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「やめないで」って想いを込めて

♦︎雪視点(夜)

その夜、私は机の上にぐしゃぐしゃの紙束を広げていた。昨日、光がゴミ箱に捨てた破れた楽譜。

本当なら私には関係のないものだ。けれど、見て見ぬふりなんてできなかった。


(もしこのまま、光がピアノをやめちゃったら……)


怖かった。あの音が、もう聞けなくなるのが。そして何より――昨日の「きらきら星」を一緒に歌った時間を、もう二度と取り戻せなくなるのが。

震える指で、破片を一つひとつ並べていく。セロテープで繋げても、隙間は不格好で、紙はしわだらけになった。でも、どうしても直したかった。

(綺麗じゃなくてもいい。……“また弾ける”って思ってほしい)

最後に、紙の端に小さく書き添えた。

「光くんの音、好きだから」

それは願いというより、祈りのような言葉だった。


♦︎翌日・雪視点

朝から心臓が落ち着かなかった。楽譜をかばんに入れて持ってきたけれど、渡す勇気が出ない。何度も手を伸ばしては引っ込めて、そのまま一日が過ぎていった。

放課後。ピアノ教室の玄関で、光の姿を見つけた。

(……今しかない)

深呼吸をして、震える手で楽譜を差し出した。

「……これ、直したから」

視線は床に落としたまま。顔を上げる勇気は出なかった。


♦︎光視点

差し出された紙束を受け取った瞬間、光は目を丸くした。昨日、自分がゴミ箱に捨てたはずの楽譜。セロテープで継ぎ合わせ、不格好ながらも読める形に直されていた。

(……こいつ、わざわざこんなことを……)

胸の奥に、温かいものが広がる。でも、それを素直に口にするのは気恥ずかしかった。

だから、わざと不貞腐れた調子で言った。

「……はぁ。しゃーねぇな。もうちょい続けてやるか」

紙をぱらぱらとめくりながら、光は口元を隠すようにうつむいた。笑みが零れるのを、雪に悟られたくなかったから。


♦︎雪視点

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんと熱くなった。光はそっけない態度を取っていたけれど、私にはわかった。彼の声が、ほんの少し柔らかくなっていたことに。

(よかった……やめないでくれる)

安堵と同時に、涙がこぼれそうになった。私は慌ててうつむき、唇を噛んで笑みを隠した。


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