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即興王子、朝のニュースに生出演

 ツアー終了後、約1ヶ月経ち、チーム光の周りも少しは落ち着いてきた頃。


朝のニュース番組、生放送のスタジオ。

 その中央には黒いグランドピアノが据えられていた。


 その周りにはテレビスタッフの他に、全国ツアーに帯同した配信チームの姿も。


そう、今日は「男性初全国ツアー完走!あの即興王子がスタジオへ!」という朝のニュースのコーナーに光が出演予定なのだ。


 本来ならテレビ放送だけのはずだった。

 だが詩音とマリ姐が事前に交渉し、条件を突きつけた。


マリ姐が言う。


「出演させるなら、本人のチャンネルにて生配信も同時に行います。アーカイブも残します」


 テレビ局のプロデューサーは難色を示した。だが詩音がすっと一言。


「それが呑めないなら、光は出ません」


 その一言で、局側は押し黙り、条件を受け入れるしかなかった。

 こうして全国放送と同時に、光のチャンネルでも配信が行われることになった。コメントもアーカイブも、すべて残る。



 その光は現在、控え室のソファに沈み込み、朝の早さに完全敗北していた。


「……眠い……」


 雪はその横で苦笑しながら身体をゆする。


「光、そろそろ本番だよ? 起きて」


「起きてる……」(起きてない)


 そのまま、ふにゃっと雪の肩に寄りかかる。

 控えめで弱々しい“朝弱甘え”。

 雪は一瞬で耳を真っ赤にした。


 マリ姐はため息。


「だからプロデューサーに言ったのよ。スケジュールの決まったテレビなんて絶対向いてないわよって……」


 詩音は柔らかく笑いながら言う。


「でも、“同時生配信+アーカイブ残し”が通ったのは大きいですよ。

 普段の配信と同じなら光さんもやりやすいですし」


 遥が頬に手を当てながら苦笑した。


「たしかに、生放送で生演奏なら光くんの独壇場って感じがするけどねぇ。」



 すでに配信カメラが回っており、

雪の肩に寄りかかる光がそのまま映っている。


 配信コメント:

『赤ちゃん?』

『雪ちゃんに寄りかかってて草』

『光くん、電源まだ入ってない』

『本番……だよね?』


 スタッフが呼びに来た。


「大空光さん、本番入りまーす!」


「……はい……」


 雪がすぐ横に寄って支える。


「ほら、立って……!」


 光は半分寝ながらスタジオへ向かった。


 ⸻


 スタジオ中央には黒いグランドピアノ。

女性アナウンサーは A と B の二名。


 Aアナはしっかり者。

 Bアナは光を見るたび肩が跳ねている。


配信コメント:

『Bさん完全にガチファンだろ』

『好きな人を前にしてる顔ww』


 Aアナが進行に入り、制度説明を経て質問する。


「光さんは“男性初の全国ツアーアーティスト”として注目されています。

 政府は“特定男性サポート制度”によって、男性がもっと前に立てるよう支援を進めていますが、この“男性が前に出るべき”という流れをどう感じていますか?」


 光は軽くまばたきし、落ち着いた声で言う。


「んー……俺、男性がどうとか考えたことないです」


「考えたことがない……?」


「俺が前に出てるのは、俺が向いてて、やりたくて……

 それを支えてくれる人がいたからたまたまここまで来れただけです。

 俺一人じゃ無理でした。

 ちゃんと見てくれてる人ならみんな分かってると思います」


 Bアナ、めっちゃ頷く。


配信コメント:

『Bさん頷きすぎてて草w』

『光くん、音楽以外は自分で何もできないもんね笑』

『ほんそれって感じ……』


 光は続ける。


「前に出たい人、向いてる人が前に出ればいいだけで……

 性別で役割を決める必要はないと思います。

 性別は……ただの属性です。

 あとは、前に立つ人が偉いわけじゃなくて……

 向いてることを精一杯やれればいいと思います」


 スタジオが一瞬で静まり返る。


 裏ではマリ姐が急な被弾で涙ぐみ、

遥が背中を撫でながら「よかったねぇ」と慰めていた。


 配信コメント:

