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腐った悪役令嬢が腐った聖女ヒロインを分からせる話~沼には地雷がいっぱい編~

 私の名前は、ルビー。

 とある乙女ゲームの悪役令嬢と同じ立ち位置にいる、冷たい表情の長い銀髪に青い瞳の、高慢な美少女…という設定だった。

 つまりは私は前世の記憶持ちの転生者であり、前世でやっていた乙女ゲームの悪役になってしまったわけだが…ここは私にとっての現実世界なので、ゲームのいう通りにして悪役をやってたまるかという事で頑張った。


 途中までは私自身、貴族の生まれなので教育等はされているが運動はそれほど得意ではないという設定通り。

 だが、いざという時に頼れるのはこの肉体のみという事で筋肉を鍛え、魔法での肉体強化も習得し、ドレスの内側には隠し武器を仕込み、私直属の諜報部隊等を整えてはいたが、何かあってもこの身一つで全てを“解決”出来るようにしていた。

 だがそんな事実を知られれば、私の敵は慎重になるだろう。

 油断させるためにも、私はゲーム内の設定どおり運動は苦手な繊細な貴族令嬢を装っていた。


 そう、来るべき時のために!

 ありとあらゆるパターンを考慮し事前準備をするのは、私がゲーム内の悪役令嬢のようにならないためだ。

 バッドエンドルートの一つである幽閉・・・ゲーム内では他にも碌な結果にならないエンド多数だがその中の一つ、婚約破棄は全てに起こっていた。


 実はこの世界に転生してしばらくして、真っ先に変えたい未来の一つが婚約破棄だったのだ。

 つまりは、婚約破棄される相手の彼、公爵(今はまだ違うけれど)のエリオスが私は好きになってしまったのだ。

 現在、見かけだけではなく中身まで好きになった私は、婚約破棄される前に結婚してしまえという学生結婚をしてしまったのだ。


 というわけで結果としてゲーム内の予定よりも早く、夫であるエリオスと結婚した。

 予定よりも早かったため夫との関係をそこまで険悪感を無くしたり、私の家との険悪な関係の解消までは着手できなかった。

 だが、ここで私は終わるつもりはない。


「効率的に状況改善に着手。ゲーム内では婚約の状態でヒロイン聖女がこの家にいる…正確には、聖女として選ばれてしまうけれど、それはまだ先の話。でも、すでにその聖女ヒロインは“この屋敷”にいる」


 結婚してすぐの春休み。

 まとまった休日がある今、ゲーム内の学園生活が始まる前に、ゲーム主人公の聖女ヒロインとは決着をつけなければならない。

 私が出会ったこの家に引き取られた少女ショコラ。


 エリオスを血のつながらない兄と慕う、穏やかな微笑みに慈愛に満ちた美しく温かい優しい可憐な金髪に紫の瞳の少女、という設定通りの人物に今の所は見えていた。

 そして彼女が聖女として選ばれるのはもう少し先の話である。

 ゲーム内で描かれる通りの彼女に私は、陰湿な嫌がらせをする事になるらしい。

 

 それは嫉妬や他にも理由があるようだがその辺は割愛する。

 だがこの世界は、すでに私が結婚しているのも含めてゲームと同じ世界ではない。

 ならば現実の世界としてみるとすると…あまりにも彼女は“作りごとめいている”のだ。


 つまりは、『そんな都合の良さそうな女がいるわけないだろう』というものである。

 ストーリーの関係上そう設定されたとしても、ここが“現実”ならばそんな女が実在するとは思えない。

 ならば、“彼女の本性”はどんなものなのか?


