雪が残したアーカイブ
◆ファンの嘆き
三度目の配信が終わった翌日。
SNSのタイムラインは、切ない声で埋め尽くされていた。
『私のリクエスト弾いてくれたのに動画残ってない……』
『あの「風の彼方」、神演奏すぎたのに友達に見せられない』
『毎回アーカイブ消えるの、本当にもったいない』
光はのんきに肩をすくめて言った。
「あー、また設定してなかったっぽい」
雪はその横でモニターを見つめ、唇を噛んだ。
コメントの文字が、まるで胸に直接突き刺さるようだった。
「……私が、やるしかない」
⸻
◆雪の奮闘
机に向かい、慣れないパソコンと格闘する。
説明書を読み、ネットで調べ、設定画面を何度も開いては閉じた。
「録画自動保存……ここ? 違う……。えっと……」
エラー音が鳴り、画面が止まるたびに心臓が跳ねる。
それでも雪は諦めなかった。
ファンの声が頭にこびりついていたからだ。
『残してほしい』『もう一度聴きたい』
小さな手が震えながらも、キーボードを叩き続ける。
やがて画面に「自動保存ON/公開設定:自動」という文字が表示された。
雪は深く息を吐き、椅子の背にもたれた。
「……これで、残るはず」
⸻
◆四度目の配信
数日後。
四回目の配信が始まった。
「こんばんはー! 光です。今日はリクエストたくさん拾います!」
コメント欄は開始早々から大爆発していた。
『待ってた!』『即興王子!』
『今日はアーカイブ残してよ!w』
光は笑いながらピアノに向かう。
「大丈夫、今日は残るはずだから!」
知らない曲を聴いて即座に弾き、知っている曲を次々奏でる。
コメントは狂喜乱舞した。
『やばすぎる』『昨日超えた』『人間じゃない』
『#即興王子 がまたトレンド入りしてる!』
⸻
◆公開された記録
配信が終わった後。
雪は震える手で画面を確認した。
「……残ってる」
保存フォルダに動画ファイルがあり、公開リストにも自動反映されていた。
胸の奥に、じんわりと温かいものが広がった。
SNSにもすぐに反応が現れる。
『アーカイブある!!』『神!』『助かった!』
そして配信中、光が笑って言った。
「これ、雪が設定してくれたから残ってるんだよ」
コメント欄は一気に感謝の嵐となった。
『雪ちゃんありがとう!』『救世主!』『いてくれてよかった!』
雪は真っ赤になりながら、うつむいたまま小さく呟いた。
「……よかった」
⸻
ナレーション
「――四度目の配信で、ついに記録は残された。
“即興王子”の姿を未来へ刻んだのは、幼馴染・雪の小さな勇気だった。
この日以降、光の音楽は“消える瞬間の奇跡”から“残る歴史”へと変わっていった」
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