玲とひまり、初めての夜の翌朝、甘々な出来事。
朝の光がカーテンの隙間から差し込み、静かな部屋を柔らかく照らしていた。外から聞こえる雀の鳴き声は心地よく耳元に響いて朝が来たことを告げていた。
ひまりは大きめの欠伸をしながら、ぼんやりと目を開けると、すぐそばにある温もりに気づいた。
玲の腕がしっかりと自分の腰に回されていて、まるで逃がさないように抱きしめられている。
(……昨日、夢じゃなかったんだ)
昨夜の出来事を思い出し、少し恥ずかしくなったが、玲から感じる温もりと共に実感が込み上げ嬉しさが込み上げてきた。
ひまりは少し伸びをした後、顔を少し上げて玲の寝顔を覗き込む。
普段はキリッとしている玲の表情が、今は穏やかで、スースーと小さな寝息をたてているその姿は、どこか子どもみたいに見えた。
「ふふ……玲ちゃん、可愛い……」
くすくすと笑いながら玲の頬に指を這わせたり、軽く頬をつついたりしていると、不意に玲が低く唸った。
「……起きてるぞ」
「えっ!? うそ、いつから!?」
咄嗟に離そうとしたひまりの手を掴んで自分の頬に手繰り寄せながら、玲はゆっくり目を開け、眠そうにひまりを見つめる。
「……お前がさわるからだろ」
そう言いながら、ひまりをさらに引き寄せた。
ひまりは体勢を崩し倒れ込むと、目の前には眠そうな目をした玲の綺麗な顔があった。鼻と鼻がくっつきそうなほど近く、自然と頬が赤らんだ。
「んもぉ~、朝から甘すぎるよぉ」
「昨夜の方が甘かったくせに」
「れ、玲ちゃんっ!」
ひまりが顔を真っ赤にすると、玲は満足そうに笑う。
普段はあまり表情を崩さない玲が、ひまりの前ではすっかり甘やかしモードになっていた。
頬を触る手は優しくて、だけど昨夜のことを思い出すと恥ずかしい。
「もう少しこのままでいよう」
「……玲ちゃんがそう言うなら、いいよ」
ぎゅっと玲に抱きしめられたまま、ひまりは再び目を閉じる。頭を撫で、髪を触る玲の手が心地よかった。
こんなに幸せな朝があるなんて、昨夜までは想像もできなかった。
玲の胸の鼓動を感じながら、ひまりはそっと微笑えんだ。耳元から再び聞こえる小さな寝息は、より一層今の幸せをかんじさせてくれた。
「玲とひまり、朝のちょっとしたハプニング」
どれだけ経っただろうか、玲の腕の中で幸せそうにまどろんでいたひまりだったが――
「……ん?」
ふと違和感を覚えた。
玲がしっかりと腕を回して抱きしめてくれているのは嬉しい。
でも、なんだかその腕の力が徐々に強くなっているような……?
「れ、玲ちゃん?」
返事がない。
「……もしかして、また寝てる?」
恐る恐る玲の顔を覗き込むと、普段クールなその表情がどこか無防備で、完全に熟睡している。
けれど、その腕はさらにぎゅうっとひまりの体を抱き寄せ、密着度はさらに増していく。
「ちょ、ちょっと……! 玲ちゃん、息できな――っ!」
もがくひまりをよそに、玲は寝ぼけながらぼそりと呟いた。
「……逃がさない……ひまり……」
「へ!? え、ええ~~~!?」
玲は完全に寝ぼけながらも、ひまりをまるでぬいぐるみのように抱きしめ続ける。
「れ、玲ちゃん!? ちょっと本当に……く、苦しい……!」
必死に玲の背中をぺしぺしと叩くと、ようやく玲が「……ん?」と目を開けた。
「……お前、なんでそんなに暴れてるんだ?」
「暴れるよ! 息できなくなるかと思った!!」
ひまりがぷくーっと頬を膨らませると、玲はまだ寝ぼけた様子で、少しだけ申し訳なさそうに目を伏せた。
「……悪い、無意識だった」
「もぉ~……でも、ちょっと嬉しかったかも」
「……は?」
「玲ちゃんが、寝てても離したくないくらい、私のこと好きなんだなって……えへへ」
そう言ってひまりがにこっと笑うと、玲の表情が一瞬固まり――
「……もう一回、寝るか」
「ちょっ!? 玲ちゃん!? またぎゅってする気でしょ~~!!」
今度は逃げようとするひまりを、玲がしっかりと腕の中に閉じ込めて、結局そのまま二度寝することになったのだった――。