再び前へ
夜。
静かな部屋に、モニターの光が淡く揺れている。
久しぶりに起動する配信アプリ。
指が「配信開始」を押す瞬間、ほんの少しだけ躊躇があった。
だが、ボタンを押した瞬間——
画面の向こうが、一気に光で埋まる。
『おかえり!!』『待ってた!』『生きてた!!』
『一週間、長すぎた!』『通知見て叫んだ!』
コメント欄が一瞬で流速を上げる。
その熱を見て、光は自然と笑っていた。
「ただいま。ちょっと、考えてた。」
少しの沈黙。
それから、ぽつりと続ける。
「音楽ってなんだろうなーって。
で、結論。……やっぱ楽しいのが一番だった。」
『それ!』『名言きた』『泣いた』『シンプルで最強』
『深い……のに浅い……のに深い……』『光くん語録更新』
笑いと安心が入り混じったコメントが画面を埋める。
⸻
光はゆっくりとピアノに向かった。
「じゃあ、今日は“ほどける夜”って感じで。」
指が鍵盤をなぞる。
柔らかくて、力が抜けていて、それでいて確かに前に進んでいる音。
部屋の空気がゆっくりとほぐれていく。
『この感じ久々……』『やっぱこの音』『心が軽くなる』
『泣くほど安心するの初めて』『帰ってきたなぁ』『自由の音ってこれだわ』
映像越しに見守るファンのコメントが、次第にゆっくりになっていく。
まるで全員が、同じ呼吸で聴いているようだった。
最後の音が消える。
光は笑って顔を上げた。
「うん、やっぱり音楽って楽しいね。」
⸻
演奏が終わったあとも、コメント欄の熱は冷めなかった。
『ルナリアのアルバム参加、ほんと?』『公式来てた!』『ニュース出てた!』
『夢の共演だね!』『コラボだけじゃなくて光くんもCD出してほしい!』『私もCD欲しい』『円盤ほしい!LPも希望』『サブスクもいいけど、手元に欲しいよなぁ。飾っておきたい』
光はモニターを見ながら、ぽつりと呟いた。
「……そういえば、俺ってCD出したことないよね。」
コメントが一瞬止まり——次の瞬間、爆発する。
『いwまwさwらwww』『逆に衝撃www』
『なんかCD出さない主義があるのかと思ってた!』『忘れてただけかいwww』
『早く出してwww』『なんか良い初回特典とかつけて!!』
光は吹き出した。
「CDとかいる?サブスクで聴けるじゃん。
てかCDプレーヤーとか、みんな持ってるの?」
『いるよ!!』『世代なめんな!』『円盤信仰なめんな!』
『パッケージがアートなんだよ!』『手に取れる音楽!』
『ほら、光くんの音“自由”だから物理で閉じ込めたいの!』
光は苦笑いしながら笑っていた。
「……自由を閉じ込めるって、なんか矛盾してるけどなぁ。」
でも、嬉しそうだった。
新しい何かがまた始まりそうな、そんな夜だった。
⸻
「——音が戻った夜。
それは沈黙の終わりであり、
新しい“自由の形”が生まれる夜でもあった。」




