2:狼に会った
ここがどこかなのか、何もわからないまま森の中を歩きつづける。
ただでさえ、狭い部屋だけで育った身体には体力がない。重い身体を引きずりながら歩いていると、突如目の前の草むらががさりと音を立てた。
草むらから現れたのは、イノシシのような魔物だった。その口からは、だらりと唾液がこぼれ、今にも噛みつこうと、爛々と光る目でこちらを見ている。
「うわ、くそ、このまま死にたくない!」
踵を返して、一目散に走る。後ろをちらりと振り返れば、せっかく見つけた獲物を逃すまいとまっすぐ追いかけてくるイノシシが見えた。
走り続けていると、大きな木の根に足を取られ、引っかかり転んでしまった。動けないロウに勢いよく、迫ってくる巨体に思わず目をつむる。
「(もう、だめか・・・)」
「こんなところに人がいるだなんて、珍しいですね」
背後から、澄んだ落ち着いた声がした。ふわりと香る甘い匂いに振り返ると、そこには灰色の髪を一括りにし、後ろに流した長身の男がいた。灰色の男は、手をかざして握りつぶした。巻起こった嵐のような風がイノシシの魔物を囲み、収縮するように切り刻む。血が吹き出し、しばらくもがいたあと、バタリと絶命した。
「ふう、大丈夫ですか?あなたはこんなところで何をしていたんですか」
「俺は、森で迷って・・・」
気づけばあたりは夕暮れになっており、人に出会った安心感か、疲労のたまった身体は簡単に意識を手放した。
「え、ちょっとまってくださいよ、私に運べって言うんですか・・・」
意識を手放す直前に聞こえたのは、灰色の男の呆れたようなつぶやきだった。
目を開いたらそこはふかふかのベットの上だった。少し視線を横にずらすと、離れた椅子で本を読んでいる灰色の男が目に入る。
「気が付きました?仕方ないので運びましたが、調子はいかがですか」
ロウの視線に気づいたのか、本からゆるりと視線をあげ声をかける。深い海のような瞳が印象的な男だった。
「運んでもらってすまない、手当までしてもらって・・・」
「構いませんよ、見る限り訳ありそうですが理由を伺っても?」
立ち上がって、ロウのベットの端に座り問いかける男に謝罪をする。
不思議そうな顔で覗き込む男に、助けてもらったからには説明が必要かと、うなづく。
「俺はロウという。どこかわからないが、貴族の妾の子として生まれた。魔力がないからと、君と出会った森に捨てられたんだ」
「なるほど、魔力もないし装備も前衛のそれではないのに、なんでだろうと思っていました」
ベットから身体を起こし、男と視線を合わせるように座る。いまさら気がついたが、男の頭にはふわふわの2つの耳が生えていた。
「あ、自己紹介がまだでしたね。私はアッシュといいます。ご覧のとおり、獣人ですね」
「獣人……、はじめてみた