ストリートピアノを守りたい
◆公園のピアノ
全国ツアーの途中、とある大きな公園の特設ステージ。
そこに置かれていたのは、公園にあるには不釣り合いなほど立派な──スタインウェイのフルコンサートグランドピアノだった。
青空の下、芝生の広場に響いた音は圧倒的で、観客を魅了した。
けれど演奏後、会場をコーディネートしていたスタッフが光に声をかける。
「実はこのピアノ、市からの維持費が出せなくて……まもなく売却予定なんです。
でも最後にこんなふうに人が集まって聴いてくれて、本当に嬉しいです」
光と雪は思わず顔を見合わせ、マリ姐は沈黙した。
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◆光の提案
楽屋に戻るなり、光がマリ姐に真剣な声を向けた。
「マリ姐、急だから難しいかもしれないんだけど……
この公園で追加公演をやって、その収益を全部クラウドファンディングみたいに寄付できないかな。
全国に同じような話はいっぱいあるんだろうけど、知っちゃったからにはなんとかしたい」
マリ姐は現実的なスケジュールを即座に計算し、深く息を吐く。
「……休養日を潰して組み込むことになるので、かなりハードよ」
光は迷いなく笑った。
「ありがとう!お願い!」
雪は横で、(ほんとに止められないんだから……)と小さく苦笑した。
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◆公式アナウンス
数日後、公式サイトに告知が出た。
『追加日程とクラウドファンディングのお知らせ』
先日の公演で訪れた公園の特設ステージに置かれていたスタインウェイ・フルコンサートグランドピアノについて、市からの維持費が捻出できず、撤去予定であることを伺いました。
光本人から「なんとかしたい」と強い希望があり、チームでも話し合った結果、追加公演を開催し、その収益をすべてピアノ保全のために寄付するクラウドファンディングを行うことにいたしました。
•この公園にて、1公演を追加開催します。
•公演収益はすべて、このスタインウェイの保全に充てられます。
光コメント:
「偽善だし、手の届く範囲は狭いけど……ピアノなくなるのは寂しいし。やれることはやろうと思って。力を貸してくれると嬉しいです。」
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◆クラウドファンディングのリターン(公式説明文)
1.通常観覧券(5,000円)
・公民館や小ホール規模の会場で、光の演奏を間近に体感できます。
2.前列特別席(20,000円)
・最前列から数列目までを確保。
・「手を伸ばせば届きそう」と感じられる距離です。
3.舞台袖から観覧(200,000円)
・公演に加え、リハーサルも見学可能。
・舞台袖で裏方スタッフの慌ただしさや、チーム光のやり取りを間近に体感できます。
・本番直前のリハーサルや打ち合わせの様子、袖でのチーム光の雰囲気など、舞台裏ならではの光の姿をご覧いただけます。
4.光と10分おしゃべり(1,000,000円 × 限定5名)
・公演後、光本人と直接お話しいただけます。
※収益は全額、ストリートピアノ保全に充てられます。
◆ファンの反応
•「最前2万とか安すぎて泣ける」
•「袖から観られる20万、むしろ裏方込みで一番価値ある説」
•「裏方スタッフの慌ただしさは草ww」
•「100万枠が真っ先に消えたのマジで草、大富豪がおる」
•「収益全部寄付とか神かよ」
•「偽善とか言ってるけど、偽善でここまでやれる人いないから」
SNSは熱気で埋まり、追加公演は即完売。
クラファンのページはアクセス殺到でサーバーが落ちかけるほどだった。
◆裏話
リターンの設定を詰める打ち合わせの席で、光がタブレットを覗き込みながら言った。
「クラファンって、他の人のも色々あるんだねぇ。あ、これ面白いな。──“10分おしゃべり100万円”とかネタ枠で入れてみない?」
マリ姐は一瞬まばたきし、それから額に手を当てた。
「……あなた、金額の意味わかってます? 設定した以上は責任を持ってくださいよ」
「だって、100万だよ? 誰も買わないでしょ」
光は悪びれもせず笑った。
数日後。クラファンが開始されるやいなや、その枠は真っ先に蒸発した。
「えっ、マジで!? 本当に……売れたの!?」
モニターを見て固まる光に、マリ姐は深いため息を吐いた。
「……あなた、自分の人気を甘く見すぎです」