「同じ人間相手だから一筋縄でいかないと思ったけれど、なかなか尻尾を掴ませてくれなかったわね。でも今日でそれは終わり」


 呟いて私は笑う。

 あの優しそうな見た目の裏で、私は、彼女が私を快く思っていないのは分かっていた。

 そしてふと零した言葉。


「…ルビーはお兄様にふさわしくないわ」


 メイドに零している所を私は偶然にも目撃してしまう。

 ショコラ、彼女自身もメイドも気づいていなかったが、たまたまドアの傍で私はそれを聞いていた。

 私を良く思っていない。


 ぞっとしながらも、すぐに情報をさらに重点的に集めた結果、私は幾つかの奇妙な点に気づいた。

 不可解な彼女の行動は、ゲーム内の断片で語られたものと同じ。

 それも違う方向に行きそうになると“意図的”にそちらに誘導している。


 そしてもう一つ、彼女が“何者”かを決定づけるような“証拠”を私は見つけてしまった。


「これはもう一度、腹を割って話しあうしかなさそうね」


 嘆息しながらも私は、彼女、夫の義妹でありゲーム主人公のヒロイン、ショコラの部屋の戸を叩いたのだった。







「あなた、“転生者”ね? このゲームを知っているタイプの」


 そう私が問いかけた瞬間、それまでどんな御用かしらとニコニコ笑っていた彼女の表情が消え、探るような目でこちらを見る。

 一皮むけばやはり、人間らしい面が出てくるわねと私が思っていると、


「なるほど、それはつまり…“貴方”も、ですね。ルビー様」

「ええそう」

「それで、それを暴いてどうされるおつもりですか?」

「私、婚約破棄イベントの存在を消し去りたいの。だから貴方が持つ悪感情について、聞こうと思ってきたのよ」

「それを正面から聞きに来ると? 私が本当の事を話すとは限らないのに?」


 目を細めて笑う彼女は、こちらの方がよほど悪役だと私は思いながら、


「調べはついているの」

「あら、どんな?」


 首をかしげて余裕めいて笑う彼女に私は、


「薄い本、イベント、ボーイズラブ、攻め受け・・・この辺りに覚えがある?」

「…」

「都合が悪いからって黙らないで、調べはついているわ」


 そう告げると彼女は笑顔のまま深くため息をついてから、


「やはり貴方も“同じ”だったのね」

「前世が愛好家という意味ではそうね。それでここからが本題だけれど、貴方、私の夫、つまりエリオスとこの国の皇太子フィス様のカップリングが貴方の中では最推し・・・違うかしら」

「…」

「沈黙は肯定とみなすわ」


 私の彼女は笑みのまま固まってから、次に目のあたりに手を当てて、笑い出した。


「あははは、よく分かったわね。この家の人や貴方には気づかれないよう、ゲーム内の可憐なヒロインを演じていたはずなのに」

「あまりにも、現実感のない女を演じ過ぎたのよ」

「そう、そう…。でもこれまで誰も気づかなかったのに。同じ転生者だから仕方がないのかしら」


 そういってひとしきり笑った後彼女は、


「ならばわかるでしょう? 私は最推しの幸せを真横で見ていたいの。そのためにも貴方は“邪魔”なの」

「私の夫で勝手に妄想は良いけれど、現実を改変しようとしないで」

「でも見たいし」

「自分の欲望に忠実ね。でもダメ。彼はあげない。私の物だもの」

「…でも、王子とのカップリング、よくない? 前世で嗜んでいたのなら、男同士の良さは分かるでしょう? 記憶がある転生程度でその趣味嗜好が変わるとは思えないわ。私のようにね」


