CD制作会議 - 自由なアルバム
スタジオの会議室。
ホワイトボードには「CD構成」と大きく書かれ、その下に“自由に決めよう!”の文字。
光の字だ。隅には雪が描いた落書きの星と、詩音の付けた付箋が貼られている。
マリ姐は額を押さえた。
「……会議っていうより、文化祭準備ね」
「勢いが大事なんだよ、勢いが」
光が笑いながらペンを回す。
「なんか懐かしいね、この感じ」
雪が頬を緩めた。
⸻
◆真面目曲パート
「まず、“星空”。ツアーの最後に完成したやつは絶対入れたい」
「うん。あれは外せないよね」
雪が即答する。
「で、“自由を見つけた日”。あの会議室で話したことを曲にしたいんだ」
光はペンを回しながら言った。
「俺が見失ってた自由を、みんなが持ってて、返してくれた。
あの感じを音にしたい」
「……いいタイトルだと思います」
詩音が微笑む。
遥も頷きながら言った。
「あの日のことをストレートに曲にできるの、光くんらしいね」
⸻
光は少し考え込むようにペンを止めた。
「……あと、“見上げれば”も入れたいんだ」
その一言に、空気がふっと柔らかくなる。
「初期の曲ですね。ファンからの人気も根強いです」
詩音が資料を確認しながら言った。
「うん。でもあれって、最初の頃に光の配信を全部整理してくれた“非公式アカウントさん”へのお礼の曲だったよね?」
雪が懐かしそうに目を細める。
「そう。たしか当時、権利関係も全部その人に譲渡してたはず」
マリ姐が腕を組み、短く頷いた。
「その人がいなかったら、たぶん今の俺たちはないよ」
光は少し照れくさそうに笑いながら続けた。
「もし今後、もう一度あの曲を出すなら、ちゃんと許可をもらって“共作”にしたいなって思ってる」
「わかった。じゃあ、こっちで正式に連絡してみるわ。
アカウント自体は残ってるみたいだし」
マリ姐がタブレットにメモを取りながら答えた。
⸻
「で、最後。“調和の世界”。これはルナリアさんとのコラボ曲。原案はもう大体頭の中にできてるんだよね」
光が言うと、マリ姐がすかさずツッコミを入れる。
「タイトルがルナリアそのものじゃない」
「そうそう、あの人って“調和の女王”なんだよ。
私生活は自由なのに、ステージでは全員を完璧に合わせる。
そのギャップが面白くてさ」
詩音がくすっと笑った。
「なるほど。光さんが惹かれる理由が少しわかる気がします」
⸻
◆お遊び曲パート
「次、“ボヘミアン・シンフォニー - 光editライブver”。」
「……それ、一番危ないやつよ」
マリ姐が眉をひそめる。
「可能かは分かりませんが、引用の方向で調整と交渉をしてみます」
詩音がさらりと答えた。
「助かるわ」
さらに光が続ける。
「で、“起きたらすでに昼だった日に弾いてみた曲”。」
「急にタイトルゆるいね」
雪が笑う。
「いいじゃん、これいい曲なんだよー。すごい気に入ってて、配信でもたまに弾くくらいだしさ。
マリ姐が入った頃の“なんか、最近、いい感じ”とも迷ったんだけど」
全員「(笑)」
詩音が資料をめくりながら言う。
「でもこの曲、サブスクですごく人気なんですよ。“聴くと気持ちが楽になる”とか、“夜聴くと眠れる”って。
ファンの間では“起き昼”って呼ばれてます」
「うそでしょ……」
マリ姐が目を押さえる。
「“起き昼”!かわいいじゃん!」
光はうれしそうに笑った。
⸻
◆新しい提案 ― “音を解き放つ”アルバム
話が一段落したところで、光がホワイトボードの端に新しい項目を書き加えた。
「でさ、全部の曲に“声なし”の無声トラックをつけたいんだ」
マリ姐が瞬きをする。
「え?……なんでそんなことを?」
「曲が広まりそうじゃない?
あと、俺が思いつきもしなかったようなアレンジしてくれる人が出てきたらいいなって!」
雪が目を丸くした。
「それ、アレンジ自由ってこと?ファンがリミックスとか作るの?」
「そうそう!“光アレンジ選手権”とかさ、勝手に盛り上がったら面白くない?」
遥が笑いながらペンを走らせる。
「それなら、公式楽譜とか各楽器を抜き出した音源も配布するとか?
トラックだけあるより格段にアレンジの幅が広がって、色々と生まれると思うし」
「楽譜はわかるけど……各楽器を抜き出した音源?」
光が首をかしげる。
「“STEM音源”って呼ばれてるやつね」
遥はホワイトボードに小さく書きながら説明した。
「たとえばピアノだけ、ドラムだけ、ベースだけっていう風に分けた“音そのもの”の素材。
それを混ぜたり差し替えたりして、リミックスやアレンジができるの」
「へぇ〜……つまり、料理の材料をバラで渡す感じか」
「そう、料理で言えば“完成したカレー”じゃなくて、“具材とスパイスを小分けにしたセット”」
「うわ、それわかりやすい!」光が笑う。
「じゃあ、スパイスや具材の種類変えて新しい味にできるみたいな?」
「まさにそれ」遥も微笑む。
「で、もう一つ“MIDI”っていうのも入れていいと思う」
「ミディ……って?」光が首を傾げる。
「すごーく簡単に言うと、“レシピ”みたいなものね」
遥は静かに続けた。
「どの鍵盤を、いつ、どのくらいの強さで弾いたか——演奏そのものの設計図。
音は入ってないけど、パソコンの作曲ソフトで読み込むと、自分の音源で同じ演奏が鳴らせるの」
「つまり、俺の弾いたピアノを、みんなが自分の音で再現できるってこと?」
「そう。ピアノをギターに変えたり、弦楽器で鳴らしたりもできる。
“料理のレシピを自分のキッチンの材料で再現する”みたいな感じね」
「なるほど……“素材”と“レシピ”、両方配るわけだ」
光が満足げに頷いた。
「よし、全部入れよう!」
マリ姐は頭を抱えた。
「……なんか色々言ってるけど、これ調整するの私たち……?」
詩音も苦笑いを浮かべる。
「これ、調整が急に5倍になりそうですね……」
遥も苦笑しながら言う。
「音源とかの調整は私が担当するね」
雪がくすっと笑った。
「でも、“音を解き放つアルバム”って感じ、光らしいよ」
「でしょ? 自由がテーマだからね」
光がペンを回しながら笑った。
——そして、ペンを回しながらふと思いついたように言った。
「ところでさ、このアルバムの名前、思いついたんだけど。」
一同「(また急に始まった……)」
光はホワイトボードに何かを書きかけて、
にやっと笑った。
——ここで書かれた言葉が、後に世界を動かすタイトルになることを、
まだ誰も知らなかった。




