マリ姐、地獄を知る
◆期待と現実
正式にマネージャーとなった村瀬真理――“マリ姐”。
外から見ていた時点で「この子の活動はだいぶカオスだな」とは思っていた。
告知なし、アーカイブ多すぎ、楽譜散らかり放題。
でも、まぁ才能がすごすぎて、周りが勝手に盛り上がってるだけだろう。
少し整理すればすぐに整う――そんな甘い見立てをしていた。
しかし、内部に足を踏み入れた瞬間。
その予想は粉々に砕け散った。
「……想像してたより……100倍ひどい」
◆宝の山...?
新曲や配信曲は、すでに常軌を逸したスピードで毎日のように投稿されている――しかし、公開されているのは全体の2~3割ほどだった。
「え、えっ? これ全部“未投稿”!? どれも数万回再生どころじゃないポテンシャルなのに!?」
光はケロッとした顔で答える。
「いや、未投稿のもあるけど……投稿済みのやつも混じってるし、“これは投稿しないクオリティかな”って俺が思ったやつもある」
「その基準が一番信用できないんですけど!!」
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◆告知とスケジュールの不存在
配信は「だいたい毎日」やっている。
ただし時間はバラバラ。夜中だったり昼だったり。
思いつきで朝昼夜と三回やることもあれば、逆に「15分だけ」やって終わることもある。
「ファンの人たち、どうやって追ってるんですか!?」
「通知と、あと……執念?」
「宗教じゃないんだからああああ!!」
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◆楽譜カオス
遥が徹夜で採譜した楽譜。
それを光が確認もせずに気分でSNSにポイッ。
タイトルは「新曲」「最終」「ほんとに最終」「これで終わり」「いや、まだ修正版」。
同じ曲が微妙に違う形で複数流通していて、ファンも混乱していた。
マリ姐は頭を抱えた。
「……整理どころじゃなく、ただのカオスじゃない」
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◆チャンネル地獄
次にチャンネルを確認すると――そこは無限地獄だった。
配信アーカイブ。
オリジナルピアノ曲。
遥のアレンジによるオーケストラ、ロックバンド、民族音楽、和風……。
数が多すぎて、再生リストは崩壊していた。
「アーカイブが“無限ガチャ”状態なんですけど!?」
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◆公式より公式
極めつけは――ファン有志が作った非公式アカウント。
アーカイブ集に、演奏曲との対応リストが丁寧にまとめられ、リンクまで完備。
整理の正確さと速度は、公式の比ではなかった。
フォロワー数は公式を超え、「#こっちが公式」がトレンド入り。
スマホを見たマリ姐は肩を落とした。
「公式が二軍扱いされてる……」
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◆止まらぬ曲の量産
混乱をなんとか整理しようと作業していると、背後からピアノの音。
振り返ると、光が笑顔でピアノを弾いて、雪が隣に座って微笑んでいた。
「……それ、何の曲?」
「え? うーん……いま作ったやつ?」
マリ姐の両目が点になった。
「……配信や依頼以外にも、遊びで勝手に曲を作ってる!?
外に出てるのの数倍のスピードで量産されてるってこと!?」
雪が微笑んで頷く。
「光、遊んでるときの方がむしろいっぱい作りますよ」
マリ姐は胃を押さえ、その場に崩れ落ちた。
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ナレーション
「――こうしてマリ姐は、想像を絶するカオスと、留まることを知らない才能の奔流を知った。
その瞬間から、彼女の胃は日々限界に挑み続けることになる」
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