全国弾き語りツアー初日:リクエストコーナー
小ホールに集まった幸運な観客は、たった三百人。
だが、開演前から渦巻いていた熱気は、数万人のアリーナにも匹敵するほどのものだった。
暗転し、静寂が落ちる。
やがてステージに現れた光が、ピアノの前に腰を下ろす。
その瞬間、会場は割れるような歓声に包まれた。
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◆1曲目
指先が鍵盤に触れた瞬間、空気が変わった。
力強くも伸びやかな旋律がホール全体を満たす。
観客は一斉に息を呑み、次の瞬間には手拍子と歓声が溢れ出していた。
『目の前に!光くんが!ちゃんと実在してるんだけど!!!』
『生の音やばすぎる!!』
『画面越しじゃ伝わらん……本物の空気感……』
『泣いてるの自分だけ?』
【配信コメント】
「音圧すごい、スマホのスピーカー割れてるw」
「現地組うらやま!!」
「これが全国同時配信の力か……」
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◆2曲目
1曲目を終え、光は汗を拭いながら笑った。
「次は少し柔らかめの曲、弾いてみよっか」
鍵盤から零れた音は、先ほどとは一転して温かく、観客を優しく包み込む。
小さな会場だからこそ伝わる繊細な響きに、客席のあちこちで涙を拭う姿があった。
『うそでしょ、2曲目でもう泣いてる』
『近い……近すぎて心臓に刺さる』
『これキャパ200とか500とかでやる意味が分かる。顔が見える距離で音楽されると破壊力が違う』
【配信コメント】
「小ホールでこれは反則」
「音の呼吸が聞こえるってこういうこと?」
「画面越しでも泣かされてるんだけど」
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◆リクエストコーナー
二曲目を弾き終えたところで、光はにこりと笑った。
「えーっとね。せっかくお客さんとの距離が近いから……リクエストコーナー、やろっか!」
客席がざわめき、次の瞬間、爆発したように拍手と歓声が広がった。
『え!? マジ!?』
『そんなの聞いてない!!』
『やばいやばい、夢じゃん!』
舞台袖でスタッフが顔を真っ青にする。
「……リクエストコーナーなんて、台本にないぞ!?」
「いやでも……あの子、やるって言ったら止められない……」
「本当に、知ってたみたいな顔で進めるしか……!」
詩音は思わず口元を押さえた。
「……でも、光さんなら本当にできてしまいそうですよね」
雪は舞台袖でタオルを畳みながら、心の中でため息をついた。
(やっぱりね……。でも、こういう無茶があるからこそ、あの人の音楽は特別になるんだろうな)
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◆奇跡の瞬間
観客の声が飛ぶ。
「アニメの主題歌お願いします!」
「童謡! ○○歌って!」
「私の好きなあの曲を――!」
光は即座に反応する。
「お、知ってる! じゃあいくよ!」
次の瞬間、鍵盤からあふれた音は、客席の歌声と重なり合って会場を震わせた。
知らない曲でも、光は慌てなかった。
「じゃあ、ちょっとだけ歌ってみて?」
客席から少女が勇気を振り絞って一番を口ずさむ。
光はじっと耳を傾け、笑みを浮かべて鍵盤に手を置く。
「……はい、弾けた!」
数秒前に初めて聴いた曲が、華やかなアレンジ付きで会場に広がった。
観客は驚愕と興奮の渦に飲み込まれる。
【配信コメント】
「初めて聴いた曲を弾いた……だと……?」
「耳で聞いた一瞬で再現するの反則すぎる」
「しかもその場で曲に仕上げるって魔法?」
「これ現地の人一生誇れるやつ」
「伝説の瞬間に立ち会ったって言わせてくれ」
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◆幼稚園の先生の視点
「光くん……」
客席の後方で、一人の年配女性が目を潤ませていた。
彼が通っていた幼稚園で、音楽を教えていた先生だった。
――あぁ、やっぱりあの頃のままだ。
リクエストされるままに、知らない曲でも笑顔で受け止めて、音にしてしまう。
園児たちを喜ばせていた、あの小さなピアノの前の光景。
身体は大きくなっているけれど、目の前にいるのは、まったく同じ「光」だった。
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◆観客と配信
観客は歌い、笑い、涙を流した。
スタッフが必死に段取りを整え直す中で、舞台の主役だけは自由そのもの。
【配信コメント】
「マジで神回」
「無料で見ていいレベルじゃない」
「現地組の人、人生勝ち組だろ」
「配信でも鳥肌立ってるんだけど」
――ライブは、予定調和を越えて「光と観客が一緒に作る物語」に変わっていった。
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