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魔王と勇者と魔王軍幹部共  作者: sazamisoV2
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勇者と妖魔とおくりもの⑫

 呆れる俺を見て悪びれる様子もなくくつくつと満足そうに笑うと、アイリスは机の上に置いてあったとあるモノを手に取った。


 リボンを解き梱包を破かないよう丁寧に開けると、中から白い小箱が姿を現す。

 両手で持って上下に開けば、小指の先ほどの大きさの可愛らしいペンダントが顔をのぞかせた。


 それを手に取って優しい目つきで眺めながら、アイリスは呟くように言う。


「しっかしまぁ、魔族を連れて何してんだとは思ってたけど……さすがに仲良くプレゼント選びとは思わなんだな」


 アイリスが持っているのはエリスがニアと選んだプレゼントだった。

 さっき帰りがてら渡していったものだ。

 誰にあげるんだろうとは思っていたが、まさか王女だったとは。そりゃ気も遣うってもんだ。


「なんだ。エリスが裏切ろうとしているとでも思ってたのか?」


「んなわけないだろ。そもそも、あの真面目が剣持って歩いてるような奴にそんな真似出来ると思うか?」


「……無理だろうな」


「だろ?でも、だからこそ驚いた。そのエリスが魔族と――魔王と繋がってるなんてな」


「知っていたなら、どうして放置している」


 エリスの心を読んでいたのなら、おそらく相当前――それこそ、俺とエリスが友人になった頃から関係を知っていたはずだ。

 それを放置しておくのはリスクでしかないだろう。

 

 すると、アイリスはあっけらかんと答えた。

「簡単さ。あたしは誰よりもエリスを信頼してるんだ。国民全員があたしを裏切ろうと、エリスだけは裏切らないって言い切れるくらいにはな」


 国を導く者の言葉としては浅慮と言わざるを得ない理由。

 だが、それを否定する気持ちは少しも湧いてこなかった。

 多分、俺がアイリスだったとしても、同じことを言っただろうから。


「そんなあたしに秘密にしてまで魔族と関係を持ったってことは、必ず理由があるはずだって思った。そんで――ガロっちに直接会ってみて全部繋がった。まさか、魔王が部下一人を助けるために敵の本拠地に乗り込んでくるようなおバカさんだったなんてな」


「俺も、こんな頭の悪そうなことを言う奴が敵の大将だとは思っていなかった」


「ぶはは!違いない!」


 恥じらいなく派手に笑った後、アイリスはペンダントを光にかざして色んな方向から覗き見ながら言った。


「なぁ、ガロっち。魔族と人族は手を取り合えると思うか?」


「無理だな」


 俺の答えを聞いたアイリスはくつくつと笑う。


「即答かよ。聞いたあたしが言うのもなんだけど、ガロっちなら出来るって答えるもんだと思ってたんだけどな」


 出来ると言いたい気持ちはある。

 だが、気持ちだけではどうにもならないこともある。


「お前は出来ると思うのか?」


「ま、無理だろうな」


「聞いてきた分際で即答するな」


「だって無理だろ。あたし達の戦いはそれこそ数万年前から続いてんだ。そんなもんを、たった十数年しか生きてないあたしにどうにかできるわけがない。それに、国王代理っつったって、なんでもかんでも好きに決められるわけじゃあないしな。ガロっちならわかるだろ?あたしの気・持・ち」


 大きく息を吸い込み、「はぁぁぁぁぁぁんぁんぁんぁっと……」とため息(?)を吐き出してからアイリスは続けた。


「みんながみんな、エリスみたいに優しいわけじゃないからな。無理なもんは無理だし、無理矢理従わせようとしても結局無理ってなるし、そうやって無理がたたれば最後は無理を押し付けた奴に全部跳ね返ってくる。無理強いはするほうもされる方も疲れるだけだ」


 ふっと諦めたような笑みを見せた後、アイリスは椅子から立ち上がると俺の目の前まで歩いて来る。


「なぁガロっち。もう一つ聞いてもいいか?」


 さっきまでと同一人物とは思えない真面目な表情をするアイリス。

 さすがに与太話をするためだけに俺を残したわけじゃなかったようだ。


 目だけで頷いて返すと、アイリスは神妙な様子で言った。


「そうか――じゃあ突然ですがここで問題です!ちゃらーん!今までの会話であたしは何回『無理』って言ったでしょーかっ!?」


「何だって?」


 本当に突然だったので頭がまったく追いついていかない。

 真面目どころか不真面目の極みみたいな質問だった。


 まさか、さっきまでの真面目なやりとりは全部これをしたいがための前振りだったってのか。

 どういう神経してんだこいつは。芸人かな?


