海外からの火種
会場は興奮の渦だった。
光が次々とリクエストに応じるたび、観客の歓声は天井を突き破る勢いで響き渡る。
「次は……え、海外から来たって?」
前列の一角で、外国人の若者が立ち上がった。
「Yes! I came from Los Angeles!(ロサンゼルスから来ました!)」
客席がどよめく。
「えっ……海外から!?」
「本当に飛んできたの!?」
若者は勇気を振り絞って叫んだ。
「Can you play Bohemian Symphony ?(ボヘミアンシンフォニーは弾けますか?)」
――あの世界的女性4人組ロックバンド『クイーンズ』の名曲。
誰もが知るあの曲の名前が響いた瞬間、観客は「おおーっ!」と声を揃えた。
ざわめきの中には、「ピアノ一台でやるの?」「あの構成をどう表現するんだ?」と半ば驚き混じりの声も上がる。
光はにやりと笑って、マイクに向かって一言。
「ナイスリクエスト! この曲、とっても良い曲だよね。昔からよくアレンジして遊んだんだ〜」
その余裕に、観客は「え、やるの?」「どんな風に聴かせてくれるんだ?」と息を呑む。
次の瞬間、ピアノから流れ出したのは完璧なイントロ。
客席から大歓声が上がり、自然とコーラスが湧き起こる。
英語の歌詞を口ずさむ観客、日本語でリズムに合わせる観客――国境を越えた合唱が生まれた。
だが光はそこで終わらなかった。
「せっかくだから、ちょっと遊んでみようか」
イントロからワンフレーズを弾き終えると、同じフレーズをキーをひとつ上げて転調。
また歓声。さらにもうひとつ上げる。
三度目、四度目――観客が「まだ上げるの!?」「どこまで行くんだよ!」と笑い声をあげる。
五度目の転調では、わざとぎりぎりの高音域で鍵盤を高速で叩きながら、光は満足そうに笑った。
その姿に、会場は「天才が遊んでる!」という熱気で揺れる。
そこから一転、軽やかなワルツ風へ。三拍子に乗せて「ママ〜」と歌う観客の声が響き、爆笑と拍手が巻き起こった。
さらに壮大なクラシック風に切り替えると、重厚な和音とスケールの大きなアレンジに「オーケストラ聴いてるみたいだ!」と歓喜の声が飛ぶ。
最後は「ジャーン!」と両腕を広げるような大和音で締め、鍵盤に手を置いたまま静かに深呼吸した。
――一瞬の沈黙のあと、会場は爆発した。
割れんばかりの拍手と歓声。立ち上がって肩を組む者、スマホを掲げて配信コメントを打つ者。
「最高すぎる!」「まさか即興でこんなことできるなんて!」
SNSも同時に熱狂の渦に飲み込まれていた。
【日本のSNS】
『光くん転調しすぎて草wwww』
『ワルツ版ボヘミアン、腹筋崩壊した』
『クラシック風で鳥肌立ったんだけど!?』
『海外から飛んできた人のリクエストで世界が燃えてるの最高すぎ』
【海外のSNS】
『Wait, he’s remixing QUEENS!?(クイーンズを即興でリミックスしてる!?)』
『He modulated five times!? What the hell!!(5回も転調しただと!?)』
『I can’t stop smiling. This is pure genius.(笑いが止まらない。純粋な天才だ)』
『From Tokyo to the world. I’m literally crying.(東京から世界へ。泣いてる)』
トレンド欄には「#光リクエストライブ」「#BohemianSymphony」「#FromTokyo」が並び、国内外同時に急上昇。
あの小さな園のピアノから、今や世界へ。
光は変わらず、音で人をつなぎ続けていた。
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