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ツアーファイナル - 前編 - 「また会えたね」と「初めまして」と

 東京ルミナスアリーナ。

 二階のVIP席。

 詩音ママは静かに腕を組み、満員の客席を眺めていた。

 巨大なホールの中央には、ゆっくりとせり上がる円形ステージと一台のピアノ。

 四方へ伸びる花道はこれから始まる“特別な夜”を示している。

 ビジネスとしての鋭さ――その奥に、母親としての不安と期待がかすかに混じっていた。

「……あなた達なら、きっと大丈夫」


 ⸻


 東京ルミナスアリーナ。

 これまでのツアーとは比べものにならないほど大きな空間。

 けれど、あの頃の“近さ”がちゃんと残っていた。


 このツアーファイナルだけは、光のツアーの中で唯一"再抽選"があった会場となる。だからこそ、地方公演で光のライブを見れた人たちも観客の中には含まれていた。


 全国の小さな会場で既に光に出会っていた人たちは、

 再びこの日を迎えるのを、まるで“友達に会いに行く”みたいな気持ちで待っていた。

 いっぽうで、今日が初めての人たちは、

 ほんの少し緊張した面持ちでステージを見つめている。


 そのどちらにも共通していたのは――瞳の奥に宿る、“期待の色”。

 これから何が起こるのかを知っている人も、知らない人も、

 同じ方向を見つめて息を合わせていた。


 ⸻


 照明が一気に落ち、世界が息を止める。

 そして中央ステージが上昇し、光の姿が現れた。

 五千人分の息が、同時に吸い込まれる音がした。


「みんな、忙しい中よく来てくれたね。ありがとう!」


 光がマイクを握り、笑った。

 その声に、五千人が一斉に笑顔をこぼす。

 拍手が波のように広がり、ステージと客席のあいだにあった“壁”が音もなく溶けていく。


 会場は広いのに、不思議と距離を感じなかった。

 光の声は、マイク越しでも“誰かひとり”に語りかけるように響く。

 その瞬間、会場の呼吸がひとつになった。


 ⸻


 ◆オープニングMC ― 再会と初めまして


 光はマイクを握り、やわらかく笑った。

「えっと……まず聞いてもいい?

 今日、“初めてじゃないよ”って人ー?」


 1〜2割の手が一斉に挙がる。

 「「「はーーい!!!」」」

 「おかえり。また会えたね。」

 再会組の中に一気に涙が広がる。


 「じゃあ……今日が“はじめまして”って人ー?」

 残り8割が、期待いっぱいに手を挙げる。

 「「「はーーい!!!」」」

 

 「はじめまして!来てくれてありがとう。次からは“ただいま”って言える場所になるよ。今日は楽しんでってね。」


 そして、いたずらっぽくニヤリ。

「じゃあさ……みんなで“よろしく”しよ?

 前も後ろも右も左も、ここにいる人は全員さ、今日この場に集まった友だちだから。」


「せーのっ!」「「「よろしくーー!!!」」」


 五千人の声が揺れた。

 光は笑って首をすくめる。

「ははっ、1発目からみんな声大きいなぁ!すご!」


「じゃ、新曲ね。

 今日の今、この時だけのために作った曲だよ。」

 

 —— “また会ったねと、初めましてと”


「「「きゃああああーーー!!!」」」

 歓声に合わせるように、ピアノの最初の和音が鳴る。


 ⸻

 ◆ 新曲『また会ったねと、初めましてと』


 最初は、そっと。

 左手が低く脈を刻み、右手が柔らかく街灯みたいな和音を重ねる。


 光は目を伏せたまま、短く息を吸う。

 一行だけ、歌う。


 —— また会えたね ここで


 観客が小さくどよめく。

 “再会”が一語で胸に落ちる。


 次のフレーズで、まだ出会っていない誰かへ。


 —— はじめまして ようこそ


 歌は一度だけ視線を上げ、

 “初めて”の人たちの緊張をやさしく撫でていく。


 —— 今この時は、今だけだから。

 —— ここにいるたくさんの友達と

 —— 一緒に歌って遊んでさ

 —— 忘れられない思い出にしよう


 1コーラス分の演奏を終え、短いインスト間奏。

 和音が一段だけ明るくなり、

 旅で拾った色たちを示すように、遠くへ扉を開ける。

 

 光は最後のフレーズを置き、

 音の尾だけを会場に残した。

 ――その余韻のまま、右手がそっと次の和音へ滑る。


 ⸻

 ◆ リクエスト総決算メドレー


「ここまで来れたのは、みんながリクエストをくれたから。

 今日は、その全部を返す日です」


 光が鍵盤に触れた瞬間――


 ――ボヘミアン・シンフォニー。

 ツアー初日に突発的に生まれ、国内外でバズったツアーでも屈指の名演。

 あの日と同じように、無限に転調を繰り返しながら右端の高音遊び、左手も縦横無尽に異世界を描く。


「きたぁああ!!!」「初めて聞いてガチで衝撃を受けたやつ!!」


 初見組は(やっと生で聴けた……!)と震え、

 ツアー勢は(初日のあの空気そのまんま……)と泣き笑っていた。

 光の手がふっと抜け、空気が雪国に変わる。


 ―― 雪やこんこ

 童謡の素朴な旋律が、そっと置かれた。

「うそ……ここで!?」

 ツアー勢の目が一気に潤む。

 初見組は「あ、これ配信で聴いた!」という微笑み。

 ほんの短い冬景色を描いて、音が消える。

 その余韻のまま――光が少し楽しそうに右手を上げた。


 ―― 福岡の“謎民謡”

