表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/169

音を描くひと

 CD制作の打ち合わせを終えたあと、そのまま少しだけ雑談の空気になっていた。

 マリ姐がタブレットを開きながら、ふと思い出したように言う。


「そういえば光、あの配信で描いてた“自作ジャケット案”の件だけど……」


「うん?あれ俺、けっこう頑張ったよ?」

なぜかいまだに自信満々で言う光。


「“酷評”の嵐だったじゃない。しかも“なぜあんな絵を出したのか考察スレ”まで立ってたわよ」


「ひどくない!? 愛を込めたんだけど!!」


 雪が吹き出した。

「愛が空回りしてたタイプだね、あれは」


「とはいえ、その配信後に“自分の絵を使ってください”ってDMが殺到してます。100件以上……」

 詩音が淡々と補足する。


「とりあえず、有力そうなのをいくつかピックアップしたけど——」

 マリ姐が画面をモニターに映した。



 チーム全員がソファに寄って、一覧を眺める。

 ポップ系、写実系、CG系、どれも上手い。

 けれど、光の心はどこか引っかかっていた。


「どれも綺麗だけど、“光っぽさ”はまだ無いかな」

 雪が呟く。


「抽象画も何件か来てますね。……これなんか、色が独特です」

 詩音がタブレットを操作した。


「ええと……“水野真白”? 聞いたことない名前ね」

 マリ姐が首をかしげる。


 モニターには、青と金が滲み合う抽象画が映っていた。

 形は曖昧で、海にも空にも見える。

 説明文にはただ一言、「音の記録」。


「……これ、なに? 空……? 海……?」

「説明文もないですね」

 雪と詩音が首をかしげる中、光だけが前のめりになって画面を見つめていた。


 そして、ゆっくりと言った。

「——“ほどける夜”だ」



「え、知り合い?偶然?」

 雪が驚く。


「いや……この色と雰囲気。あの夜のピアノ、そのまま」

 光がモニターを指さした。


 詩音がそのアカウントを開く。

 スクロールするたびに現れる抽象画。

 赤、銀、群青、灰。


 光はモニターをながら、静かに言った。

「これ、“星空”だ。……あ、これ“起き昼”だね。……これは“ボヘミアン・シンフォニー”」


 静まり返るスタジオ。

 モニターの光だけが淡く揺れている。


 誰もが、その画面に引き込まれていた。

 青と金の色の波が、静かに息づいている。


「正直、私には全然わからないんだけど……光の曲ばっかりってことは、相当なファンなのかな」

 雪がぽつりと言う。


「ただのファンにしては……感覚が鋭すぎるわ」

 マリ姐が腕を組んだ。


「説明も何も書かれていません。全部“音の記録”とだけ」

 詩音がスクロールを止めた。


 光はモニターを見つめたまま、小さく呟いた。

「うーん……なんか、見てると“聴こえる”感じしない?」


 その言葉に、場の空気が少しだけ変わる。

 誰も確信は持てないまま、けれど全員が同じ“何か”を感じ取っていた。


 マリ姐が静かに息を吐く。

「……まあ、気になるのは確かね。いったん、会ってみましょうか。ちょっと連絡しておくわ」


 雪がふっと笑う。

「なんか、ちょっと運命っぽいね」


 光も笑った。

「うん。そんな気がする」


 モニターの中で、青と金の波がゆっくりと溶け合う。



 ——その絵はまだ“誰のものでもない音”。

 けれど、確かに光と同じ場所を見ていた。

 静かな出会いが、次の音を呼び起こそうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