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魔王と勇者と魔王軍幹部共  作者: sazamisoV2
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エピローグ

 場所、ノースト王国城の中庭。

 天気、晴れ。

 気分、そこそこ。

 体調、あんまよくない。


 広場の中央に来たあたしは、ど真ん中に鎮座している石像の前でどっかりと胡坐をかいて座ると、太陽の眩しさに目を細めながら石像を見上げた。


「よぉガロっち。約束どおり、アイリス様が直々に水ぶっかけに来てやったぞ」


 そう声をかけてみるが、当然返事が返ってくることはない。


 隣に視線を移して、同じように声をかける。


「エリスも元気にしてたか――って、んなわけないか。胸を貫かれて平気な奴なんて、それこそどっかの魔王くらいのもんだろうしな」


 冗談めかして言うが、もちろん返事は返ってこない。


 魔王デスヘルガロンと勇者エリスが封印されてから一か月が経った。


 魔王が封印されたという話は既に世界中に広まっており、人族達は連日連夜、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。

 一か月経った今でさえ、ラッパや太鼓の音が響いてくる始末だ。


 そして、広まったのは魔王が封印された話だけじゃなかった。


 魔王様大好きクラブ。

 そんな珍妙な種族の名前もまた、世界中に知れ渡っていた。


 魔王が封印されたとはいえ、魔族達が王国に侵攻したという事実は大きな爪痕を残した。

 予想どおり平和条約は白紙、報復すべきという主張も当然のように出る始末。

 そこでやり玉に挙がったのはもちろん後継である魔王様大好きクラブだ。


 ガロっちが言っていたとおり、結局名前を変えたところで人族と魔族との因縁がなくなることはなかった――と、そう思っていたんだが。


 人族とはあたしが思っていたよりもずっと単純な生き物だったらしい。


 『人族と魔族との因縁』が『人族と魔王様大好きクラブとの因縁』に変わった。


 『魔族を倒せ』が『魔王様大好きクラブを倒せ』に変わった。


 『魔族は人族の敵』が『魔王様大好きクラブは人族の敵』に変わった。


 単に名前が変わっただけなのに、もはやギャグにしか聞こえない。

 その名前を出せば出すほど、人族達も大好きクラブと同レベルの面白集団に見えてきてしまうのだ。


 これはプライドの高い貴族や戦争推進派共には効果抜群だった。

 今や奴らの中ではその名前を出すことすらご法度と化していて、それに引きずられてか、報復しようという声も縮小の一途をたどっている。


 まぁ確かに『魔王様大好きクラブを倒しに行く』なんて、口に出すだけでお笑い種だからな。

 ここまで考えてこの名前にしたのなら、名付けた奴はとんでもない策士だろう。


 ともあれ、こうしてこの奇天烈集団の名前が浸透したおかげで、人族の元魔族への憎悪は薄まりつつあるのは確かだった。

 ガロっちが聞いたら泡吹いて卒倒するだろうけどな。


 そんな魔王様大好きクラブの面々は、あれから表に一切出てこない。


 ガロっち達が封印された後、幹部共はいつの間にか姿を消していた。

 外にいた魔族達も同様だ。

 助けようとするでもなく、別れを悲しむでもなく、怒りを露わにするでもなく、ただ忽然と姿を消した。


 それが、あたしの中でずっと引っかかっている。


 逃げた、どうしようもないと諦めた、魔王の意を汲んだ――そんな理由はいくらでも取って付けられるが、どうもしっくりこない。

 魔王一人のために名前や土地すら捨てて助けに来るような奴らが、そう簡単に魔王を諦めるとは思えなかった。

 何かしら企てがあるとしか思えないが――。


「……ま、なんかあったところで、なるようにしかならんしな」


 いずれにせよ、当事者達がいない以上、考えたところで答えなんて出ない。


 しばらく頭を空っぽにして二人を眺めた後、横に置いていた水入りバケツを持ち上げる。


「よかったなガロっち。あたしが尽くすタイプで」


 適当なことを言いながらバケツを振りかぶると、石像に向かって思い切りぶちまける――が、思った以上に勢いがついてしまい、ガロっちの頭に一極集中、クリティカルヒット。

 『どっぱぁん!』という音と共に派手な飛沫をあげながら勝手気ままに散らかって――。


 ぐら――ゴギン!


