安定したと思ったら。
◆安定の日々
マリ姐が加わってから半年と少し。
黒川は専任化、公式サイトは整備され、未発表曲も順次公開され、楽譜アーカイブも稼働。
スケジュールも雪の一声で安定し、ファンの生活リズムまで改善された。
混沌とした日々が嘘のように、活動は秩序を取り戻していた。
光はストローをくるくる回しながら、笑って言った。
「ファンの人に届けられる曲、前よりずっと増えたね。なんかいい感じだよ」
あまりに気楽なその言葉に、マリ姐は机に突っ伏しそうになった。
「……あなた、自分がどれだけの人数を振り回していたか、ちょっとは自覚して?」
だが雪も黒川も、肩の力が抜けたように笑っていた。
ようやく「活動」と呼べる形になったのだ。
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◆光の突然のひと言
そんな穏やかな空気の中で、光はふと顔を上げて言った。
「そういえばさ――全国ツアーやりたいんだよね」
マリ姐の手が止まり、ペンが机から滑り落ちた。
「……は?」
黒川は固まり、雪は「えっ」と小さく声を漏らす。
光はにこにこと笑ったまま、あっけらかんと続けた。
「全国を回って、みんなの前で直接演奏したい。
画面越しじゃなくて、“あ、この人ほんとにいるんだ”って思ってもらえるのが大事だと思うんだ」
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◆理屈っぽくない男の理屈
「全国!? ライブ!? ツアー!? 男が!? 無理に決まってるでしょ!!」
だが光は、にこにこと笑ったまま引かない。
「だってさ、配信で聴いてくれるのもすごく嬉しいんだけど――画面越しじゃ“存在”を実感できないでしょ?
ライブ会場で目の前に俺がいて、音をその場で共有する。
“あ、この人ほんとにいるんだ”って感じてもらうこと。
この経験があるのとないのとで、ファンの気持ちの濃さは全然違うと思うんだよね」
その真っ直ぐな言葉に、雪と黒川は息を呑んだ。
マリ姐はこめかみを押さえた。
「……なんでこんな時だけ筋が通ってること言うのよ」
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◆ファンへの思い
光は机を指で軽く叩きながら続けた。
「曲を聴いてくれて、弾いてくれて、動画を切り抜いて広めてくれて。
そういう人がいるから、俺は“即興王子”でいられるんだ。
だから今度は、俺の方から“直接、目の前でありがとう”って示したい」
その声は普段の軽さではなく、心の底からの熱だった。
雪は小さく頷き、黒川も胸を押さえる。
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◆マリ姐の本音と表の答え
しかしマリ姐の心臓は冷や汗をかいていた。
(気持ちはわかる……わかるけど!
前例がないのよ! 男性が全国ツアーなんて、危険すぎるし、準備も費用もスタッフも何もかも足りないの!)
胃の奥から、きりきりと痛みがせり上がる。
それでも表向きに口から出たのは、冷静な一言だった。
「……とにかく、資金が足りません」
光は少し考えてから、にこっと笑った。
「あー、たしかにそっか。配信で稼ぐくらいじゃ全然足りないよね」
一度は納得したように頷き、場に安堵が広がった――が。
「いや、本当は世界ツアーとかもしたいんだけど」
その一言に、マリ姐は額を押さえて椅子にもたれ込み、雪と黒川は同時に絶句した。
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ナレーション
「――即興王子が語る“ライブの意味”。
普段は無邪気で飄々としている彼が、こういう時だけ妙に筋の通ったことを言う。
マリ姐は頭を抱え、全国ツアーの構想は“資金不足”という現実的な壁に突き当たった」
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明日で連続30日更新!1つ目標としていたことだったので嬉しいです!




