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幼稚園の奇跡〜ピアノの時間

幼稚園に上がったばかりの光は、二十人のクラスでただ一人の男の子だった。

女の子たちは「珍しい男の子」として興味津々で、休み時間には入れ代わり立ち代わり声をかけていた。

けれど本人はどこか淡々としていて、すぐに女の子たちの方が「もっと遊びたい!」と必死になる。


そんなある日のことだった。



先生視点


その日の音楽の時間、予定していた伴奏の先生が急に体調を崩してしまった。

「どうしよう、今日は歌の練習ができないかもしれないね」

私は困り果て、教室を見回した。


すると、すっと小さな手が挙がった。


「僕、弾きます」


五歳の男の子がそんなことを言うなんて、誰も本気にしていなかった。

「……ほんとにできるの?」

半信半疑のままピアノに座らせてみる。


鍵盤に小さな指が置かれた瞬間、教室が静まり返った。


流れ始めたのは、童謡の伴奏。

澄んだ音色が、驚くほど自然に、滑らかに広がっていく。


「え……すごい」

「光くん、ほんとに弾けるんだ!」


驚きの声があがると、子どもたちの好奇心は止まらなくなった。



園児たちの反応


「じゃあこれ弾いて!」

「わたしの好きな歌も!」


次々と飛んでくるリクエスト。

テレビのCMソング、アニメの主題歌、昨日歌った童謡。

光は耳にしたそばから、すぐに鍵盤に乗せてしまう。

知らない曲ですら、誰かが口ずさめば、その場で再現してしまった。


歌い出す子、手を叩いてリズムを取る子、ただじっと聴き入る子。

気づけば教室は、まるでコンサートホールのようになっていた。


最初は「男の子と遊びたい」から集まってきた女の子たちも、いつの間にかそんなことは忘れていた。

今はただ――ピアノの音が楽しくて、みんなで夢中になっている。



雪視点


雪もその輪の中にいた。

小さな体で鍵盤に向かう光の姿を、胸の奥が熱くなる思いで見つめていた。


(……すごい)


女の子に囲まれて弾き続けるその音が、真っ直ぐに自分の耳に届いてくる。

「珍しい男の子」だったはずの彼は、この瞬間からもう違っていた。

光は、みんなを惹きつける存在になってしまったのだ。



先生視点(締め)


私は呆然と立ち尽くしていた。

歌の時間が、いつの間にかリクエスト大会に変わり、教室全体が音楽に包まれている。

けれど、子どもたちの顔は誰もが楽しげで、心から輝いていた。


――この子は本物だ。


強い確信が胸に芽生えた瞬間だった。

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