ツアーファイナル打ち上げ - 未来を笑って話せる夜は
ファイナル公演を終えた夜。
小さな居酒屋の個室を借り切って、仲間たちとスタッフが集まっていた。
テーブルには唐揚げや枝豆、鉄板餃子に各地の差し入れ、ごま油が香るサラダ、締めの鍋まで――ツアーで疲れた身体に沁みる料理が所狭しと並ぶ。
「かんぱーい!」
マリ姐のビールジョッキが高く掲げられ、乾いた音が弾けた。
遥も微笑みながらジョッキを合わせる。ツアー前から何度も顔を合わせてきた仲間たちとの乾杯――その輪の中にいるのが、なんだか少し誇らしかった。
光はウーロン茶。詩音も小さなグラスを胸の高さで掲げ、雪は少し照れながら、控えめに声を添えた。
「……おつかれさまでした」
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◆酔ったマリ姐の本音
しばらくは談笑と笑い声。成功の余韻に包まれ、箸も酒もよく進む。
やがてビールが二杯、三杯と重なるうち、マリ姐の頬がほんのり赤くなる。声も一段、明るい。
「……もうねぇ、ほんっと大変だったんだから!」
ジョッキを机に置き、マリ姐は身を乗り出した。
「移動も! 警備も! スポンサー断るのも! 胃が毎日爆発するかと思ったのよ!」
遥は軽く笑みを浮かべながらグラスを回す。
「うん。みんなは現地に常にいたから実感薄いかもしれないけれど、私は少し離れた場所で見てたから。毎公演、どんどん盛り上がり大きくなっていくのを感じてた。でも……無事に終われて、本当によかったね」
「休日に集まって作戦会議してたのが、もうずっと前みたいだね」
雪が懐かしそうに言うと、マリ姐が「ほんとよ!」と笑って頷いた。
光は「はは」と笑いながら頷く。
「でも、めちゃめちゃ苦労したのに……」
マリ姐はジョッキを指でくるくる回し、目を細めた。
「ほんと楽しかったのよ。やってよかった。世界が変わった。……やってやった感がすごいの」
詩音は目を伏せつつ微笑み、雪は小さく「うん」と相槌を打つ。
遥も頷き、「そのとおりね」と優しく付け加えた。
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◆愚痴電話の話
「でも、遥にはだいぶお世話になったわよねぇ」
マリ姐がふと思い出したように遥を見やる。
「え?」と遥が首をかしげると、マリ姐は笑いながら続けた。
「だって私、ツアー中に何度も電話してたじゃない。移動中とか、もう限界~って時とか」
遥はくすっと笑った。
「うん、夜中にね。“もう無理ぃ!”って。最初はびっくりしたけど、だんだん“ああ、今日も頑張ってるな”って思えるようになった」
詩音が「え、私も……」と手を挙げ、雪も小さく「私もです……」と続く。
「ふふ、みんなかわいいなぁ」
遥がグラスを口元に運びながら微笑む。
「でも――光くんからは一回もなかったけどね!」
「えっ!?」
一同の視線が光に集まり、マリ姐が笑いながらツッコむ。
「光は悩みがないのかしら」
「うーん……」光は少し考えて、肩をすくめた。
「悩む前に寝ちゃうんだよね」
「それ、才能よ!」
マリ姐の声を皮切りに、テーブルは大爆笑に包まれた。
その笑いの中心で、遥はどこか安心したように微笑んでいた。
――離れていたからこそ、みんなの頑張りや不安をいちばん冷静に感じていた。
だから今、こうして笑っている光景が何より嬉しかった。
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◆光の「よしよし」
「だからね、光!」
マリ姐は勢いよく光の方へ身を乗り出した。
「どう!? 私、すごいでしょ!?」
光は少し目を瞬かせ、にかっと笑う。
「うん、すごいよマリ姐」
そして、子どもをあやすみたいに軽く頭に手を置いた。
「よしよし」
「~~~~っっっ!?」
マリ姐の顔が一瞬で真っ赤になる。
「な、なによそれ! 子ども扱いして……!」
「え、ダメ? だってほんとに頑張ってくれたんでしょ? 俺、知ってるから」
光の無邪気な声に、マリ姐は抗議の言葉を飲み込み、視線を逸らした。
「……バカ。調子狂うわね」
怒りたいのに、胸の奥がふわっと温かい。赤い頬を隠すように、ビールを一気に煽る。
雪は袖口を指でいじりながら、小さく笑いをこぼす。
詩音は「お子さま扱い……でも羨ましい……」と心の中で呟く。
遥はにっこり微笑み、「ふふ。やっぱり光くんは、天然で最強だね」とまとめた。
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◆冗談半分の“次の話”
光はオレンジジュースを口にしながら、にかっと笑う。
「でもさ、今回の全国ツアー、めっちゃ大成功だったじゃん? ここまでできたなら――ドームツアーだって、ありかもだよね」
「はあっ!?」「えっ……!」
雪が小さく目を見開き、詩音は一拍置いてから小さく頷く。
「……たしかに、今回のツアー実績をみるといけそうな感じがしてきましたね」
「ちょっと待ってーーー!」
マリ姐が泣きそうな声で両手をぶんぶん振る。
「解放感に浸らせてーーー! もう胃が限界なのーー!」
光は笑って肩をすくめた。
「まぁ、全部マリ姐に任せるよ」
「雑ぅ~~~~~っっ!!!」
マリ姐の悲鳴混じりのツッコミに、テーブルが大爆笑に包まれる。
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◆夜の余韻
料理は次々と減り、グラスの音と笑い声が絶えない。
やがて誰かがぽつりと「次も、もっと楽しく」と呟いた瞬間、また新しい笑いが起きた。
――未来の話を冗談で笑える夜ほど、強い夜はない。
笑い声に包まれながら、打ち上げの夜は温かく、賑やかに更けていった。




