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ツアー中盤1:熱狂の副作用

全国を巡るツアーは折り返し地点に入っていた。

地方都市のホールはどこも超満員。倍率は数百倍。抽選を勝ち抜いた観客は「一生分の運を使った」と笑いながら席につく。

公演のたびにトレンドが動き、配信は世界中に届いていた。

「地方公演のはずが、世界規模のイベント」――それが日常になりつつあった。


だが、熱狂の膨張は舞台の外でも始まっていた。



ある夜、公演後。

楽屋口を出ようとしたスタッフが足を止める。

外の路地に、観客が群れていた。

数百人規模の「出待ち」だった。


「これ……車、出せないですよ」

警備員の声に、マリ姐はすぐ判断する。

「別ルートを使うわ。今からスタッフに指示を」


彼女が手際よく動く横で、詩音は涼しい顔のままスマホを操作していた。

「警備を二倍に増やします。費用はこちらで。次の会場は入り口を一つ潰して、動線を管理しましょう」

声は落ち着き払っていた。


――けれど、その胸中は静かではなかった。


(……拡大が早すぎる。光さんの及ぼす影響が当初想定していた最大値よりも桁外れに大きい。このままじゃ予定している会場じゃ受け止めきれない。

光さんに触れようとする人が出てきたら、事故は一瞬で起きる。

万が一でも倒れたら……その瞬間にすべて終わる)


彼女は笑みを崩さずにタップを続ける。

「失敗は許されない」――それはいつものこと。

けれど今は、肩にのしかかる重さが違った。

(……資金も人脈も、いくらでも使う。守り抜けるなら、私が全部引き受ける)


表情は変わらない。

だが、膝に置いた指先は小さく震えていた。



その頃――当の本人は。

「ねえ、外で待ってた人たち、めっちゃ笑顔だったね」

光は無邪気に笑い、タオルで汗を拭っている。

その笑顔に、誰よりも守られるべき存在だという自覚はない。


雪は黙って水を差し出し、そっと言った。

「……でも、ちゃんと休んでね」



舞台上では奇跡を連発する男。

だが舞台裏では、熱狂が街を揺らし始めていた。

マリ姐は頭を抱え、詩音は資金と人脈を総動員して必死に整え、雪は静かに支える。

その綱渡りの真ん中で、光だけは変わらず「次はどんなリクエストかな」と笑っていた。


ツアーは進む。

嵐のような熱狂を背負いながら――守る者たちの焦燥と、光の無邪気さを同時に抱えて。

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