「男性活動促進法」
学校の廊下の隅。
忘れられたように、一枚だけチラシがラックに置かれていた。
角は折れ、薄く埃をかぶっている。
制度自体は残っているけれど、いままで本気でやりたいと思う男性なんていなかったから、形骸化して放置されていたのだろう。
私は何となく気になって、それを家に持ち帰った。
光の机に置くと、彼はちらりと視線を落とした。
『男性活動促進法 芸術・文化活動支援制度』
そんな文字が目に飛び込む。
「なにこれ?」
「……やりたいことがある男性を、国が支援してくれる制度……らしい。音楽の機材とかも、もらえるかも」
光は一瞬だけ黙ってチラシを見つめ、次の瞬間には笑った。
「……俺、配信やろうかな」
「え……配信?」
「それならここからでもたくさんの人と繋がれるよな!小学校で放送室から演奏したみたいに、家にいながら世界中に届くんだ!」
彼の声は弾んでいて、もう止められない。
「ちょっと……まだ全部読んでないのに」
私の小さな抗議なんて届かず、光はもうパソコンの前で入力を始めていた。
指先がリズムを刻むみたいにキーボードを叩き、画面を次々に切り替えていく。
「……やっぱり、光はこうだよね」
口に出せず、胸の奥でだけ呟く。
退屈そうにしていた顔はどこにもなくて、久しぶりに夢中になっている横顔。
その姿に、心臓が熱くなるのを抑えられなかった。
数日後、放課後に光の家を訪ねると、玄関から部屋までダンボールの山。
その真ん中で光が手を振っていた。
「助けてー!手伝ってー!」
困っているように見えて、目はきらきらしていた。
思わず小さく笑みがこぼれる。
(……ほんと、生活力はないんだから)
夢中で何かを始めると、食事も掃除もすぐに忘れる。
だからこそ、こうして私が隣にいるのは当たり前で――そして、その当たり前が、今はなんだか少し眩しく見えた。




