表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/155

声変わりの衝撃

◆異変の日


ある日、光がピアノを弾きながら軽く歌おうとした瞬間だった。


「……あれ?」

声がかすれて出ない。


「光、風邪かな? なんか喉の調子悪い?」

私は慌てて近づく。

光は少し照れたように笑った。

「あー……多分、声変わりかも」


隣でマリ姐が静かに頷く。

「男性が思春期になると起こるものですね。ファンの皆さまには、公式サイトからお知らせをしておきます」

光は気楽に肩をすくめた。

「カスカスだから、配信では喋んないほうがいいな。なんか恥ずかしいし」



◆「歌えないけどピアノは弾くよ」


【観察日記】

光の喉の調子が安定しておりません。

医師による診察の結果、思春期特有の「声変わり」であることがわかりました。


男性が成長過程で一時的に声が不安定になり、やがて以前より低い声に変化していく現象です。

そのため、しばらくは歌の活動を完全にお休みし、配信中もおしゃべりは控えさせていただきます。

ピアノ演奏のみをお届けする形となります。


光自身はとても元気ですのでご安心ください。

皆さまには少し寂しいかもしれませんが、“音だけの舞台”をお楽しみいただければ幸いです。


◆ファンの声

•「声変わりってなに?初めて聞いた」

•「そんなのあるんだ!?知らなかった!」

•「病気じゃなくて安心したけど、ちょっと心配だね」

•「可愛い声が変わっちゃうのかなぁ……寂しいな」

•「ピアノだけでも見るけど、やっぱりおしゃべり聞けないのは寂しい」

•「成長の証ってことなんだろうけど、ドキドキするな」



◆沈黙の配信期


数週間、光の配信はピアノだけになった。

画面の向こうで無邪気に笑う声もない。ただ指先が生む旋律だけ。


それでも人は集まった。

流石に前ほどの勢いではないけれど、光がピアノを弾き終えたあとに笑顔で手を振るだけで、十分すぎるほどの人が残っていた。


けれど日常では、変化を隠せなかった。


机に向かっていた光が、ふと私を手招きする。

大きな声を出せないから、近づけと示している。

身を寄せると、耳元で掠れた低音が囁かれた。


「……雪、お茶、淹れて」


――ただそれだけなのに、背筋を電流が走るように震えた。

(……刺さる。刺さりすぎる)

光は無自覚で、いつも通り。

なのに私だけが動揺して、俯くしかなかった。



◆「声戻ったし、歌ってみるね」


【観察日記】

光の声が安定してまいりました。

医師の判断でも、声変わりの大きな段階は無事に過ぎたとのことです。


これに伴い、今夜の配信から歌を再開いたします。

しばらくは声量を抑えつつの歌唱となりますが、成長の証としてお楽しみいただければ幸いです。


皆さまの応援が光にとって大きな力になっております。

今後とも、変わっていく光をどうぞ見守ってください。


◆ファンの声

•「やったー!久しぶりに声が聞ける!」

•「声変わっちゃったの、楽しみ3割・心配7割って感じかな」

•「元気な姿が見られるといいな」

•「可愛い声が好きだったけど……変わった声も聴いてみたい」

•「大人っぽくなるのかな?想像できない」

•「でも成長の証なんだし、絶対かっこよくなるはず!」



◆復帰配信(囁き低音)


画面に現れた光は、マイクに向けて少し緊張したように息を吐いた。

「……やっと声が安定してきたよ。まだ大きな声は出せないけど、ちょっと試してみるね」


その言葉自体が、囁くような低音で響いた。

耳に落ちるたびに震えるようで、私は息を止めた。


コメント欄:

•「低音やば」

•「囁かないで!腰砕ける!!」

•「男の人の声ってこんな破壊力あるの……?」

•「息遣いで死ねる」


私はカメラに映らない位置に立っていた。

けれど近すぎて、耐えられなかった。

思わずいつもの立ち位置から二歩ほど下がる。

それでも囁くような低音が耳に直接入り込んできて、鼓膜だけじゃなく頭の奥まで震えて、体が熱くなる。

耳が真っ赤になっているのが自分でもわかって、まともに前を向けなかった。


光がちらりと横を見て、小さく笑った。

「……雪、なんかいつもより気持ちちょっと遠い?」

「えっ……そ、そんなこと……ない」

慌てて答えた声は裏返りそうになった。

視線を合わせられず、ただモニターに目を向ける。


光は特に気にしていない様子で鍵盤に向き直り、ピアノを奏で始める。

低音の囁きが混じる歌声に、コメント欄が再び大騒ぎになる。


雪(……違うの。私が勝手にドキドキしすぎて、近くにいられなくなってるだけ……!)



◆配信後


配信が終わり、光が「じゃあ、今日はここまでー!」と手を振って退出した。


いつもならタオルを片づけたり、お茶を淹れたり、光の世話を焼いてから部屋を出る。

けれど今日は耐えきれず、そのルーティンさえ忘れて、思わずリビングに降りてしまった。


「…………っ」

ソファに腰を下ろした途端、全身が固まってしまう。

心臓がどくどく鳴って、耳まで熱くて、全然落ち着けない。


低くなった声。

囁くような歌声。

すぐ横で聞いていたはずなのに、胸の奥にまで直接触れられたみたいで――息が詰まった。


「……っ、無理……」

思わず顔を両手で覆って、そのままソファに倒れ込む。

クッションに顔を押し付けても、頭の中に響くのはさっきの低音。


(前の可愛い声も好きだったのに……なんで……なんでこんなに刺さるの……)


その時、階段を下りる足音がして、光の声が響いた。

「雪、いる? なんか……やっぱりいつもより気持ち遠くない? どうした?」


リビングのドアが開き、光が心配そうに顔をのぞかせる。

「えっ……そ、そうかな?」

心臓が跳ねて、まともに顔を見られなかった。

誤魔化すように笑っても、耳まで熱いのは隠せなかった。


9/4から"27日連続"で毎日更新中!


そしてブクマ200件突破ですーー!嬉しいー!

いつも読んでくださる皆さまのおかげです、ありがとうございます!

-----------

30日連続更新が見えてきたな....!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