 石像が倒れた。

 しかも絶対に出ちゃいけないであろう鈍い音のおまけつき。


「あ、やっべ――はぁん!?」


 心臓が止まるかと思った。

 いや、多分一秒くらい止まった。


 ガロっちの首が根元から折れていた。

 そりゃもう綺麗にぽっきりと……。


「が、ガロっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!」


 魔王を倒した。二つの意味で。

 いやそんなアホなこと言ってる場合じゃない。


「どどどどど、どえらいことを――って……」


 それに気が付いた瞬間、引っかかっていたものが綺麗になくなっていくのがわかった。


 そして、さっぱりした気持ちと同時に湧き上がってくる、怒りとも苛立ちともつかない感情と、全身がむず痒くなるような火照り。


 気が付けば、あたしは空を仰いで笑い声をあげていた。


「ふふ、ふふふ、ぶははははははははははっ!やってくれたなぁクソったれ魔王が!」


 もげたガロっちの頭――その中身は、見事なまでの空洞だった。


――――――――――


 西の果て、誰も立ち入ることのない深い森の中。


 スコン、スコン、スコン――。


 切り株の上、適当な大きさの丸太を置くと、斧を振るって割っていく。


 単純作業なうえ、体力もいるし、時間もかかる。

 魔法を使えば一瞬で終わるため無駄と言えば無駄な作業なのだが、俺は心を無にして行えるこの一連の無駄が結構好きだった。


 キリのいいところで一息つくと、見計らったように一人の少女が近寄ってくる。


「お疲れ様です、ガロンさん。これ、飲んでください」


 ふんわりした笑顔を浮かべながら、エリスがコップを差し出してきた。


「ああ、ありがとう」


 丁度喉が渇いてきたため、最高のタイミングだった。

 早速受け取って飲んでみると、中身はキンキンに冷えたお茶で、力仕事で火照った体にあっという間に染み渡っていく。


 そんな様子を隣でニコニコしながら見ていたエリスだったが、周囲をぐるりと見回した後、俺の隣にちょこんと腰を下ろす。


 それから何を話すというわけでもなく、二人でただぼうっとしていると、隣から機嫌よさそうな鼻歌が聞こえ始めた。


 暖かな陽の光、木の葉が揺れる音、鳥の鳴き声、そしてエリスの優しい歌が混ざり合い、心地いい空間が出来上がる。

 歌の中身が『あぁ愛しのデスヘルガロン様~好き好き大好き魔王様~』なのは気になって仕方ないが――ともあれ平和な時間が過ぎていく。


 きりのいいところまで歌いきると、エリスは鼻歌をやめ、呟くように言った。


「アイリス様、気づかれるでしょうか……」


 何のことを言っているのかは聞くまでもなかった。


「そうだな。まぁ、遅かれ早かれ気づくんじゃないか、あいつなら」


「そう、ですよね」


 そう言って、エリスはしゅんと肩を落とす。


 あの日、エリスと幹部達に負け、俺とアイリスの計画は潰えた。


 だが、魔王デスヘルガロンがこの世界に存在し続ける限り、魔族と人族との争いがなくなることはない。

 結局これまでと変わらず、争いが続いていくことは容易に想像できた。


 だからエリスと共謀して嘘をついた。


 アイリスに――そして世界に。

 魔王は封印されたという嘘を。


 協力してくれと頼めば、きっとアイリスは頷いてくれただろうが――。


「……あいつは人族の幸福を心から願ってる。だからこっち側に来るべきじゃない」


 あの後、アイリスは魔王が封印されたことを世界中に喧伝し、長年続いてきた人族達の不安を瞬く間に取り除いた。

 この状況を、感情に流されることなく最大限に利用してみせたのだ。

 その手腕は、まさに為政者としてあるべき姿――人族を導く王としてあるべき姿だった。


 それに、なんだかんだ言いながらアイリスは優しい奴だ。

 直接口にはしなかったが、平和条約も魔族達を守るために最大限譲歩してくれた計画だったことは理解している。


 だが、人族を導く立場である以上、その優しさはいつか身を滅ぼすことになりかねない。

 だから、これ以上俺達に無為にかかわり続けるべきじゃないだろう。


 本人が聞けば『そん時はそん時だろ』とか言って笑い飛ばしそうだが――そんなことを言う奴だからこそ、余計な雑音を残したくないと思った。


「あまり気にするな。会おうと思えばいつだって会える。同じ世界に生きてるんだからな」


「……はい。そうですね」


 頷くと、エリスはまたふんわりと笑った。


 今回の件ではあの王女に色々酷いことをされたはずなのに、本当、優しい子だと思う。

 それだけアイリスを信頼しているということなんだろうが――その辺りの話はそのうちゆっくり聞かせてもらうとしよう。

