オープニングアクトの打ち合わせ
「マリ姐ー!!!」
「アンーーー!!!」
スタジオの中で叫ぶ二人の声が重なり、空気が震えた。
その直後、場の中心に残されたマリ姐とアンが、ほぼ同時に深いため息をつく。
「……もう、この勢いのまま打ち合わせに入るしかないわね」
「そうですね……“現実”を追いつかせましょうか」
テーブルの上に資料とノートPCが広げられる。
セッションの余韻がまだ漂う中、世界ツアーの打ち合わせが始まった。
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♦︎オープニングアクトの構成会議
「で、オープニングアクトの構成を詰めたいのだけど――」
マリ姐が言いかけるより早く、ルナリアが明るく声を上げた。
「30分くらいあげる。3曲、もしかしたら4曲ね!」
「ちょ、ちょっと待って、まだなにも決まって――!」
マリ姐の声をよそに、ルナリアは光の方へ身を乗り出す。
「光、1曲くらい一緒にやりましょ! 今みたいに!」
「いいね」光は即答して笑った。
「なんかサプライズで入ってくるのとか面白そうじゃない?」
ルナリアが嬉しそうに頷く。
「じゃあ、最後の1曲で私が“サプライズゲスト”みたいに客席から歩いて行くの! あなたのファイナル見て、あれ絶対やりたいと思ったのよ!」
その瞬間、スタジオの空気が静止した。
周囲のスタッフがざわめき、誰もが「まさか」と顔を見合わせる。
「えっ……」
詩音が小さく固まり、アンは頭を抱えた。
「ルナリア、それは……危険すぎます!」
「危険?」ルナリアはきょとんと首を傾げる。
「だって、観客席で歩きながら歌うの素敵でしょ? それに彼はやってたわよ?」
「そういう問題じゃないのよ……!」アンの声が裏返る。
マリ姐もタブレットを握りしめながら叫んだ。
「客席って、5万人規模の会場よ!? どうやって歩く気!?」
ルナリアは肩をすくめて笑う。
「大丈夫! アンがなんとかしてくれるわ」
「“なんとか”じゃないです!! 警備ルート、照明、カメラ動線、全部再設計になるんですよ!?」
光は横で苦笑しながらも、どこか楽しそうに口を挟んだ。
「まぁまぁ。ルナが客席から歩いてくるの見ながら弾けたら、すごく面白いし盛り上がると思うよ」
「でしょ?」ルナリアと光が笑顔でハイタッチ。
二人の間で空気がまた弾ける。
マリ姐とアンが同時に深いため息をついた。
「この二人……息ぴったりすぎるのが一番の問題だわ」
「もうすでに"ルナ"呼びになってるのね...」
遥が呆れたように言った。
詩音は資料を見ながら冷静にまとめる。
「確認します――光さんがソロで3曲、そのあとルナリアさんが客席から登場して共演、約30分、でよろしいですか?」
「OK!」「うん、それで!」
二人の返事は、呼吸を合わせたかのようにぴったり同時だった。
アンとマリ姐は、ほぼ同時に頭を抱える。
「……決まっちゃった」
「ええ……もう誰にも止められませんね」
光とルナリアの二人は、すでに話は終わったものとしてその場を離れていた。
スタジオの奥、ピアノの前で笑いあい、もう次のセッションの準備を始めている。
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♦︎最中と似たもの同士の二人
しばらくして、奥のテーブル。
光とルナリアが並んで座り、たねやの餅入り最中を頬張っていた。
「アン! これ! すごい! すごく美味しい!!」
「でしょ? たねやは日本の老舗和菓子屋さんで、とくにこの最中が美味しいんだよ。」
「Amazing! あんこの中に“柔らかいお餅”が入ってる!最中もすごくパリッパリ!こんなの初めて!」
「ふふ、またお土産で持ってこようか」
アンが眉を押さえ、マリ姐が呆れ顔で肩をすくめる。
詩音がその様子を見て微笑んだ。
「こっちもこっちで、なんだか似ている二人ですね」
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♦︎ナレーション
「本来なら何週間もかけて詰める演出が、たった数分で決まってしまった。
でも、その軽さが、奇跡を呼ぶ速さでもあった。
――こうして、世界を繋ぐ“最初の一歩”は、
止まることなく走り出した。」




