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男性認定カフェでの出会い

 この半年間、順調に活動は伸びつつも、全国ツアーの目処は全く立っていなかった。そんなある日――。


 放課後の商店街。

 光がいつものように「男性認定マーク」のついたカフェでPCを開き、作業をしていると――制服姿の少女がカウンターの前で立ち止まっていた。

 メニュー表を見つめながら、どう注文すればいいのか分からない様子で戸惑っている。


「欲しいやつ指さして“これください”で大丈夫だよ」

 思わず声をかけると、少女は振り向き、わずかに頬を赤らめた。


 しばらくしてドリンクを受け取った少女が困ったように周囲を見回す。

 光は軽く手を挙げ、向かいの席を指さした。


「ここ座る?」

 少女は小さく頷き、カップを持って光の向かいに腰を下ろした。



「あ……ありがとうございます。今日、初めて来たんです」

「へえ、なんでまた?」


 少女は少しバツが悪そうに笑った。

「……友人に相談したんです。『近づいてくる男の人は、みんなお金目当てに見える』って。

 そう言ったら『そりゃそうでしょ。自分で飲み物ひとつ買えない“お嬢様感”が出てるんだから』って。

 だから今日は……意地で来てみたんです」


 光は思わず吹き出した。

「なるほどなぁ。でも、ちゃんと注文できてたじゃん。全然普通だよ」



「……あの、私、東雲 詩音っていいます」

「大空光です。光でいいよ、呼びやすいし」


 名前を交わし、少し空気が和らいだ。


「今日は……何をしてたんですか?」

「コメントに返事しててさ」

「コメント……?」


 詩音が首を傾げると、光は笑いながら説明した。

「曲についたコメントだよ。ピアノ弾いたり歌ったり、生配信して動画上げたりしてるからさ」


「……男性なのに、音楽をやってるんですね」


 素直な驚きが混じった声だった。

 この世界では、珍しいどころかほとんど聞いたことのない話だったからだ。


 光は肩をすくめ、あっけらかんと笑った。

「まあ、好きだからやってるだけだよ」


 次に表示されたチャンネルのフォロワー数と視聴数を見た瞬間、詩音は胸の奥で小さく息を呑んだ。

(……これほど大きな規模で活動しているなんて)


 資産家の娘として育ち、「数値が示す意味」を読み取る訓練を受けてきた彼女には、その凄さが即座に分かった。

 フォロワー数、再生回数、コメントの多様さ――。

 それは単なる遊びや趣味ではなく、すでに社会に影響を及ぼす力になりつつある。


 そんな現実を、目の前の少年は気楽そうに「面白いだろ?」と笑っているのだ。 

 その特別誇るでもなく、自然体で語る光に、思わず見入ってしまう。



 詩音はその横顔を見つめ、カップを指でなぞるようにしながら、ぽつりと零した。


「……光さんはすごいですね。自分の力で人を惹きつけていて。

 私には、“東雲家の娘”ってこと以外……価値なんてありませんから」


 光はきょとんとした顔をして首を傾げた。

「東雲家ってなに? お金持ちの家なの?」


 詩音はわずかに姿勢を正し、淡々と告げた。

「一応、日本の御三家と呼ばれています」


「へぇ! すごいねー。じゃあ普通の人とは違うことを勉強するのかな」


 詩音は少し考えてから頷いた。

「ええ。一般的な勉強のほかに――社交界での振る舞い方、大きなお金の動かし方、

 それに人脈の築き方や、危機に備えるための情報の読み解き方……そういうことも学んでいます」


「へぇー! かっこいい!」

 光は笑いながら肩をすくめた。

「俺なんてマリ姐に“お金は大事です!”っていつも怒られてるのに」


 詩音は一瞬きょとんとした。

(マリ姐……? お姉さんか何かだろうか)



 そんなことを思っていると、光はストローをくるくる回しながら、あっけらかんと口にした。


「でもさ、東雲さんの悩み聞いてて思ったんだ。もし“お金しか見られてない”っていうのが気になるんだとしたらさ」


「え……?」


「他の価値っていうのもあるんじゃないの? 今日話してて思ったけど、東雲さんって素直だし、努力家っぽいし、意外と可愛げもあるし。

 ああ、あととびきり美人だしね」


 さらりと口にして、気恥ずかしそうに笑った。


 詩音は思わず瞬きをした。

 そんなふうに真正面から言われたことは、一度もなかった。

 胸が大きく鳴り、頬が熱を帯びる。



「例えば俺なんかはさ、これでも少しは稼いでるから“男性サポート制度”?なんかネットで“嫁入り”とか言われてるやつを使って、幼馴染と一緒に暮らしてるんだよ。

形式上は俺が稼いで支えてることになってるけど、実際は向こうも家のこととか活動のこととか、めちゃくちゃ助けてくれてる。

 だから養うとか養われるとかじゃなくて、お互いに支え合ってるって感じなんだ」


 詩音は一瞬、息を呑んだ。


 光は気にも留めない様子で、さらりと続ける。

「男が稼ぐ、女が支える、そんな関係性もあるし……結局は対等。むしろ男がちょっと引っ張るくらいが自然って感じというか。……まあ、こんな考えの男も、たまにはいるんじゃないかな?」


 軽い調子の言葉だった。

 けれど詩音には、胸の奥を雷に打たれたような衝撃として響いた。

 ――そんな価値観の男など、今まで一人もいなかったのだから。

祝!30日連続更新!!!

ここまで書き続けられたのも、いつも読んでくれて、お気に入りしてくれて、評価してくれる皆様のおかげです〜〜!


まだまだ光の物語は始まったばかりなので、皆様どうぞこれからもよろしくお願いします!

(やっと翻訳者、マネージャー、資産家令嬢が出てきたくらいですからね、まだ初期構想の20%も行ってないくらいです)

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