 さすがにここまでくると呆れよりも苛立ちが上回り、自然と語気が荒くなってしまう。


「勝手にやってろ。俺はもう帰らせてもら――」


「正解者にはなんと!勇者エリスの好きな食べ物を一つ教えちゃいまーす!」


「七回!七回だ!」


「ファイナルアンサー?」


「ファイナルアンサーだ!」


「んんんんんんっ……ざんねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!正解は九回でしたっ!」


「九回!?馬鹿を言うな!記憶を掘り返して数え直したんだぞ!」


「ノンノン!あたしのクソでかい溜息の前まではカウントしてないんじゃあないか?」


「なん、だと……!?」


「ぶはは!通常ありえないクソでかい溜息を途中に挟み込むことで意識を逸らす――罠だよ、罠!ガロっちはまんまとあたしの仕掛けた罠に嵌まっちまった――略して『ガロっちまった』ってわけだ!ぶは!ぶはは!ぶはははははは!」


「くそったれがぁ……!」


 拳を握りしめ、怒りを抑え込み、敵の罠に嵌まった己の無力さを悔いる。

 魔王デスヘルガロンともあろう者がこんな陳腐な罠に引っかかるなんて末代までの恥――っていやいやいやいやいや違う違う違う違う違う違う一体何をやってるんだ魔王デスヘルガロン。

 エリスの好物を知りたいのは山々だが本気で悔しがるとかさすがに馬鹿すぎるだろう。


 駄目だ。こいつとこれ以上話していると頭がおかしくなってしまいそうだ。


「いやはや、ガロっちと話すのは楽しいな。ノリも良いし――ってあぁちょっと待てよ」


 無言で帰ろうとすると、アイリスが引き止めてくる。


「なんだ。もうお前の話は聞く価値も――」


「あたしと手を組まないか?」


 さすがに聞き捨てならない言葉だった。


「……どういう意味だ」


「別に、そのまんまの意味だ。あたしとガロっちで手を組んで、本物の争いのない世界を作ってやろうじゃあないか」


「…………」


 確かにそれぞれの種族の代表である俺とアイリスが手を組めば形式上は争いを止めることができるだろう。

 だが、それでは何の解決にもならない。


 水と油はどれだけかき混ぜたところで混ざり合ったりはしない。

 結局どこかで不和を生み、不和は綻びとなって蓄積し、それがいつしか火種となって再び争いが始まるのだ。

 そんな悲惨な光景を、俺は幾度となく目にしてきた。


 言い返す前に、アイリスは続けた。


「ガロっちの言いたいことはわかる。国のトップが手を取り合ったところで意味なんてないことは百も承知だ。でもそうじゃない。あたしが言いたいのは国と国とで協力しようってことじゃあない。あたしとガロっち、二人だけで手を組もうってことだ」


「だったらなおさら意味がわからない。たった二人で何ができるっていうんだ?」


「たった二人で休戦条約を作った奴がそれを言うのか?」


「…………」


「休戦条約はいずれ破綻する。魔王と勇者が決着をつけずにいつまでも戦い続けるなんてのは不可能だ。魔王を倒せなければ、エリスはいつかその責任を負わされる。ガロっちだってそれはわかってるだろう?」


 今ある休戦条約はかなり危ういバランスの上に成り立っている。

 だからアイリスの言っていることは正しい。

 それは俺も、そしてエリスもよくわかっていることだ。


「でも、あたしとガロっちなら、休戦なんてちゃちなもんじゃあない、永遠に続く『平和条約』が作れる」


 『ちゃち』という言葉に少なからぬ苛立ちを覚えた。

 エリスが命懸けで作ったものを馬鹿にされたような気がしたからだ。


 そんな俺の苛立ちに気付いていながらも、アイリスは相好を崩すことなく続ける。


「エリスは勇者で、あたしは王だ。知ってることも、持ってるものも、やれることも、使える駒も、何もかも桁が違う。そして何より、あたしには心を読む力がある。これがあればどんな相手だって――」


「もういい。お前の言いたいことはよくわかった」


「そうか。それじゃあ――」


 そう言って手を差し出してくるアイリスに、俺ははっきりと告げた。


「俺はお前とは手を組まない。他の誰とも手を組むつもりはない。俺が手を組むのはただ一人、『勇者エリス』だけだ」


 アイリスは何も言わなかった。

 ただじっと俺の目を見つめている。


「確かにお前の言うとおり休戦条約はいずれなくなるだろう。だが、もしそうなったとしても、俺はエリスと一緒に別の道を探す」


 すると、アイリスは殊更いやらしい笑みを浮かべて言った。


「いいのか?あたしと手を組めば、エリスを勇者っていう重荷から完全に解放してやれるんだぞ?」


「どういう意味だ。いくら国王代理だろうと、そんなことできるわけが――」


「できるさ。あたし――いや、『わたし』なら。国王代理だからとか、王女だからとかじゃない。『わたし』だからできる。『わたし』にしかできないことだ」 


 そう断言したアイリスの顔は、さっきまでのにやけ面でもなく、人を小馬鹿にしたような薄ら笑いでもなく――絶対的な自信に満ち溢れた、まさに『勇者』のようだった。

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