マリ姐との最初の面会
◆安全なカフェで
週末の午後。
光の家族もよく利用する「男性安全認定マーク付きカフェ」の奥に、四人分の席が用意されていた。
光、母、雪、そして黒川遥。
そこに姿を現したのは、一人のスーツ姿の女性だった。
背筋を伸ばし、少し硬い笑みを浮かべて立ち上がる。
「はじめまして。村瀬真理と申します」
それが――後に“マリ姐”と呼ばれることになる女性だった。
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◆自己紹介
席についた真理は、少し息を整えて自己紹介を始めた。
「私は音楽関係、主にアーティストのマネジメントの仕事をしております。
まだ会社を辞めてはいませんが、数年は暮らせるだけの貯金はあります。
もし必要とあらば、全てを投じてでも……光さんの活動を整理し、世界へ届けたいと考えています」
真剣な眼差し。
その熱量に、雪は思わず身を乗り出し、黒川も静かに耳を傾けた。
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◆熱弁
真理は続けた。
「現状は混乱しています。
配信は不定期で告知もなく、楽譜も散乱し、収益も管理されていない。
今の状況では、ついてこれるファンはごく一握りの時間が余ってるもの、もしくは光さんのみに集中するような異常な熱量のある方のみです。
このままでは、いくら才能があっても破綻します。
ですが、整理すれば――光さんはもっと遠くまで行ける。
音楽にだけ集中できる環境を、私が作ります」
その声はまるで宣誓のようだった。
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◆母の拒絶
しかし光の母は、すぐに首を振った。
「あなたに任せる必要はないわ。
家族で十分守れる。
外の人間に大切な息子を託す理由はありません」
その断固とした口調に、雪も黒川も息を呑んだ。
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◆光の呑気さ
光はストローを弄びながら、あっけらかんとした笑みを浮かべた。
「まあ……俺、このままでも生きていけるしな」
ベーシックインカムという制度があるこの世界。
彼にとって「音楽で食べていく」ことは切実な問題ではなかった。
真理の真剣さに比べ、その言葉はあまりに呑気で、拍子抜けするほどだった。
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◆一度目の終わり
真理は唇を結び、深く頭を下げた。
「……承知しました。今日は、ありがとうございました」
彼女が席を立つと、テーブルの上に重たい沈黙が残った。
雪は胸の奥に小さな棘のような不安を感じていた。
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ナレーション
「――こうして最初の面会は、何も決まらないまま終わった。
だがこの出会いこそが、停滞した光の活動を再び動かすきっかけになるのだった」
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