してやる……だが、二度と僕の前に現れるな! 次に現れたら、その細い首をへし折ってやる!!」


 王子の咆哮がヴィオラを追い詰める。

あまりの恐ろしさに全身がひりついて、本能的に拒絶反応を起こして、逃げ出したくてたまらない。

しかし、それでもヴィオラは一歩、前にでた。本当は怖くてたまらないのだろう、スミレ色の瞳に涙がたまっている。


 「……ぃゃ……」

 「なに?」

 「絶対嫌です!!」


 ヴィオラはついにたまらなくなって涙がこぼれてしまった。

しかし、心は折れておらず、ヴィオラは王子を無視してずんずんと部屋の奥に進んでいく。

そして、ついには奥の王子のベッドにどっかりと座りこんでしまい、梃子でも動かないぞ!という意志を示した。


 「おいっ! 人の話を聞いていないのか!? さっさとここから去れ!」

 「ぐず……聞いてくれないのは殿下の方です! わたしは確かに結婚が嫌で逃げ出す理由に殿下のことを利用しました。今だって家に帰りたくありません……でも、呪いを解きたい、皆さまを……あなた様を助けたいと思ったのは本当です……ずずっ」


 ヴィオラは鼻をずびずびとすすりながらもハッキリと言葉を口にした。


 「信じてほしいとは言えません……でも、殿下から呪いについてききだすまでは、わたしは動きませんからね! 本気で部屋から出したかったら、引きずり出してください!」

 「なっ……ううううぅ……あぁくそっ! なんでお前は……僕に関わろうとするんだ!? 僕は怪物だぞ!? 少し力をいれれば、お前のことなどすぐに殺せる、醜い怪物なんだぞ!?」

 「ご自身のことを『怪物』とおっしゃいますが……わたしは、まだ殿下のことはよくわかりません。乱暴はするけれど、でも周りの人が怪我するのは嫌で、使用人の皆さまのことを好きなのに、それを示すすべをわかっていなくて、あとペーロちゃんのことも好き……わたしから見た殿下はそんなよくわからない人なんです。そんな人です」

 「人……? 僕が……?」


 怒鳴っていた王子が、頭を打たれたような衝撃がしてたじろいで後退する。

視線の先にいる少女は皆から恐れられる怪物をまだ人というのか?

今だって涙を流して、身体は恐怖で震えているというのに。


 「…………なんなんだ、お前は……? わけがわからない」


 王子はぽつりとつぶやく。

ただ、つぶやきに対する答えを自分自身の内に求めているのか、頭を抱えてふらふらとしている。


 「………………呪いについてだったな。だが、話せることなんて少ないぞ」

 「いいんです、教えてください、その日にあったこと、呪いがどのように起こったか、それに呪いをかけた妖精について」

 「はぁ……とりあえず、僕のベッドから降りろ、よくもまぁ王族のベッドに断りもなく座ったな」

 「あっ! も、申し訳ございません……」

 「談話室でいいだろう。ついてこい」

 「はい!」


 大きな四つ足の獣の姿の王子の後を王子と比べるずっと小さな少女がついていく。

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