変わったことと、変わらないこと
学校に通うのは、私だけになった。
小学校までは同じように登校して、同じ時間を過ごしていたのに。
中学生になった途端、光はもう通わなくてもいい。そういう制度だから。
女子が性に目覚める年頃になると、男子は外に出れば危険に晒されやすい。
だから“守るために”学校へ行く義務はなくなる。
代わりに生活は国から保証されて、家にいれば困らない。
――たしかに、そうかもしれない。
小学校高学年くらいから、小さく灯った衝動。
それは最初はほんの小さなざわめきで、すぐに消せると思っていた。
でも今は違う。日に日に大きくなって、抑えがたくなっていく。
ピアノを弾く指に、腕に浮かぶ筋に、首筋を伝う汗に……気づけば視線が吸い寄せられてしまう。
私だけじゃなく、きっと誰もがそうなんだろう。だから男子は“守られる”必要がある。
最初は「これで光と少し距離ができちゃうのかな」と思った。
でも、意外と変わらなかった。
朝になればピアノの音が聞こえるし、放課後になればいつものように彼の部屋で片付けをしている。
……距離は、変わらない。
むしろ、私だけが学校で忙しくなって、余計に彼を意識する時間が増えてしまったくらい。
休日には、たまに外へ連れ出すこともある。
「行こ。たまには外の空気を吸わないと」
そう言って一緒に入るのは、“男性安全マーク認定カフェ”。
男子が安心して過ごせるように認可された場所で、女子と並んで座ることも許されている。
光はそこで水を飲みながら、外の景色をぼんやり眺めている。
落ち着いてはいるけれど、どこか退屈そう。
私はそんな横顔を見ながら、どうしてだろう、胸の奥がじんわり熱くなる。
学校では全然違う光景が広がっている。
教室に数人しかいない男子たちに、社交的で自信のある“イケてる女子”ばかりが積極的に声をかけている。
自然に肩を叩いたり、笑いかけたり。
そういう子たちがモテるのは当たり前で、私はただ遠巻きに見ているだけだ。
(私なんて、選ばれるはずがない……)
自分の引っ込み思案さが、誰よりも浮いている気がして仕方がない。
けれど光は、そんなことを気にも留めない。
「雪が一緒だと楽だな」
無邪気にそう言って笑う。
その何気ない一言が、私の心を簡単に揺らしてしまう。
――私は“選ばれる”ような女の子じゃない。
だけど光の隣にいられるのは、私だけ。
その事実だけが、どうしようもなく私を支えていた。




