初めてのCD計画
配信の終わり際。
光はコメント欄を眺めながら、のんびりとコーヒーを飲んでいた。
「どの曲を入れるのがいいんだろう?なんか希望ある?」
『やっぱ星空じゃない?』『それはそう』
『おもしろアレンジ系も欲しいよね』『草www』
『即興のやつ入れて!』『トークも少し残してほしい!』
『MCだけで1トラックほしいんだが』『DJ光爆誕』
光は笑いながら、マグカップを揺らした。
「いや〜、それはCDというよりラジオCDになっちゃうなぁ」
コメントはさらに加速する。
『せっかくCD出すならルナリアと一緒の曲とかどう?』
『夢のデュオを音源化!』『それはさすがに厳しいでしょww』
『え、ワンチャンあるのでは?』『マリ姐が止めなければ……』
光は「おお〜」と画面に近づく。
「なるほどね。ルナとやる曲かぁ。面白そうだね。あの人なら、即興でも合わせてくれそうだし。」
コメント欄が一気に湧く。
『やって!』『言ったな!?』『これアーカイブ残る?笑』
『これが後の“伝説の夜”の始まりである(予言)』
光はスマホを取り出し、メッセージアプリを開いた。
「じゃあ――“ルナ、今度CD作るんで、一緒に一曲どう?”っと。」
送信。
コメント欄がざわめく。
『今!?』『マネージャー止めて!』『またやらかす気配!』
『え、すぐに通知音聞こえたんだが!?』
⸻
♦︎数分前。
自宅で遥が慌ててスマホを握っていた。
「マリ、詩音さん!大変!光くんが配信で、CD作るとか勝手に言ってる!」
電話口の向こうで、マリ姐が低くうめく。
『……また、ね。』
「たぶん、思ってるよりもひどい!」
『え、どのレベルで?』
「もう、収録曲とかジャケットとか考え始めてる感じ!」
『……ちょっと待って、今つける!』
マリ姐は慌ててパソコンを開き、配信を開く。
画面には笑顔でスマホを掲げる光の姿。
「CD、ルナリアもゲストで出てくれるって〜!」
『……思った百倍ひどかった。』
額を押さえたマリ姐の横で、詩音が苦笑する。
「でも、この感じ、ちょっと久しぶりですね。」
マリ姐はため息をつきながらも、少しだけ笑った。
「元気になったのはいいんだけど、いきなり元気すぎよ……」
二人の笑い声が重なり、画面の中では光が「CD制作始動〜!」と叫んでいた。
⸻
♦︎さらに翌日
光の配信タイトルは『CDジャケット描いてみた!』。
画面には、無造作に広げられたスケッチブック。
そこに描かれていたのは——
丸、線、グラデーション、そして謎の笑顔の太陽。
「どう? 結構いい感じでしょ!」
コメントが一斉に流れる。
『……何これ』『味があr…ないか』『え、アート?』『太陽?怖いw』
『絵はダメなんだね』『才能の方向がちがうwww』『却下!(笑)』
「え〜!?アートは自由だよ!?」
『音だけにしておこう!』『自由にも限度がある』『逆にジャケットにしてほしい』
光は笑いながら頭をかいた。
「う〜ん、みんな手厳しいなぁ。
でも、まぁいっか!」
軽く肩をすくめて笑い、配信を切った。
その一言が、静かに誰かの胸に届いていた。
⸻
♦︎その夜
小さなアトリエ。
壁一面の油絵。
それでも足りず、床にもキャンバスが積み上がっている。
青、金、白、灰——どれも音を色で表した抽象画。
女性がひとり、タブレットの前で息を潜めていた。
画面には、光の「ジャケット描いてみた!」配信の映像。
彼の音がスピーカーから静かに流れている。
「光様、絵は描けないんだなぁ。」
彼女は筆圧を強めた。
キャンバスの上に、音の波が生まれていく。
SNSで彼女の名前を知る人は、まだ少ない。
誰もそれが“誰かの音”を描いた絵だとは気づいていない。
ただ、その圧倒的な筆致と色の響きに惹かれ、
少しずつ人々のあいだで注目を集め始めていた。
見る人は理由もわからず、ただその絵に“特別な何か”を感じ取っていた。
「……ジャケット、か。ちょっと送ってみよっかな。」
彼女は小さく笑って呟いた。
夜のアトリエに、タブレットから響いたピアノの余韻が静かに滲んでいた。
——そして、この夜描かれた一枚の絵が、
彼女と光をつなぐ最初のきっかけになる。




