結婚ごっこ
結婚ごっこ
♦︎雪視点
幼稚園の園庭で「結婚ごっこ」が始まった。
女の子が男の子を指名して「お婿さん役」を決める遊び。
この世界では、男の子の数は女の子よりずっと少ない。
だからこそ――男の子は必ず誰かに選ばれる。選ばれないなんてありえない。
“選ぶ資格”があるのは、かわいさも元気さも飛び抜けた“一握りの特別な女の子”たち。
私のように引っ込み思案な子は、その輪の外にいる。
光のそばに近づくことすら夢にも思わなかった。
昨日の音楽係でさえ、先生に承認されてやっと座れたのだから。
なのに――。
「俺は、雪がいい」
園庭に響いた声に、世界が止まった。
光が、みんなの前で私を指さしていた。
「えっ、なにそれ!?」
「男の子は選ばれるんだよ!」
「雪は“選ぶ資格”ないじゃん!」
子どもたちのざわめき。秩序をひっくり返す異端の行動に、みんなが目を見開いていた。
けれど光は一歩も引かず、真っ直ぐに言った。
「誰かに選ばれるより、自分で選びたい。だから雪」
息が詰まった。
常識を踏み越えたその言葉に、胸の奥で何かが爆ぜる。
私なんかが、光に選ばれる――そんなこと、あってはならないのに。
でも、その瞬間からもう、私は光から逃げられなくなった。
世界の外に引きずり出された衝撃と甘美さが、心に深く刻まれてしまったから。
⸻
♦︎光視点
(……またこれか。女の子が男を指名する遊びだろ)
(まあ放っておくと誰かに呼ばれるんだろうけど……知らない子より、普段一緒に遊んでる雪の方がいいよな)
光は深く考えず、すっと手を挙げた。
「俺は、雪がいい」
その場が凍りつくほどの大ごとだとは、光本人は夢にも思っていない。
(え? なんかみんなざわついてる? そんなに変か?
だって昨日の音楽係だって、隣にいるのは雪が自然だったし。
一番一緒に遊んでるの、雪だし。そりゃ雪がいいに決まってるだろ)
本人にとってはただの自然な選択。
でも、周りにとっては“当たり前”をぶち壊す革命の一言だった。
⸻
♦︎雪の夜(秘密の日記)
その夜。布団にもぐり込んでも、胸の鼓動は収まらなかった。
光に「選ばれた」――その事実が頭から離れない。
私は“選ぶ側”じゃない。そんな資格もない。
それなのに、彼は迷わず私を指名した。
震える手で、小さな絵日記帳を開く。クレヨンで下手くそな字を書きなぐった。
「きょう、ひかるくんに えらばれた。
すごく どきどきした。
わたし、しあわせだと おもった。」
ページを閉じ、胸に抱きしめる。
秘密の日記。誰にも見せられない。
でも、この瞬間を忘れたくなかった。