 時間はいくらでもあるわけだしな。


「そういえば、そろそろ魔族達が来る頃なんじゃないか?」


 俺達が今いるこの森は、未だ誰も足を踏み入れたことのない未開の土地。

 俺とエリスはここに魔族と人族とが手を取り合って暮らせる場所を作ることにした。

 まぁ今のところは焼け野原になった魔族領地の代わりになる土地を探すという意味合いが強いのだが……。


 さすがに住めるかどうかもわからない土地に最初から大量の魔族を連れてくるのは現実的じゃないので、俺とエリスで先んじて森を調査していたのだ。

 結果的に住めることがわかったので、魔族達を集め、本格的に開拓を始めようと思っている。

 連絡係のニアを向かわせたのが数日前なので、そろそろ到着してもおかしくない頃だろう。


 するとエリスはまるで子供に言い聞かせるように、人差し指を立てて言った。


「ガロンさん?何度も言っていますけど、『魔族達』じゃありません。『魔王様大好きクラブ会員達』です」


 その名前を聞いた途端、全身の力が抜けていった。


「な、なぁエリス。その……本気なのか?」


「何がですか?」


 ニコニコしながら聞き返してくるエリス。

 この眩しい笑顔に負けてしばらく明言は避けていたが、いい加減はっきり伝えておいたほうがいいだろう。


「その、魔王様大好きクラブって名前だ。なんというか……さすがに頭が悪すぎやしないか?格好悪いというか、情けないというか……」


 噂によれば、魔王様大好きクラブの名は既に世界中に広まっているらしい。

 それだけでも涙が溢れて止まらないのだが、どういうわけか受け入れられつつあるというのだ。


 魔族が必要以上に怖がられなくなるのはいいことだと思うが、さすがに俺が辛すぎる。

 せめて俺個人を連想させる単語が入っていないものに――と、そこでエリスがだんまりになっていることに気付く。


「エリス?どうし――」


 視線を向けてみると、エリスは俯き、膝のところで拳をぎゅっと握って、わなわなと肩を震わせていた。


 あぁ、やっちゃってんなぁこれ……。


 すると、エリスは沈んだ声でぽつりと言った。


「すみません……頭悪そうな名前、付けちゃって……」


「……………………」


 そうか。

 どうせ幹部のうちの誰かが付けたんだろうと思っていたが、エリスだったのか。

 言われてみれば会員ナンバーもエリスが1だったしな。なるほどなるほど――。


「え、あっ、が、ガロンさん!?自分に斧を向けてどうするつもりですか!?」


「離してくれエリス。俺のこの考えなしの頭を割ることによってお前への謝罪とするんだ」


「そんな猟奇的な謝罪いりませんよ!冗談ですから!全然怒ってませんから!」


 その言葉に斧を下ろすと、エリスはほっと息をついた後、「ふふっ」と笑った。


「前に約束したじゃないですか。言いたいことがあれば何でも言うって。気を使われる方が悲しいですから」


「……あぁ、そうだったな」


「でも、ガロンさんのそういう生真面目なところも、わたしは大好きですけどね」


 そう言って、右手の人差し指を口の前で立て、ぱちりとウインクするエリス。


 からかわれているとわかっているのに怒る気にもならないあたり、俺は死ぬまでエリスに勝てない気がする。


「あのな――」


 言い返そうと思って口を開きかけると、遠くから叫び声が聞こえてきた。


『魔王様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!どこですか魔王様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』


『品がないわよデルゼファー。もっと敬意を込めなさい。『まおうさまはぁん!』ってね』


『あっは!ルルっちの声マジできもーい!ゴミみたーい!』


『あ?』


『が、ガルっちぃ!顔面蒼白鬼女がいじめてくるよぉ!』


『誰が内面腹黒毒女ですってぇ!?』


『あらあら』


『『取り乱して』、ルルヴィゴール。『外面』も『汚い』よ』


『なんですってぇ!?』


『ひぃ!?』


 そんな騒がしいやり取りを聞いて、俺とエリスはどちらともなく笑い合う。


「では、行きましょうか。魔王様?」


「そうだな、勇者エリスよ」


 差し出された手を取ると、俺はエリスと並んで歩き出すのだった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

これにて『魔王と勇者と魔王軍幹部共』完結となります。

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