転生したら音が聞こえすぎる世界
気がついたら、赤ん坊になっていた。
……いや、正確には「転生した」というやつだろう。
前世の俺は、ただの音楽好きのサラリーマン。仕事の合間にイヤホンで曲を聴き、たまにライブへ行く程度。演奏なんてしたこともない、ごく普通の人間だった。
死因? 知らない。記憶がすっぽり抜けてる。まぁ、どうでもいい。
問題は――新しい世界だ。
この世界、男女比が狂っている。男1に対して女50。
男は希少で「守られる存在」とされているらしい。年頃になれば精子提供の義務があるが、それさえすればベーシックインカムで一生食っていける。
逆に言えば、それ以上の役割は期待されないし、なんなら歓迎されないそうだ。
その結果、男性は極端に草食化し、やる気を失ってしまっている。
そしてもう一つ。俺自身の変化。
音楽のセンスが、異常に発達していた。
前世で聴いたすべての曲を正確に思い出せるし、曲の構造まで理解できる。
知らない曲でも、一度聴けばもう忘れない。構造ごと脳に刻まれる。
日常の音――時計の針、母親の声、雨音……それらが全部、勝手に「曲」になって脳内で流れ出す。
世界的に希少な男に生まれつつ、音楽に取り憑かれたような才能を手に入れた。
……これは、もしかしたら面白いことになるかもしれない。
赤ん坊の俺は、まだ小さな手を握りしめながら、そんな未来を夢見ていた。