本番直前リハーサル
ツアー初日を目前に控えた会場の小ホール。
ステージには調律を終えたばかりのグランドピアノが置かれ、スタッフたちが忙しく動き回っていた。
「じゃ、弾きまーす」
光はリハーサル開始の合図も待たず、勝手にピアノに座ると軽快に鍵盤を叩き始めた。
「ちょ、ちょっと光! まだ照明合わせてないんですから!」
慌てて声を上げたのはマリ姐。額を押さえながら走り寄る。
隣で遥も、手元の進行表を睨みつつため息を吐いた。
「……予定曲じゃない。即興で遊んでるでしょう」
「いや、音響さんたちもまだバランス確認中なんだから!」
遥が冷静に指摘し、マリ姐が声を荒げる。
二人の声をよそに、光はにこにこと笑って鍵盤を転がし続けた。
「でもさ、ここで弾いてると、なんか勝手に曲ができちゃうんだよね」
「「曲を増やさないでください!!」」
マリ姐と遥の叫びがぴったり重なった。
⸻
ステージ袖では、雪が控えめに動いていた。
楽屋から持ってきた水のペットボトルを置き、タオルを畳み、喉飴をポケットに忍ばせて。
光がステージを降りてくるタイミングを想像しながら、黙々と準備を整える。
「……ほんと自由すぎる」
リハーサルをする光を見ながら遥が小さく呟き、肩をすくめる。
雪は苦笑しながら答えた。
「それが光だからね。ただ正直、リハーサル通りにはいかない気がするなぁ...」
⸻
リハーサルが進むにつれ、場内はまるで本番さながらの緊張に包まれていった。
照明が光を捉え、音響が響きを調整する。
光は相変わらず楽しげに鍵盤を叩き、ふと立ち上がって歌い出す。
「……あー、もう……!」
マリ姐は胃を押さえ、遥は進行表に赤字で修正を入れる。
その横で雪はステージを見つめ、心の奥で強く願った。
(……どうか、この自由さが、そのままお客さんの心に届きますように)
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