『光くんの価値観、朝から刺さる』

『言葉が優しいのに強い』

『Bさん死んでる』


 Aアナが進行を戻す。


「……では、光さんの“向いていること”をそのまま音楽で。

 まずは一曲、お願いできますか?」


「はい」


 光がピアノへ向かい、鍵盤に手を置いた瞬間──


 目がぱちっと開いて覚醒する。


 配信コメント:

『覚醒したwww』

『このギャップよw』

『ONになった瞬間が分かるの草』


 ⸻


■1曲目:ツアーメドレー

「また会ったねと、初めましてと」→「星空」


 光の指先が優しく落ちる。


 再会と始まりが混ざり合うような、

温度のあるメロディがゆっくり流れ出す。


 配信コメント:

『一曲目それなの、最高か』

『早くまたライブ行って”ただいま”言いたい』


 コードが進むと、空気が夜へ変わり始める。

 星空のモチーフが立ち上がった瞬間──


 配信コメント:

『星空きたぁ!!!』

『切り替わり神』


 ツアーの思い出を振り返る流れから、最後は満点の星のきらめきのような高音域が際立つ。


 ⸻


「じゃあ、次はリクエスト行ってみましょうか〜。Aさんからどうぞ!」


 ⸻


■アナA →「となりのトトロン」


「私は……『となりのトトロン』をお願いしたいです」


「いきます」


 光の指先が鍵盤に触れた瞬間、

原曲の素朴で子どもっぽい可愛さはそのままに、

そこへ大人びたジャズや軽やかなボサノヴァの息遣いがそっと差し込まれる。


 森を散歩するような柔らかさと、朝の光に溶ける透明感。

子ども向けのメロディの核はそのままに、まるで高原の朝を散歩するようなおしゃれな旋律へ変化していく。


 Aアナが、思わず胸に手を当てた。


「……こんなに綺麗になるんですね……」


 配信コメント:

『原曲あんなに子ども向けなのにオシャレすぎ』

『朝の空気に合いすぎて感動した』

『光くんほんとなんでもできるな…』


 ⸻


■アナBの番(ガチファン/歌うはめになる)


「じゃあ……次はBさん、お願いします」


「わ、わたしは……“翼の眠る場所”が……す、好きで……」


 光は軽く首をかしげる。


「すみません。たぶん知らない曲なので……

 一フレーズ歌ってもらえると嬉しいです」


「ッッ……!?

 光さんの……前で……? 歌……?

 む、無理です……!」


 配信コメント:

『Bさん崩れ落ちそう』

『ガチ恋の人に急に目の前で歌わせるなww』


 光は優しい声で言う。


「大丈夫ですよ。ゆっくりで」


 トトロンの余韻を弾きながら、静かに耳を傾ける。


 Bアナは震える声で10秒だけ歌った。


♪「……翼が……まだ……眠る場所で……」


 光はその震えを丁寧に受け取るように、目を閉じた。


 ⸻


■即興・四段変形


 光はBアナの震えをそのまま吸い込むように深く息をして、鍵盤へそっと指を落とした。


【①透明バラード】


 一音目から、空気が変わった。


 歌にあった震えを受け取ったような、薄いガラスの膜をなぞるような繊細さ。

 朝霧の奥で、陽が昇る直前の、

 冷たくも優しい世界がゆっくり立ち上がる。


 Bアナの震える息、その鼓動の揺れまで拾い上げ、

 それらを包み込むように優しく音が重なっていく。


 静寂が透明な湖に変わり、

 そこへ柔らかい光が差して波紋が広がったような――

 そんな“息の中にある感情”だけを抽出した音。


 やがて、光の指先がそっと跳ねる。


【②疾走ロック】


「……なんか乗ってきた」


 先ほどの透明感が、一瞬で破られた。


 低音が地を蹴り、

 高音が鋼の翼になって空へ突き刺さる。


 翼が眠りから覚め、大きく羽ばたく瞬間のような爆発。

 先ほどの儚さが嘘のように、力強い推進力で空へ上昇していく。


 光自身が愉しんでいるのが丸分かりの音。

 その一言を合図に、旋律はさらに速く、強く、風を切り裂くようなロックピアノへ変貌する。


 配信コメント:

