第7話 労役
役人の宣告に、村の広場は水を打ったように静まり返った。
エルナが、震える声で問い返す。
「労役……ですと? いったい、何故ですじゃ」
「決まっておろう」
役人は鼻で笑い、羊皮紙をエルナの目の前に突きつけた。
「このセドナ村は、領主様への納税がこの三年間、滞っておる。これはその滞納分を労働で支払ってもらうという、領主様の温情だ」
温情、という言葉とは裏腹に、その声は氷のように冷たい。
「よって、この村から男手を一人、徴収する。期間は一年。異論は認めん」
その言葉に、村人たちの間に絶望が広がった。
この小さな村にとって、男手の一年はあまりにも大きい。誰が行くのか。働き盛りの男か、それともまだ若い少年か。誰もが互いの顔を見合わせ、唇を固く結ぶだけだった。
その重い沈黙を破ったのは、悠真だった。
「――俺が行くよ」
凛とした声が、広場に響く。
すべての視線が、悠真に集中した。
「あんたさん……!?」
「何を言ってるんだい、悠真!」
エルナが驚きの声を上げる。リリアも、信じられないというように目を見開いていた。
悠真はまっすぐに役人を見据え、もう一度はっきりと告げた。
「俺が行く。それで、文句ないだろ?」
役人は、奇妙な身なりの悠真を値踏みするように見ると、つまらなそうに肩をすくめた。
「誰でもよい。男手は男手だ。では、支度をしろ。すぐに連れていく」
話は決まった。
エルナの家に一度戻ると、リリアが駆け寄ってきた。その翡翠色の瞳は、涙で潤んでいる。
「ごめん……なさい……!」
「え?」
「あたし、あなたのこと、ずっと怪しい人だって……! それなのに、あなたはこの村のために……っ」
しゃくりあげながら、リリアは悠真に頭を下げた。優しくできなかったことへの、心からの謝罪だった。
悠真は、そんな彼女の頭をそっと撫でた。
「大丈夫だよ。まあ、なんとかなるさ」
悠真は努めて明るく笑ってみせる。
質素な作りの、護送用といった馬車の荷台に乗り込む。エルナが、涙をこらえながら小さな布包みを渡してくれた。中には、黒パンと干し肉が入っている。
馬車が、ゆっくりと動き出した。
悠真は荷台から後ろを振り返る。そこには、村人たちが総出で見送る姿があった。
エルナ、リリア、ドブさらいを共にした男たち、そばを美味しそうに食べていた子供たち。
その全員が、いつまでも、いつまでも悠真に向かって手を振っていた。
その光景に、胸が熱くなる。
(ありがとう、みんな)
心の中で、そう呟いた。
その瞬間、胸の奥で温かい光が灯るのを感じた。一つ、また一つと。
それは、村人たちの声にならない感謝の気持ち。
(あ……)
引っ越しそばの時の感謝と、今、この瞬間の感謝。
女神様の言っていた『ありがとう』が、また百、集まった。
これで、合計三百だ。
しかし、そのありがとうは、少し切なかった。
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