 拍を踏む音。

 手拍子がざらりと立ち上がる。

 「あっ!! 福岡のやつ!!!」


 一部のエリアだけ異様に盛り上がり大合唱。

  周囲は(はいはい……これね、配信で流れたアレだよね)という温度で笑いながら乗っている。

 光はその温度差を楽しんでいる。


「そこ、覚えてるよね? いくよー?」「「「おーーーっ!!!」」」

(得意げな福岡勢が可愛い)(光くんすごい楽しそうだなぁ!)

 会場がひとつの輪になっていく。


 ―― 応援歌メドレー

 光が、わざと一拍溜める。

 次の瞬間――「燃えよドラゴンズ」のフレーズが鳴り、名古屋勢が立ち上がる。


「名古屋ーーー!!」「おおおお!!!」

 熱が十分に上がったところで軽く区切り、指を“上へ”とくるくる回す。


 そのまま――「六甲おろし」に綺麗に繋げる。

 会場が割れて応戦する。


「タイガースいける!?」「「「おおおおお!!!」」」

「ドラゴンズ戻すよ!?」「「「うおおおお!!!」」」」


 光はニコニコしながら、両チームを丁寧に扱う。

 曲を混ぜない。

 順番に、敬意を持って、場をひとつにする。

 笑いと歓声で胸が震える。


 ―― ドビュッシー「月の光」 ― 京都の夜の“本気クラシック”

 突然、照明が青と白になり空気が澄む。

 光は指を揃え、ペダルを浅く踏む。

 

 どこまでも静かで、どこまでも丁寧。

 この曲だけは、まったく遊ばない。


(京都の……あの古い洋館のクラシックホールだ)(息をするのも忘れて聴いたやつ……)


 観客が息を詰めて見つめる。

 涙でぼやけたライトが、ステージに星の粒みたいに映った。

 光は、最後の一音を深く残して、手を放す。


 そして――静かに、あの和音。


 ――「Happy Birthday to You」


 光が笑いながらマイクを上げる。

「今日、誕生日の人ーー!手、挙げてーー!」


 会場の三分の一ほどが一斉に手を挙げた。

「え!?多すぎ!!絶対こんなにいないでしょ!!」


 光も会場も爆笑の渦に巻き込まれる。

「……でも、まぁいいよ!おめでとう!!!」


 さらに笑いと歓声が膨らむ。

 その熱を逃さず、光はいたずらっぽく目を細めた。

「じゃあさ……こんだけいるなら、もう歌うよーー!

 みんなで祝おっか、せーのっ!」


 ピアノが軽くハーモニーを刻む。

「「「Happy Birthday to You〜〜〜!!!」」」


 五千人の合唱が天井まで伸びていく。

 まるで巨大なリビングにいるような温かさ。

 

 光は笑いながら、誕生日の“主役たち”に向かって両手をひらひらと振った。

「おめでとう〜〜〜!!!

 今日みんなで過ごすこの時間が、誕生日プレゼントってことで!」

 観客が泣き笑いしながら応える。


 ⸻


 このメドレーは“曲じゃなくて旅”だった

 それは、ただの曲の羅列ではなかった。

 全国を巡って拾った物語が、

 目の前でひとつの音楽にまとまっていく瞬間。


 再会組は泣き、初見組は「物語を追体験した」と胸を押さえ、

 光はただ笑ってそこに集まったたくさんの“友だち” を見つめていた。


 ⸻


 ♦︎マイクだけを持って


 最後、HappyBirthdayの最後から自然に繋がった曲は、

 

 ――誰もが口ずさめる国民的ソングだった。


 そのサビの少し前。

 ピアノの音が静かに止んだ。


 光は深く息を吸い、マイク一本を握って立ち上がる。

 五千人のざわめきがゆっくりと静まり、空気が凍るように張りつめた。


 そのまま――声だけで歌い始めた。


 アカペラ。ピアノの伴奏はない。

 五千席の空間に、たったひとりの声が真っすぐに響く。

 澄んだ高音が、豊かな低音が、天井に届き、反響が遅れて返ってくる。

 光は一人で歌っているのに、その声はまるで何人もが同じ旋律を歌っているかのような豊かな響きを持っていた。


 歌いながら東の花道の方へと歩き出す。


 サビに入る瞬間、観客が一斉に立ち上がる。

 誰もが泣き、笑い、叫んでいた。

 花道から手を伸ばしてもギリギリで届かない――けれど、心だけは確かに触れていた。


「光くーーーん!!!」

「こっちみてーーー!!!」


 光は笑って手を振った。

 その笑顔は、ステージ上の“アーティスト”ではなく、

 友だちの前で歌うただの青年のように、自然で温かかった。

ブックマーク400人越えましたー!やったーー!


ツアーファイナル、盛り上がってきたぜ(*>∇<)ノ

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