数十年後 ― 詩音ママ 雑誌特集インタビュー
『特集:大空光のすべて ― 世界初 男性全国ツアーの裏側』
――社会の常識を覆した「最初の男性アーティスト全国ツアー」。
その歴史的瞬間の裏側には、東雲家の投資判断と、一人の少女の“覚悟”があった。
数十年を経たいま、当時の当主・東雲詩音の母は、静かな午後の邸宅でゆっくりと語り出した。
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♦︎詩音ママの回想
詩音は昔から“良い子”だったの。
何でもそつなくこなす優秀な娘。
投資や経営の教育も一通り受けて、数字にも強かった。
でも、それを“何に使いたいのか”という答えだけは、ずっと見えなかったのよ。
だからこそ、あの日は驚いたの。
あの子が初めて、心に火を宿したような目をしていた。
リビングに分厚い資料を抱えてきて、「少し時間をください」と言ってね。
地方ごとの動員予測、広告換算、観客層のデータ。
さらに公式チャンネルの再生数や登録者の推移、サブスクでのランキング変動、コメント分析まで――
現時点で取れるあらゆる数字を自分の手で整理していたの。
しかも、それを語る口調はもう“娘”ではなく、“投資家”そのものだった。
「この人の音楽は、社会の構造を変えます」
そう言い切った時の顔が忘れられないわ。
あの瞬間、詩音は数字の人間ではなくなった。
“信念で数字を使う人”になったのよ。
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♦︎投資の決断
リスクは当然あったわ。
男性アーティストの全国ツアーなんて、前例がない。
スポンサーも不安定で、社会の空気も未知数。
でも、詩音は一歩も引かなかった。
「失敗する可能性は高いかもしれません。でも、誰かが最初に動かないと何も変わらない、そして成功したときのリターンも十分に大きいです。」
そう言い切ったの。
私は静かにサインをした。
そして言ったのよ。
「たかが一億でしょ? それであなたが“挑戦の痛み”を学べるなら、安い授業料よ。」
東雲家にとっては微々たる額。
でも詩音にとっては――世界を動かすための最初の一億だった。
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♦︎そして、世界が動いた
結果は、誰もが知る通りだ。
全公演が即完売し、ネット配信は記録的アクセス。
「光ツアー」は社会現象となり、価値観の境界線を大きく揺さぶった。
初日公演の翌朝には電話が鳴り止まなかったわ。
「次の案件を」「ぜひ出資を」と、前日まで“無謀だ”と言っていた人たちが手のひらを返した。
マリさんが呆れて笑っていたの。
「昨日までは“前例がない”って言ってた人たちが、今日は“前例がないからこそだ”って言ってる」って。
本当にその通りだった。
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♦︎ツアー完走の夜
全国ツアー全日程が終わった夜。
報道も称賛も渦を巻く中、東雲邸の玄関に、静かに詩音が立っていた。
「お母さま、結果が出ました」
その声が震えていてね。
抱きしめたら、あの子、子どもの頃みたいに泣き出したの。
成功の涙でも、疲労の涙でもない。
“世界がほんとうに動いた”という実感の涙だった。
その瞬間、私は母として、心の底から誇らしかった。
翌年、東雲家の投資事業部は「最も高い社会的リターンを生んだ案件」として表彰された。
だが彼女は報告書を手にしても眉ひとつ動かさず、ただその夜の娘の顔を思い出していたという。
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♦︎家訓と、新しい価値観
取材の終盤、記者が「その後、詩音さんとはどんな話を?」と尋ねると、彼女はふっと目を細めた。
東雲家には古くからの言葉があるの。
“自分の望むように世界を変え、なおかつ利益もきちんと出す。”
詩音はそれを、言葉ではなく実績で証明してみせた。
しかも、あの子が変えたのは“音楽業界”だけじゃない。
“男性が前に立つこともある”“女性が支えることもある”“その両方が対等でいられる”――
そんな、誰もが忘れかけていた価値観を取り戻してくれたの。
私はずっと見てきたの。
娘が、時に戦いながら、時に支えながら、世界の“当たり前”を少しずつ書き換えていく姿を。
あの時、娘の判断を信じて良かった――
投資としても、親としても、これほど価値のある瞬間はなかったわ。
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♦︎手紙
取材が終わると、夫人は静かに席を立ち、古い引き出しから一枚の封筒を取り出した。
そこには、ツアーファイナルのチケットと、若き日の詩音の手紙が添えられていた。
便箋には、たった一行。
――「お母さまの目で、あの日の投資が世界を動かす瞬間を、直接確かめてください。」
金ではなく、信念を動かした投資。
その一億が、母と娘をつなぐ約束となり、
やがて世界の価値観を少しだけ前へ進めたのだ。
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