『一瞬で原曲崩壊したw』

『これ10秒の歌から作ってるの意味わからん』


 そして突然、光の肩の力がストンと抜ける。


【③風ボサノバ】


 熱がふっと冷却され、

 軽やかな海風がスタジオを抜けた。


 コツ、コツ、とリズムを靴先で刻みながら、

 光の右手は波のきらめきを、

 左手は海面を滑る鳥のような滑らかさを描く。


 波間をゆらゆら漂うような柔らかさ。

 ロックで燃えた世界を、潮風が静かに撫でていく。


 配信コメント:

『温度差で風邪ひく』

『急に海になった』

『ボサノバの手つきが完全にプロ』


 そして光は、最後の形へ。


【④壮大クラシック】


 ボサノバの軽さから、

 一拍の静寂を置いたのち――


 壮大なオーケストラが鳴り響いたような音の壁がスタジオを包む。


 たった十秒の歌の断片が、

 まるで映画のクライマックスを飾るテーマ曲のように膨れ上がる。


 深い低音が大地の震えを描き、

 中音域が人々の祈りを積み重ね、

 高音が空へと伸びて光の柱になる。


 あまりの展開にBアナは胸を押さえて呆然としたまま、椅子へずるりと座り込んでいた。


 ⸻


 最後の一音が空気に溶けると、

光はBアナへ向かって柔らかく微笑んだ。


「……いい曲でした。歌ってくれて、ありがとうございます」


 Bアナは返事もできず、ただ茫然と目を潤ませていた。



 配信コメント:

『いや即興9割なんよw』

『優しいけどBさんの手柄じゃないんよwww』


 ⸻


■番組勝手にエンディング事件


 光はそのまま番組のタイトル曲を弾き出し、さらには自然にエンディング曲へと繋げていく。


「えっ!? エンディング!? まだ続きあります!!」


 スタッフが慌てて止めに入る。


「……え?そろそろ終わりにしようかなって。おーい?」


 配信コメント:

『“おーい?”じゃねぇwww』

『勝手に番組〆にいくなw』


 ⸻


■終了後のチーム光


 雪

「……やっぱりこうなった……」


 マリ姐

「ライブはあなたのさじ加減で終わっていいけど……

 テレビは違うのよ……!」


 詩音

「でも今日も光さんでしたね」


 遥

「うんうん、よくがんばったねぇ〜」


 ⸻


■おまけ:アナBと光


 AアナがBアナの背中を押す。


「ほら、行ってきなよ! 今しかないって!」


「む、無理……無理無理……!」


 押し切られ、Bアナは光の前へ。


「ひ、光さん……あ、あの……サイン……ください……!

 あと、もしよければ握手……も……」


(スタッフ小声

「男の子に握手は攻めすぎだろ……」)


 光は普通に笑って手を差し出す。


「はい、どうぞ。サインも……初めてなんですけど書きますね」


 色紙中央に“大空 光”と丁寧に名前を書くだけのシンプルサイン。


 Bアナは胸に抱えて震えた声で礼を言い、Aアナに引っ張られるようにして控室へ戻っていった。


 ──そしてその日の夜。


 Bアナの一人暮らしの部屋。

 光ライブのタオルやキーホルダーでぎゅうぎゅうだった“推し棚”は、その日受け取ったサイン色紙のために総入れ替えされていた。


「……よし、ここ……!」


 急ごしらえで中央に作られたスペースに、

色紙をそっと立てかける。


 明かりを落とした部屋で、

「大空 光」の文字だけがふんわり光って見えた。


 Bアナは小さく笑い、ぽつりと呟く。


「……一生、大事にする……」


 そのサインは、

彼女だけの“ひそかな宝物”として静かに収まった。

更新再開しましたー!

光の音楽物語、まだまだ続くので楽しんでいただければと思います!


カクヨムの方で、同じタイトルで数話先行で配信中なので、もしよければそちらでもどうぞ!

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