 ねっとりと、獲物を絡めとろうとする怪物のように彼女は私に囁く。

 けれど、彼女のその言葉を鼻で軽く笑ってから私は、


「逆なのよ」

「何が? …まさか!」


 そこで彼女は気づいたらしい。

 そんな彼女に念を押すように私は、


「貴方と私は性癖が、受けと攻めのカップリングが逆なのよ! 私は…私は、夫みたいな“受け”が好きなの!」

「く…これは、戦争しかない」 

「でも戦争の前に話し合いで解決できることもあるわ」

「嫌よ、私は絶対に、お兄様が攻めじゃないと嫌なのおおおおお」 


 心の奥からの叫び声を彼女は上げた。

 どうやら交渉は決裂のようだ。

 相手は一歩も引く気はないようなのだから。


「残念だわ、私の敵に回るなんて。後悔するわよ?」

「悪役令嬢らしいお言葉ですね。ルビー様」

「強情を張るのは良くないわ。まあ私は婚約破棄にならないようにやらせてもらうわね、ショコラ様?」


 そうして私と彼女はにらみ合い・・・先に顔をそらしたのは彼女の方だったが、それで話は終わった。

 それから部屋を出てから私は、


「さて、交渉決裂した場合のプランCでも始めましょうね」


 そういって背を伸ばして、すぐに目的のために歩き始めたのだった。






 ちょうど、ルビーがショコラと話していた頃、エリオスはフィスと話していた。


「まさか君がこんな早く結婚してしまうとは。両家の仲の悪さもまだ解消していないのにね」

「…彼女が手に入るこの機会を逃すわけにいかないだろう」


 当然のように答えるエリオスにフィスが苦笑する。

 昔からの友人である堅物な彼だが、そんな彼の柔らかい部分に実の所あのルビーが惹かれていたのをフィスは知っていた。

 堅物だが、本心を隠すのが実は下手なのではという所は、そこそこの付き合いをしていれば分かるとフィスは思っていた。


 だからこんな早くに結婚した彼をからかうのと同時に少し思う所があったフィスは、少し意地の悪い事を言って見る事にした。


「それはそうだろうね。興味がないふりをして、その実いつも彼女を目で追っていたからね」

「別にそんな追っていたわけでは…」

「彼女を前にすると恥ずかしくて、好きすらいえずに、冷たい態度になってしまうと悩んでいたりね」

「…ルビーには言わないでくれ。それでは俺は格好の悪い男になってしまう」

「ぷっ」


 抑えきれずにフィスは笑ってしまった。

 彼なりに、理想的な魅力的な男であると、好きな彼女の前ではそうしていたらしい。

 背伸びしようとする友人を見ながらフィスは、


「良い事だとは思うよ。それにそろそろ両家の仲の悪さも打ち止めにして欲しかったしね」

「ああ、祖父の代に一人の女性を取り合った関係で仲が悪くなったという…昔は疎かと思っていたが、ルビーが他の男にとられると思うと、気持ちが分かってしまった」

「でも今は、取り合うどころか両想いだからね。それで、そろそろ彼女の“趣味”には気づいたかな?」


 フィスが、ルビーが聞いたらその言葉を二度とはけない程度にとどめを物理的にされそうな言葉を発すると、エリオスは表情を変えずに、


「ああ、最近女性の間ではやっているという男同士の・・・」

「そうそう、隠しているつもりだけれど、バレているんだよね。見て見た?」

「いや、そういうものには触れない方が良いだろうと思って見て見ぬふりはしている」

「そっかー。妹ちゃんも?」

「ショコラにもそういう趣味があるのは知っている」


 こともなげに告げてくるエリオス。

 同じ家に暮らしていればバレるかとフィスは思いながら、冗談めかして、


「そういえばショコラちゃん、彼女みたいに可愛い血のつながらない妹がいて…恋愛対象にならなかったの? 少しも」


 そのフィスの問いにエリオスは嘆息して、


「妹は妹だ。それ以上でもそれ以下でもない、ただの家族だ」

「…でもあっちはそうとは思っていないかも?」

「ショコラの俺を見る目は、恋愛のそれとは違うからな。…ルビーの物とは違う」

「あー比較対象が…」


 ショコラの隠したびーなえるの趣味嗜好についてすべて把握していたフィスは、説得力しかないなと頷いていると、


「だからショコラに対しての恋敵に俺はならない」

「なんのことかな?」

「いつも以上に分かりやすすぎるんだ」


 当然のように告げる友人にフィスは楽しくなりながら、


「君以外には気づかれなかったのにな…手伝ってくれる?」

「簡単にこの家に出入りできるようにしているんだ。俺が出来るのはここまでだ」

「口説くお手伝いは?」

「俺はルビーのことで恋愛関係は手一杯だから無理だ」

「そこまで追い詰められているのか。…仕方がない、自分で頑張るか、ああでも…この家の誰かにお手伝いを頼むのは良いかな?」

「その程度ならば」


 といった約束をしたフィス。

 後に、フィスと接触したルビーと取引したため、エリオスはしばらくルビーに相手にしてもらえず後悔することになる。







 なんやかんやで、私のプランCは成功した。

 途中、フィスから情報を仕入れるつもりが反対に罠にはめられて転生者関連の話を吐かされた挙句、私やショコラの、びーでえる、な趣味がバレているという隠し通せたと思っていたものがバレているという衝撃の事実を告げられて、気づけばショコラとの恋のお手伝いをさせられることになった。

