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全国ツアー準備編

 ――全国ツアー計画、始動。


 その宣言をした翌日から、マリ姐の地獄の日々が始まった。


◆会場地獄


 「半年先まで会場が埋まってる? ……そんなの当たり前でしょ!? 普通は二年先から押さえるもの!?」

 「なに? 男性アーティストの大規模ライブは前例がないから“安全規定を決め直す必要がある”? ……はい、私が書きます、ゼロから!!」


 電話を両耳に抱え、資料を同時に開き、頭を抱えるマリ姐。

 一方、隣でアイスを食べながら光が無邪気に言った。


 「でもさ、全国回れるんだろ? なんか修学旅行みたいでワクワクするなぁ」

 「……あなた本当に修学旅行気分なんですか」

 「だって新幹線とか飛行機とか乗り放題でしょ?」

 「ツアーは旅行じゃありません!」


◆世論と報道


 同時に、メディアや世論との戦いもあった。

 男性の全国ツアーなど前例がない。危険視する声は当然上がる。


 『男性を全国に連れ回すのは危険すぎる』

 『前例がない=やるべきではない』

 『スポンサーはイメージ悪化を覚悟すべき』


 記事やSNSの声が飛び交うたびに、マリ姐は会議室で額を押さえた。


 だがその裏で、ファンたちは熱狂していた。


 『行きたい! 全国ツアー!』

 『危ないから無理だって? だからこそやる意味があるんでしょ!』

 『お金の問題? いや、絶対違うよね。でも誰かが支えてくれてるならワンチャン……!』


 熱狂と反発が交錯するなか、プロジェクトは前に進むしかなかった。


◆スポンサーと金の流れ


 スポンサー候補に声をかけても、現段階では誰一人として首を縦に振らなかった。


 「前例がなくリスクが高すぎる」

 「万一の時、企業の責任問題になる」


 慎重な声ばかりが返ってくる。


 そこで詩音が、すっと割って入った。

 「採算は私が保証します。赤字になっても私が埋めます。……ですが、きっと黒字にしてみせます」


 彼女の一言で、結局スポンサーゼロのまま、ツアーの決行は確定した。

 光が無邪気に「ありがとー!」と笑うたび、詩音の胸はざわめいた。


 資金の流れは完全に「東雲詩音」から「マリ姐の管理システム」を経由して動く。

 マリ姐は連日、帳簿と契約書に追われていた。


 「グッズ製造費? 舞台演出費? 移動用専用車両? ……詩音さん、なんで“予算上限なし”って即答するんですか!」

 「彼の夢ですから」

 「夢を現実にするのは私の胃なんですよ!」


◆グッズ戦争


 グッズ開発会議では、光がまたしても爆弾を投下した。


 「ぬいぐるみ欲しい! あとTシャツは黒一色だとつまんないから、七色に光るやつにしよう!」

 「それ原価どうなると思ってるんですか!?」


 詩音は即座に手を挙げる。

 「資金は私がカバーします」

 「だからあなたたちは簡単に口にしないで!!」


 マリ姐の悲鳴が会議室に響いた。


◆安全対策


 最大の難関は安全面だった。

 警備会社との折衝では「男性アーティストはリスクが高すぎる」という意見が相次いだ。


 「……なら、最高レベルの警備体制を契約します」

 詩音の一言で、即座に契約は成立。


 「専属ガードチーム、予算倍額で」

 「……だから、それが私の頭痛の種になるんです!!」


◆ファンの声


 公式サイトで全国ツアーの発表がなされると、SNSや掲示板は瞬く間に期待と疑問で埋め尽くされた。


 『え、全国ツアー!? マジで!?』

 『でもお金とか大丈夫なのかな?』

 『キャパどれくらいなんだろうねー?』

 『ドーム? アリーナ? それとも小さいホール?』

 『えーどうせなら東京ドームでやってほしい!』

 『初めて男性で全国ツアーとか、歴史的瞬間でしょ』


 名前も資金源も伏せられたまま、ただ「全国ツアー決定」という事実だけが先走って広がっていく。

 ファンの無邪気な熱狂は、裏で地獄を見ているマリ姐の胃痛をさらに加速させるのだった。


◆マリ姐の限界


 会議、契約、スケジュール調整……。

 一週間で三キロ痩せたマリ姐は、机に突っ伏しながら呟いた。


 「これ、全国ツアー始まる前に私が死ぬのでは……」


 だが、光は変わらぬ笑顔で言う。

 「大丈夫! 俺がピアノで癒すから!」

 「癒しでどうにかなると思ってるんですか!?」


 詩音は隣で静かに告げた。

 「マリ姐。あなたのおかげで、光さんの夢が現実になります。

 ……私も全力で支えます」


 マリ姐は顔を覆い、血の涙を流すような声で答えた。

 「……わかりました。最後までやります。嵐でも地獄でも。

 でも覚悟してください、これはもう本当に“前人未到”なんですから!」


 こうして、光の全国ツアー計画は、地獄の準備期間を経て動き出したのだった。

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