表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/154

全国弾き語りツアー初日:リクエストコーナー

 小ホールに集まった幸運な観客は、たった三百人。

 だが、開演前から渦巻いていた熱気は、数万人のアリーナにも匹敵するほどのものだった。


 暗転し、静寂が落ちる。

 やがてステージに現れた光が、ピアノの前に腰を下ろす。

 その瞬間、会場は割れるような歓声に包まれた。



◆1曲目


 指先が鍵盤に触れた瞬間、空気が変わった。

 力強くも伸びやかな旋律がホール全体を満たす。

 観客は一斉に息を呑み、次の瞬間には手拍子と歓声が溢れ出していた。


『目の前に!光くんが!ちゃんと実在してるんだけど!!!』

『生の音やばすぎる!!』

『画面越しじゃ伝わらん……本物の空気感……』

『泣いてるの自分だけ?』


【配信コメント】

「音圧すごい、スマホのスピーカー割れてるw」

「現地組うらやま!!」

「これが全国同時配信の力か……」



◆2曲目


 1曲目を終え、光は汗を拭いながら笑った。

「次は少し柔らかめの曲、弾いてみよっか」


 鍵盤から零れた音は、先ほどとは一転して温かく、観客を優しく包み込む。

 小さな会場だからこそ伝わる繊細な響きに、客席のあちこちで涙を拭う姿があった。


『うそでしょ、2曲目でもう泣いてる』

『近い……近すぎて心臓に刺さる』

『これキャパ200とか500とかでやる意味が分かる。顔が見える距離で音楽されると破壊力が違う』


【配信コメント】

「小ホールでこれは反則」

「音の呼吸が聞こえるってこういうこと?」

「画面越しでも泣かされてるんだけど」



◆リクエストコーナー


 二曲目を弾き終えたところで、光はにこりと笑った。


「えーっとね。せっかくお客さんとの距離が近いから……リクエストコーナー、やろっか!」


 客席がざわめき、次の瞬間、爆発したように拍手と歓声が広がった。


『え!? マジ!?』

『そんなの聞いてない!!』

『やばいやばい、夢じゃん!』


 舞台袖でスタッフが顔を真っ青にする。

「……リクエストコーナーなんて、台本にないぞ!?」

「いやでも……あの子、やるって言ったら止められない……」

「本当に、知ってたみたいな顔で進めるしか……!」


 詩音は思わず口元を押さえた。

「……でも、光さんなら本当にできてしまいそうですよね」


 雪は舞台袖でタオルを畳みながら、心の中でため息をついた。

(やっぱりね……。でも、こういう無茶があるからこそ、あの人の音楽は特別になるんだろうな)



◆奇跡の瞬間


 観客の声が飛ぶ。

「アニメの主題歌お願いします!」

「童謡! ○○歌って!」

「私の好きなあの曲を――!」


 光は即座に反応する。

「お、知ってる! じゃあいくよ!」


 次の瞬間、鍵盤からあふれた音は、客席の歌声と重なり合って会場を震わせた。


 知らない曲でも、光は慌てなかった。

「じゃあ、ちょっとだけ歌ってみて?」


 客席から少女が勇気を振り絞って一番を口ずさむ。

 光はじっと耳を傾け、笑みを浮かべて鍵盤に手を置く。


「……はい、弾けた!」


 数秒前に初めて聴いた曲が、華やかなアレンジ付きで会場に広がった。

 観客は驚愕と興奮の渦に飲み込まれる。


【配信コメント】

「初めて聴いた曲を弾いた……だと……?」

「耳で聞いた一瞬で再現するの反則すぎる」

「しかもその場で曲に仕上げるって魔法?」

「これ現地の人一生誇れるやつ」

「伝説の瞬間に立ち会ったって言わせてくれ」



◆幼稚園の先生の視点


「光くん……」

 客席の後方で、一人の年配女性が目を潤ませていた。

 彼が通っていた幼稚園で、音楽を教えていた先生だった。


 ――あぁ、やっぱりあの頃のままだ。

 リクエストされるままに、知らない曲でも笑顔で受け止めて、音にしてしまう。

 園児たちを喜ばせていた、あの小さなピアノの前の光景。

 身体は大きくなっているけれど、目の前にいるのは、まったく同じ「光」だった。



◆観客と配信


 観客は歌い、笑い、涙を流した。

 スタッフが必死に段取りを整え直す中で、舞台の主役だけは自由そのもの。


【配信コメント】

「マジで神回」

「無料で見ていいレベルじゃない」

「現地組の人、人生勝ち組だろ」

「配信でも鳥肌立ってるんだけど」


 ――ライブは、予定調和を越えて「光と観客が一緒に作る物語」に変わっていった。

9/4から"42日連続"で毎日更新中!

モチベ維持のために、ぜひぜひお気に入り登録&評価ポイントをお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