東雲家って知ってる?
ある日の打ち合わせの後、光はストローをいじりながら何気なく口を開いた。
「そういえばさ、この前カフェで知り合った子が“東雲家の娘”って言ってたんだけど……東雲家って知ってる?」
雪が一瞬、驚いたように瞬きをし、すぐに頷いた。
「……知ってる。知らない人、いないよ」
マリ姐は額に手を当て、呆れたように笑う。
「当たり前でしょ。御三家のひとつよ。経済から政治から、影響力は計り知れない。
……あなた、まさか本気で“東雲家って何?”なんて顔してたんじゃないでしょうね」
光は本気で首を傾げた。
「え、だって名前も今初めて聞いたよ」
雪とマリ姐は同時にため息をついた。
「……ほんと、光は光だね」
「だからこそ危なっかしいのよ」
二人の声には呆れと同時に、どこか守りたくなるような響きが混じっていた。
光は首をかしげながら、笑って言った。
「へぇー、すごい家なんだ。……まぁでも、本人は普通の女の子に見えたけどね」
その無邪気な一言に、雪とマリ姐はまた同時に肩を落とした。
マリ姐は一瞬だけ視線を落とし、胸の奥に小さなざわめきを覚えた。
(……東雲家。名前を聞くだけで大ごとになる家よね。でも、まあ、たまたま会っただけだし)
そう自分に言い聞かせるように、マリ姐は肩をすくめた。
その横で光は、何も気づかずにストローをくるくると回していた。
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