楽譜を求める声
◆ファンからの要望
四度目の配信以降、光のチャンネルは爆発的に広がった。
リクエストに応えるたびに切り抜きが生まれ、SNSのトレンドに「#即興王子」が躍る。
コメント欄には演奏リクエストだけでなく、新しい要望も増えていった。
『この曲、私もピアノで弾きたい!』
『楽譜出してくれませんか?』
『譜面があれば学校で友達と合わせられるのに』
雪は隣でそれを読み上げながら、思わず顔を綻ばせた。
「……すごいね。光が弾いたのを、自分でも弾きたいって」
「へぇ……そうなんだ」
光はストローを咥えたまま、あっさりと答えた。
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◆衝撃の一言
次の配信で、視聴者から同じ要望がコメントに流れた。
『楽譜ほしい!』『譜面化して!』
光は笑顔のまま、さらっと言った。
「あー、ごめん。俺、楽譜読めないし書けないんだよね」
一瞬、コメント欄が静止した。
次の瞬間、大量の文字が流れ出す。
『えっ!?』『は???』
『どういうこと!?』『耳コピだけでやってんの!?』
『天才すぎるけど、信じられん』
SNSにも拡散され、驚愕と混乱が広がっていった。
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◆視聴者の反応
『じゃあどうやって練習してるの?』
『譜面なしであの完成度は意味わからん』
『バケモンだわ……』
『でも楽譜なきゃ自分たちで演奏できないじゃん!』
雪は横で小声で呟いた。
「……炎上とまではいかないけど、ファンの人たち、戸惑ってるね」
「まぁ、そうだろうね」
光は悪びれもせず、ピアノに頬杖をついた。
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◆黒川からのDM
その夜。
光のDMに、一通の長文メッセージが届いた。
『突然のご連絡、申し訳ありません。
先日の配信で弾かれていた「風の彼方」を、拙いながら耳で聴き取り、譜面にしてみました。
PDFを添付します。
もし間違っていたらすぐに削除いたしますし、ご迷惑ならどうか無視してください。
ただ……あなたの音楽を他の人も弾ける形にできるのではないかと思い、勇気を出しました』
光は添付ファイルを開いた。
そこには整然とした五線譜に音符がびっしり並んでいる。
「……おお……」
感嘆の声を漏らしたものの、すぐに眉をひそめる。
「でも俺、楽譜って“黒いおたまじゃくしの行列”にしか見えないんだよな……」
「ふふっ...そういえばそうだよね」
雪が控えめに笑う。
音楽教室に通ってはいたものの、光は結局、耳で聴いてそのまま弾くばかり。
譜面を追う習慣は最後まで身につかなかった。
雪が譜面を受け取り、ピアノの前に座った。
「……じゃあ、私が弾いてみるね」
初見の譜面に指を走らせる。
ゆっくり、慎重に音を確かめながら鍵盤を押す。
「どう? 合ってそう?」
雪が振り返る。
光は耳を傾け、一拍の迷いもなく答えた。
「合ってる」
雪は小さく笑みを浮かべた。
「……やっぱりね。光は弾いたの、全部覚えてるもんね」
光は口元をにやりと緩めた。
「なるほど……これは便利だわ」
ナレーション
「――ファンが求めた“楽譜”という壁。
光があっさりと『読めない書けない』と告げたその瞬間、混乱は広がった。
だが同時に、それを形にできる者が現れた。
黒川遥――即興王子を“翻訳”する者との邂逅である」
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