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翻訳者との初対面

◆初対面の場


 場所は、光が行きつけにしている「男性安全認定マーク付きカフェ」。

 治安と安全に最高の配慮が施された、値段は高いが安心できる店。

 光も母や雪とよく通っており、今日はその席に“特別な来客”を迎えていた。


 黒川遥くろかわ はるか

 20代半ばの社会人で、音大卒の作曲・編曲者。

 彼女が送ってきた採譜PDFは完璧で、光の音楽を“翻訳できる人間”だと証明していた。



◆自己紹介


 落ち着いたスーツ姿で現れた彼女は、椅子に腰を下ろすと深く一礼した。


「初めまして。黒川 遥と申します。作曲や編曲の仕事をしておりました。

 昨日お送りした楽譜……ご確認いただけましたか?」


 光は笑顔で頷いた。

「うん! すげぇ! 俺が弾いた通りになってた。……いや、合ってるかどうかは自分じゃわかんないけど」


 雪と母は思わず苦笑した。

 だが遥の瞳は真剣だった。



◆遥の想い


「……あなたの音楽は、このまま消えてしまうには惜しすぎます。

 私はみなに伝えられる人、最近は“翻訳者”なんて大仰に呼ばれてますが...として、光さんの音を誰もが再現できる形にしたい。

 そのために、あなたの隣に立たせてください」


 言葉は、まるで誓いのようだった。



◆衝撃の握手


「おお! 心強いな!」

 光はにこっと笑い、突然、遥の手をぎゅっと握った。


「じゃあ、これからパートナーだね!」


 母が「光!」と慌てて声を上げる。

 雪も目を丸くして息を呑んだ。


 男性から女性に触れる――この世界では滅多に起こらない“常識外れ”が、何の躊躇もなく行われたのだ。


 遥は硬直し、頬を真っ赤に染める。

「……え、ええ……パートナーです」


 光は満足そうに笑い、ストローをくるくる回した。

「よし、よろしく!」



◆鼻歌からでも


「ねぇ、遥さん。もし俺が、ピアノ弾かずに鼻歌だけ歌ったら、それも楽譜にできる?」


 光がふと思いついたように尋ねる。


 遥は一瞬目を丸くし、そして小さく頷いた。

「……はい。旋律とイメージさえあれば、和声を補って曲にできます。それをお聴きいただいて、イメージと違うところを調整していけば、私の方で形にすることができるかと思います」


「おお! じゃあ頭の中にある曲も形にできるな!」

 光は嬉しそうに笑い、雪と母は思わず顔を見合わせた。

 ――このやりとりは、のちに「配信外のオリジナル曲の投稿」へとつながる最初の芽となった。



ナレーション


「――こうして黒川 遥は、“翻訳者”として即興王子の隣に立つことになった。

 常識を越える握手から始まった二人の関係は、やがて世界規模の音楽を形にしていく礎となる」

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