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幼稚園、担任の先生インタビュー

 ♦︎先生視点(後年インタビュー)

「はい、あれはもう二十年以上前のことです」

 当時の担任だった私は、目を細めて懐かしそうに語り始めた。


「伴奏の先生が体調を崩されて、その日の歌の練習ができないかもしれない……。私自身もどうしようかと困っていたんです。


 するとね、あの子――光くんが、すっと手を挙げて『僕、弾きます』と」


 五歳の男の子ですよ? 最初は冗談だと思いました。周りの子たちも“え、ほんとに?”と笑っていて。私も軽く受け流そうとしたんです。


 だけど――彼は迷いのない足取りでピアノに向かい、ちょこんと椅子に腰を下ろした。

 その姿を見た瞬間、私の胸には奇妙な期待と不安が入り混じりました。


「小さな手が鍵盤に触れたかと思うと……次の瞬間、驚くほど正確で、しかも生き生きとした伴奏が教室に響き渡ったんです。

 私も含め、全員が思わず息を呑みました。『どうして? 本当に五歳の子の演奏なの?』と」


 それだけでは終わりませんでした。


「『じゃあこれも弾いて!』『わたしの好きな歌も!』と次々にリクエストが飛ぶ。童謡にテレビCM、当時流行っていたアニメの主題歌……。


 でも光くんは、一度聴いただけで全部弾きこなしてしまうんです。

 知らない曲も、誰かが少し口ずさめばすぐに自分の音にしてしまう。

 しかも即興で少しアレンジまで加えて、まるで前から自分の曲であったかのように流れるんですよ」


 本人にとってはただの遊びだったのでしょう。

 笑いながら、楽しそうに。周りが喜ぶのを面白がるように。

 でも私たち大人にとっては――目の前で起こる奇跡を見ている時間でした。


 その日から、園のピアノは半分光くんのものになった。

 子どもたちは毎日のように集まり、リクエスト大会が始まる。

 歌う子、手を叩く子、じっと聴き入る子。教室はコンサートホールのように熱気を帯び、私自身もその輪に混ざってしまったほどでした。


「いま思えば、あの頃からすでに“人を惹きつける音”を持っていたんです。

 ただ正確に弾くだけじゃない。その場にいるみんなが自然と笑顔になり、声を合わせて歌い出してしまう。

 あれは技術や練習だけでできることじゃない。持って生まれた力なんだと、私は確信しました」


 ――そしてもうひとつ。忘れられない出来事があります。


「園庭での“結婚ごっこ”です。本来なら女の子が男の子を選ぶ遊び。しかも、選べるのは“特別な女の子”たちの役目で。

 でも光くんは突然『俺は雪がいい』と言った。『誰かに選ばれるより、自分で選びたい。だから雪』と」


 子どもたちは一斉にざわめき、泣き出す子すらいました。

 大人の私から見ても、ただの突拍子もない発言にしか思えなかった。


「でも……あの一言で確かに空気が変わったんです。

 遊びの秩序が壊れて、みんな戸惑った。けれど同時に、“自分も選ばれたい”って気持ちが一気に広がった。


 音楽でも遊びでも、あの子は“当たり前”を飛び越えてしまう。

 無自覚に、平然と。


 言い方は変かもしれませんが……光くんは、まるで“別の世界の常識”で生きているように見えましたね」


 先生はそう締めくくり、懐かしむように目を細めた。


「……小学校に上がってからも、あの子は“当たり前の向こう側”に行ってしまうんです。

 どこにいても、周りの子が自然と引き寄せられてしまう。

 気づけば、みんなの中心にいて……」


 そこまで言うと、先生は言葉を選ぶように一度口を閉ざした。


「この先のことは……ええ、もう私の手を離れていましたね。

 あの子がどんな道を歩いたのかは――」


 懐かしむように目を細め、そっと言葉を切った。



 ⸻


 ――この先の物語は、もう少し後の時代へと続いていく。


 小学校に上がると、光の音楽はさらに進化し、

 ただ“弾ける子”ではなく、周囲を巻き込む存在へと育っていく。


 そして中学校では、彼はついに配信を始める。

 その音が広まるのと同じように――彼の周りにも、

 一人、また一人と 不思議な縁が引き寄せられていった。


 彼の音を読み解く者。

 彼を支え、導く者。

 後にかけがえのない仲間となる者たちが、

 まるで約束された旅路を辿るように集まり始める。


 やがて高校生の年。

 ついに彼は、男性として世界で初めてとなる全国を巡るツアーを成功させ、

 集まった仲間たちと共に、その名を世界へと大きく羽ばたかせていくことになるのだ。


 だがそれは、もう少し先の話――。

 今はまだ、幼い音が芽吹いたばかりの頃の物語である。

BLUE GIANT的な、後年の関係者のインタビュー形式が好きです。


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