 ちなみにこのフィスは、ゲームの記憶がある転生者とかではないらしい。


 このゲームのキャラ、怖い。

 そう思いながら、プランC修正版による、ほぼ私の筋肉による事態の解決と策略によってフィスとショコラはくっついてしまったらしい。

 そしてそれに私が加担したことがバレて、私の部屋に来たショコラが泣きながら悔しそうに、


「よくもやってくれたわね」

「あら、両想いでは?」

「両想いになるようにさせられたんだから、裏で糸引いたルビーという悪役が許せないの!」

「でも両想いなんでしょう?」

「そうよ! おかげで、おかげで、フィスが夫になったせいで、BLが…」

「妄想できなくなった?」

「逆転したの! だって、あんな、あんな、男らしくて雄みたいで、いつもと…」


 顔を手で隠して頭を振るショコラに、私は楽しい気持ちになりながら、


「そっか、大変ねー。言葉だけで応援するわ」


 趣味嗜好が同じになったわねと私は思いつつ、これでゲーム内の恋愛事情は起きないから婚約破棄にならないか? と思っていると、そこで私はショコラに腕を掴まれた。


「…仕方がないわ。もうすでに知っているゲームの世界ではなくなったけれど…」

「なに? まだ私を婚約破棄させる気?」

「気軽にカップリングが逆転するから現実を合わせられないって気づいた。だから妄想で我慢する」

「あら、賢明ね」


 余裕のある私に彼女はそこで、嗤った。


「手伝ってもらうわよ、ルビー」

「あら、何故私が手伝わなければならないの?」


 手助け程度は同じ転生者同士というのもあるし少しくらいならばいいだろうと私は思ったものの、これまでの件もありちょっと意地悪も込めて言ってみると、彼女はにたりと笑った。


「おかしいと思っていたの」

「何が?」

「カップリングが逆程度で、こんな状態なるなんておかしいと思ったの」

「つまり?」

「貴方、生物なまもの…実在の人物では萌えないタイプでしょう? だから物語の登場人物でしか萌えられない」

「…」


 思わず黙ってしまった私は、すぐにはっとした。

 これではそうだと、自分の性癖・・・いわば弱点をさらしているも同然である。

 焦ったがもうすでに時は遅かった。


「ここで耳寄りなお話があるの」

「き、聞きたくないわ」

「最近貴方、とある小説が気に入っているそうね」

「やめて、止めて」

「その中に、そう、エリオスとフィスに似たキャラクターが出ている、そうでしょう?」

「…何が言いたいの?」

「今度の私主催のイベントで、特設コーナー作ってみんなが集まって作りやすいようにしてあげる」

「つまり、この身の推し達の薄い妄想本が大量に手に入る、という事?」

「ええ、そして、貴方の働き次第で、次の開催も夢ではない…」


 囁く彼女に私は、


「…この世界に来てまでイベント開いたの?」

「なければ作るしかない、自家発電は必須でしょ」

「貴方の覚悟は分かったわ。それで何を?」

「もちろんこれからのゲームイベントをいい感じでフラグを折りながら、いい感じのエンディングに持っていくお手伝いをしてもらうの。貴方にとって悪い話ではないでしょう?」

「でも全部婚約破棄エンドでしょ?」

「何言ってるの? 普通に貴方も含めてハッピーエンドのルートあるでしょう?」

「え?」

「え?」


 そこでショコラが少し黙ってから、


「そういえばこのゲーム、15年前に流行って、リメイクされたって聞いたわね」

「え…」

「時間軸と世界、違うかもしれないわね。情報交換しませんか?」


 そして、新しい情報などを集めつつ私達は、自分に一番いい未来をつかみ取る事になったのだった。





「おしまい」

 

読んでいただきありがとうございました。気に入りましたら評価等をお願いします。作者が少し元気になります。

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