三者会談
◆詩音からの連絡
そんな話をした翌日、光の端末に通知が届いた。
差出人は――東雲詩音。カフェで連絡先は交換していた。
『光さん。光さんの全国ツアーの資金について、目処が立ちました。
お会いして詳しくご相談させていただけませんか』
光は画面を見て「へえ」と気楽な声を漏らし、そのままマリ姐に連絡を入れた。
「全国ツアーの話なんだけど、東雲さんが話あるってー」
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◆マリ姐の嫌な予感
電話越しにそう聞いた瞬間、マリ姐の胃がきゅっと縮んだ。
(……全国ツアーに東雲家。絶対並んじゃいけない致死ワードが二つ並んでる……。
たぶん、いえ、ほぼ間違いなく、すでに詰んでるけど、話を聞かないわけには……)
胃薬を飲みたい衝動を抑えつつ、マリ姐は指定された場所――光と詩音が最初に出会ったあのカフェへと足を運んだ。
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◆カフェでの再会
ガラス窓越しに、既に座っている二人の姿が見えた。
光は屈託のない笑顔、詩音は頬を赤らめながら反論している。
「今回は普通に注文できてたじゃん」
「もう! 二回目なんですから普通にできますって!」
入口からそのやりとりが聞こえてきて、マリ姐は思わず胃を押さえた。
(……この二人、なんでこんなに軽いノリなのよ。全国ツアーと東雲家が関わるやばい案件の話でしょ?)
深呼吸して心を落ち着け、マリ姐は席へと歩み寄った。
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◆正式な自己紹介
光がにこっと笑い、場を取り繕うように紹介する。
「そうだ、ちゃんと自己紹介しとこうか。こっちはマネージャーの村瀬真理さん。俺たちはマリ姐って呼んでる」
マリ姐は社会人らしく立ち上がり、名刺を差し出して軽く会釈した。
「村瀬真理と申します。……彼の活動の管理を担当しております」
続いて、詩音が席を立った。
背筋をすっと伸ばし、まるで舞のように滑らかな所作でスカートを整え、見たこともないほど流麗なお辞儀をした。
「東雲詩音と申します。本日はお忙しい中、お時間を頂戴し、誠にありがとうございます」
その姿はまさに御三家の令嬢。完璧すぎる立ち居振る舞いに、カフェの店員まで思わず見とれていた。
(……場違い感がすごい。御三家のお嬢様と中学生男子と私、なんで同じテーブルに座ってるの……?)
マリ姐の胃は、さらに締め付けられるように痛んでいた。
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◆資金の提示
詩音は緊張した面持ちで、鞄からぶ厚い資料を取り出した。
「資金は私がご用意いたします。条件面はすでに母とも話がついております」
テーブルに並べられた数字を見た瞬間、マリ姐の喉がごくりと鳴った。
それは全国ツアーを現実に動かすに十分――いや、十分すぎるどころか過剰な規模の資金だった。
「……ちょ、ちょっと待って。この金額……」
詩音は落ち着いた声でさらりと付け加える。
「もし足りなければ、追加の資金交渉も準備がございます」
マリ姐は頭を抱えた。
(この金額に追加とか言ってんじゃないわよ!!!!)
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◆マリ姐の内心
一方でマリ姐は、紙に並ぶ桁を睨みつけ、額に汗が滲んでいた。
(……額面上は何も問題ない。むしろ完璧すぎる。いや、過剰すぎる。
でも資金以外のリスクはどうするの? 男性が表に出るリスク、安全面、世間の目……全部残ってるじゃない)
喉は渇き、胃は締めつけられる。
理屈を言えばいくらでも反対できる。
だが――目の前の少女はすでに決意を固め、この場に東雲家の力を引き連れて現れている。
そして隣の少年は、あっけらかんと「やりたい」と笑っている。
(……止められるわけ、ないじゃない……)
マリ姐は深く息を吐き、承諾の言葉を絞り出した。
「……わかりました」
その瞬間、強烈な胃の痛みが襲いかかり、机の下でそっとお腹を押さえる。
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◆二人のノリ
「いぇーい!」
光が笑顔で手を挙げる。
詩音もつられて笑い、ぱしんと軽快な音を立ててハイタッチ。
その軽すぎるノリに、マリ姐は机の下で胃を押さえながら、ただ天を仰ぐしかなかった。
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◆ナレーション
「――こうして、大空光の全国ツアー計画は正式に動き出した。
過剰なほどの資金を背に、歴史に残る挑戦は、ゆるい笑顔とハイタッチで幕を開けたのだった」
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